ドキドキ!肝試しスタート!⑤

「間違いない、彼は屋根裏にいる」

そう主張する常史江に、裏山は当然の疑問を投げかけた。

「何故そんなことがわかる。お前ら奴の姿を見なかったんだろ?」

常史江は裏山の前に無言で右手を差し出した。その手の中には小型の黒い電子機器が握られていた。スクリーンにはレーダーのような画面が表示されている。

「これは生命探知機だ。呼吸や拍動を探知出来る。たった今上からの信号を捉えた。虫やネズミのものではない。人間のものだ。意識を失っているのか、微動だにしない。だが生きているのは間違いない」

「何だと?じゃあ俺が洗面所に行ってる短い時間の間に田畑をその場まで攫ってった奴がいるはずだ。そいつはどこにいる?そいつは探知されないのか?」

「それなんだが、彼と俺達三人以外の呼吸や拍動は探知できない。精々探知できるのは虫達の小さい呼吸くらいだ」

となると、この家に巣食う悪霊の類が彼を屋根裏まで攫っていったのだろうか?クソッ、やはり自分がここに着いた時に見たのは気のせいではなかったのだ。あの時に否が応でも皆で引き返しておくべきだった。千佳は心底後悔した。

「チッ!どうやら『出る』っつーのは法螺話じゃあなかったようだな」

「それにしてもどうして田畑が…。裏山、アンタたち何か幽霊を刺激するような事したんじゃないだろうね?」

「!?…し、知らねえなぁ?」

そう言って裏山は右腕の袖口を引っ張った。完全に目が泳いでいる。怪しさ満点だ。裏山はその場を取り繕うように咳ばらいを数回すると、突然、真剣な眼差しになって呟いた。

「まあ、とにかく奴の居場所がわかれば十分だ。お前らはとっととここから逃げろ。ここは危険だ。俺は奴を救出してくる。こうなったのは俺の責任でもあるからな。ケツは俺が拭く」

そう言うと裏山は両手の手袋を外し、猛然と部屋から飛び出した。

その直後、彼は肩を後方から掴まれて動きを静止された。

振り向くと、肩を掴んでいたのは常史江だった。

「何一人でカッコつけようとしてるんだよ。君だけじゃあ荷が重そうだ。俺も同行しよう」

「…ふん、お好きにどうぞ」

裏山は僅かに口端を上げた。

田畑救出作戦開始である。


ゴミでとっ散らかった廊下を進んでいくと、千佳達は屋根裏へ進むための収納梯子を発見する事に成功した。見つけるまで少々時間を費やした。まるでちょっとしたからくり屋敷だ。

「気をつけろよ二人共、奴は田畑を囮にすることで俺達をここに誘っている。殺る気満々といったところか」

「百も承知だ、そんな事は」

常史江、裏山、千佳の順番で昇降用の梯子を上り、辺りをライトで照らして確認してみると、どうやら屋根裏は物置になっているようだ。数本の棟木の他に、埃を被った不用品や塵芥が視界に映った。天井は高く、屋根裏部屋でも作れそうな位の面積があった。

田畑はどこだろうか?そう思っていると千佳の背後でギシギシと軋むような音が鳴った。振り返ると、先程の梯子が誰の手も介さず折りたたまれ、自動ドアの如く扉が閉扉した。慌てて千佳が開けようと試みたが、得体の知れない力が働いているのか、びくともしない。

「諦めろ、幽霊の野郎をぶっ倒せばそれも開くはずだ」

千佳は裏山の言う通り、扉から手を放した。

その後、三人が懐中電灯を頼りに進んで行くと、床に何者かが横たわっているのが見えた。裏山がしゃがみこんで光を当てながらそれの様子を確認した。

「田畑か?いや…こいつは違う。誰だこいつは…わおっ!」

裏山がもんどりうって後方にぶっ倒れた。

「どうしたんだい?」

「なんてこった、死体だ…!」

「ああ、しかも一人だけじゃないようだぞ」

常史江が光を照らした方に目を向けると、彼の言葉通り合計3人、いや4人の遺体が転がっていた。いずれも衣服を着ているが、腐敗と白骨化がかなり進行していた。

「誰なんだこいつら?俺達みたいな遊び半分で見学に来た奴らか!?」

「さもありなん、大方彼らも幽霊さんの怒りに触れたんだろうな」

何という事だ。ここは想像の100倍はヤバい所だった。一刻も早く田畑を救出してここを脱出しなくては…。

千佳は闇の奥の方に何かを発見した。小柄な体格に黒い短髪、すぐに田畑であることがわかった。彼は俯せになって床に伏せている。

「い、いた!田畑だよ!」

千佳が彼のもとへ駆け出そうとした時、常史江に腕を掴まれて引き止められた。

「待て、罠だ」

その瞬間、彼女の視界を右から左へと猛スピードで何かが過ぎ去って行くのが見えた。その何かは、左側の壁に激突してやかましい音をたてた。

『何か』の正体は亜鉛メッキのスチールラックだった。もしも常史江に引き止められなかったら致命的なダメージを受けていたであろう。

突如、まるで地響きのように家全体が振動し始めた。三人は立っていられなくなり、その場にしゃがみ込んだ。屋根裏のあらゆる物体がガタガタと音をたてながら宙に浮き始め、ポルターガイストさながらに彼女たちの周囲をぐるぐると浮遊しながら狂喜乱舞した。裏山が金切り声で叫んだ。

「なっ、なんかとてつもねえ事になってるぞ!」

「ああ、そしてお出ましのようだ」

常史江が前を指差した。

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