第一話◎救水と弟子:その4
*
──是非、御二方を実演会に招待したい。
ハマジャックは、《
「……先生」
「何ですか、サヨナくん」
「かなり前から、考えていたことがあります」
「ほう。しかしそれは、ハマやん氏の勇姿を見届けてからでも構いませんかね?」
「いや……まあ……いいですけど」
来賓客は事前に聞いていた通り、諸国の王族や貴族、そして豪商
が、シコルスキは騎士の晴れ舞台が気になるのか──
「それにしても……本当に二度目を行うんですね。周囲の方々の視線が、何というか……
「一度はハマやん氏も失態を犯していますからね。今回はそれを
「……やっぱり先にわたしと話しません?」
「ははは、子供じゃないんですから、少しは我慢して下さい。後でいくらでも聞きますよ」
会場となるのは、まさかの城内──それも玉座の間だった。まさしく王の御前で、『パージ・アーマー』の性能を披露するのだ。もっとも前回披露したのは、ハマジャックの子ジャックだったわけだが──今回は違う。
試着した《
その姿をサヨナは見たくなかったので、自室でやり過ごしたのだが、その後シコルスキ邸で響いていた「フゥ!」という甲高い声は、恐らくあの《
ともかく、《
「おや──王がやって来ましたね。そろそろですか」
玉座に王がゆっくりと腰掛けると、何だか儀礼的なものが始まった。いきなり披露するのではなく、ある程度茶番を挟むのだろう。随分と間延びした退屈な展開であるが、それは周囲の人間にとっても同様だったらしい。「前見た」と、そんな声がぼそりと聞こえた。
やがて、騎士の一人が声高く叫ぶと、玉座に向かって、漆黒の
「たまりませんねえ。あの
「さらっと私を制作者の一人にいれないでくれませんか」
ハマジャックは緊張した面持ちで、剣を王へと
一方、前回も出席していた者
そして────運命の時。
「我が王よ。これが、我ら『チャース・ノーヴァ騎士団』が
ガチャリ、ゴトッ──次々と、ハマジャックの
──
ピッチピチの《
小柄なサヨナでようやくジャストサイズだった《
この場から言葉という言葉、声という声、音という音が取り払われたかのように思えた。圧倒的静寂……それを斬り裂くようにして響く、バチィィン。
「あふッ」
おっさんの
「死刑」
無慈悲なる王。
「
しゃしゃり出る師。
「いや分かってたことじゃないですか! あれわたしで丁度いいサイズだったんですから、あのアイスマンが着たら大惨事になるってことは!」
この展開を読み切っていた弟子。
それぞれの思惑と言い分が混ざり合い、
死罪を言い渡されたハマジャックに対し、武器を構えた騎士
「王よ!! 祖国を愛し、祖国に尽くし、
「貴公がそのような愚劣な男だとは、我が
とは言っているものの、ハマジャックは《
「──賢勇者殿、サヨナ氏」
「うわこっちきた!」
「何でしょう、ハマやん氏」
片腕で騎士をぶん殴ってぶっ飛ばし、突き出された刃を後ろ手で
「
「何言ってるんですかこの人」
「《
「この礼は、いつかどこかで、必ずッア、そこッ、もっとッ」
「求め始めましたけど……」
「礼を言われる程のことは、僕には出来ませんでした。せめて、《
「サイズ差っていうか……そもそもの話なんですけど、多分この《
ぼそっと指摘した弟子に対し、師は目を見開いた。元騎士は大体の敵を
「どういうことオォン!」
「寄るなぁ! いやだから、最初から疑問だったんですよ! これ、男女兼用とは到底思えないんです! どう考えても、その……胸元とか股の辺りとか、男性には向いてない作りですし!」
「すいません、聞こえませんでした。胸元と……股?」
「完全に聞き取れてますよね!? つまり、そこのアイスマンを見れば分かるでしょう! 普通、男性がそれを着たら、はみ出るんですってば! そんなのおかしいじゃないですか! だからそれ、女性用なんです!」
「…………!! バカな……!?」
「バカだと思いますけど……」
《
シコルスキはそれを知らずに、女性用を男女兼用で運用していた。結果として、ハマジャックの左右非対称が露見することになり、ようやくその事実に気付いたという皮肉。
シコルスキは膝をつき、頭を抱えるようにして落胆した。
一方、最初から言いたかったことをようやく言えたので、サヨナはちょっと満足だった。
「……ハマやん氏。僕は──」
取り返しの付かないミスをしてしまった──そう考えたシコルスキに対し、ハマジャックは片手を突き出して賢勇者の謝罪を制した。
「ご安心めされよ、賢勇者殿。
「サヨナくんのお下がり《
「ここぞとばかりに変な
「むしろ──これが
はにかんでみせるハマジャック。どちらからともなく、二人の男は固い握手を交わした。
己の間違いを認め、
相手の間違いを許し、その上で
早く逃げないとガチでヤバイと、警鐘を鳴らし続ける弟子。
──こうして、《
余談だが、この騒動は一国の騎士が一人で反乱を起こし、国そのものに大打撃を与えた、歴史上類を見ない大事件として後世まで語り継がれていくのだが──
その原因の一端に賢勇者とその弟子が
《第一話 終》
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