ドキドキ!肝試しスタート!④

「常史江と遠井の奴ら、今頃よろしくやってんじゃねえだろうな」

裏山がさびれた部屋の中で、床中に散乱したゴミに目をやりながら言った。どうやら残留物の他にも、不法投棄された物も混じっているようだ。エロ本だのビールの缶だのが打ち捨てられている。

「こんな廃墟でおっぱじめる酔狂な奴がいるかよ」

田畑が懐中電灯で部屋の様子を伺いながら呆れ気味に返答した。どうやらベッドなどがあることから、この部屋は寝室らしい。シーツには、赤黒い染みのようなものがこびりついており、気味が悪かった。

急に妙な音が聞こえたので振り返ると、裏山が手袋をはめた手で乱雑に押し入れをこじ開けていた。

「おいなにやってるんだよ」

裏山は首をこちらへ向けると言った。

「見ての通り物色だよ。何かレア物が見つかるかもしれねーだろ」

彼の傍へ寄り中を覗き込むと、古いレコードや写真アルバム、布布団などがあった。どれも埃をかぶっていたり、蜘蛛の巣が張ったりしている。田畑は若干気が引けたが、赤色のアルバムを手に取り、ぺらぺらと中を見てみた。裏山は気を引くものがなかったのか、既に押し入れから離れ、ベッド横の小物入れをあさっている。アルバムの中身は一人の女性の成長記録のようだった。映っているのはここに住んでいた女性だろうか?黒髪の、なかなか見目麗しい女だった。こりゃ美人薄明だな、田畑はそう思った。

「おい田畑、これ見ろよ」

裏山に呼びかけられアルバムを閉じて振り返ると、裏山がしたり顔で右腕を見せつけてきた。その手首には金色のブレスレットが装着されていた。

「い~いもん発見しちまったぜ!まだ全然いけてるな。これあれだろ?ブル、ブルガリア?」

「ブルガリだろ。ヨーグルトじゃないんだからさ。まさか持って帰る気か?バチ当たるぜ?」

「ふんっ、幽霊なんざ俺様の右手で成仏…」

その時、部屋の外からバリン!という破砕音が鳴り、二人は同時に表情を強張らせた。田畑はごくりと唾を飲み込むと言った。

「な、何の音だろうか」

「知るかよ。ゴキブリだろゴキブリ」

「ゴキブリがあんな音出すかよ。多分洗面所の方からかな?」

田畑はラップ現象という言葉を思い出した。誰もいない空間からいきなり不可解な音がなるという、心霊現象の一つとも言われているあれだ。今の音はそれではないだろうか。まさか自分たちのデリカシーに欠けた行動が、幽霊の不興を買ってしまったのだろうか?

「なあ、見てこようぜ?」

危機感というものが存在しないのか裏山がそう持ち掛けてきたが、田畑はかぶりを振った。彼の本能が危険信号を発していた。

「けっ。ビビりだなあお前。じゃあ俺一人で行くからよ。俺がいない間怖くてションベンもらすんじゃねーぞ」

裏山は小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、ロングコートを引きずってへらへらしながら部屋の外へ出て行った。

田畑は彼を置いて千佳達の元へ向かいたくなったが、そうもいかないので押し入れの中断に寄り掛かってもう一度アルバムを開こうとした。

次の瞬間、上半身が後方に凄まじい力で引っ張られた。叫び声を上げる間もなく田畑は押し入れに引きずり込まれると、扉がひとりでに静かに閉まった。

部屋の中に静寂が訪れた。


「待たせたな田畑。音の正体はコップだったぜ。何でか知らねえが洗面台の上にあったコップが落ちたらしい…。ありゃ?」

裏山は部屋を見回したが田畑の姿はなかった。押し入れの扉は閉まっている。

「あのヤロウ、俺をほったらかして常史江の奴の所に行きやがったか?いや、それにしては妙だな…」

裏山は押し入れのすぐ傍まで寄ると床に転がっている、『ある物』を拾い上げた。それは田畑の懐中電灯だった。電源はONになっている。普通、この暗さで懐中電灯を手放そうとは思わないだろう。

…よっぽどの事がなければ。

ダメ元で押し入れを開けてみた。しかしあるのは先程と同じ残留物だけだ。

「おい田畑!どこ行った!」

裏山は危機を察知したのか、血相を変えて大声を張り上げた。だが、やはり返事はない。面倒な事になったかもしれない。別行動をとったのは大チョンボだったか。

「アンタ何騒いでんのさ」

声を聞きつけたのか、廊下から部屋の中に千佳と常史江が入って来た。裏山は彼らに詰め寄った。

「おいお前ら田畑の野郎見なかったか!?」

「いや、見てないが。君と一緒じゃあなかったのか?」

裏山は舌打ちした。

「奴とはぐれた。俺が洗面所に行ってる間ここで待ってるよう言ったんだがな。これはここに落ちていた。奴の懐中電灯だ」

「アイツどっかに隠れて様子でも伺ってんじゃないのかい?」

千佳がベッドの下を覗き込みながら能天気な声で言った。

「んなきったねえ場所にいる訳ねえだろ!マヌケ!おい常史江!お前も突っ立ってねえで奴を探せ!」

「既にもう探している。そして見つかった。上だ。彼は屋根裏にいる」

常史江が顔色一つ変えずに言った。

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