学園支配計画
人でごった返す街の表通り。ブティックやゲームセンターなどのアミューズメント施設に、今流行りのタピオカを大々的にフィーチャーしているカフェやフードコートなどが点在している。平日でも人で溢れかえっているが、休日ともなれば、それはそれは多くの人間が集まる。
新装開店のスーパーの真向かいにある老舗の駄菓子屋は街で評判で、テレビで紹介される事も数多く、店内には芸能人のサイン色紙がずらりと貼ってある。どこかレトロチックな昭和の雰囲気漂う、ちょっとした名物店だ。
その店のドアを内側から乱暴にこじ開けて、二人の男女が両手に大量の菓子を抱えて下品な声を上げながら外に出てきた。
片方は金髪豚野郎こと野田。その横には愛人のビッチ。驚いたことに二人とも黒地に金色の虎のイラストが刺繍されてあるジャージに身を包んでいた。ペアルックという奴だ。抱えている手提げ袋には飛び出しそうな程の菓子がぎゅうぎゅうに詰めこまれている。
「ぎゃっははは。爆買いだ爆買い」
野田が目やにのこびりついた薄汚い顔で笑った。
「ちょっとこれ超重いんだけど~。マジわら。つーかこんなに買っちゃってお金平気なの?ダーリン」
野田は手提げ袋からうまい棒を一つ抜きとると、それにかぶりつきながら言った。
「その点なら問題ねえ。金なら腐る程あるからな。何か欲しいモンあったら言えよ」
彼はほくそ笑んで衣服と同じように黒地に金の虎が刺繍してある財布の中を自慢げに彼女に見せつけた。大量の紙幣が顔をのぞかせた。それを見るやいなやビッチは目の色を変えた。
「キャー素敵!ダーリンホント最高!」
「うえっへへへ。だよなあ?俺最高だよなあ?おいちょっとオッパイ揉ませろよ」
「あん♡ダメ~。ねえ、今度はタピオカ飲みたい~」
野田とビッチはそのまま、グロテスクないちゃつきを繰り返しながら目当ての店の方向に歩み始めた。その道中、気弱そうな中年男性がその様子をちらりと横目で確認しながら鼻で笑ったのを野田は見逃さなかった。野田は中年に向かって凄みながら近寄った。
「何見てんだゴラア!あ~ん?」
「えっ見てませんよ。嫌だなあもう」
「やかましい!」
野田は中年の太腿に蹴りを放った。その瞬間、中年の体を電流のようなエネルギーが駆け巡った。
「んがっ!」
中年の全身が弛緩剤をうたれたように脱力し、黒目があちこちに移動した。
「おい、てめえちょっと荷物持てよ。重いんだよコレ」
そう言って野田は手提げ袋を二人分差し出した。
「はっはい!」
中年は素直に荷物を受け取った。
「アハハッ何このオヤジ、ウケる~」
「よし、じゃ行くか」
中年は二人の後ろを付いて行った。はたから見れば異様な光景に映っただろう。人目も憚らずベタベタと抱き合う微妙な容姿のアベックと、その後ろを荷物を抱えてながら必死に黙って追う謎の中年男。シュールな光景である。
店の入り口に着くと野田は中年に振り返って言った。
「おい、お前ここで待ってろ」
「はっ!合点承知でございます!」
深々と頭を下げる中年を尻目に、野田とビッチは店に足を踏み入れた。その途端、野田は窓際の席に腰かけている二人の女性が目に止まった。いつ芸能界にスカウトされてもおかしくない程の美女コンビであり、当店一押しのタピオカを手にガールズトークに謹んでいた。見たところ恐らく女子大生だろうか?彼は一目で心を奪われた。
すると途端に隣にいるビッチが疎ましく思えてきた。あれに比べたらこんな女、田舎の野暮ったい芋女に過ぎないではないか。そう思った。
野田は冷たく言い放った。
「おい、お前どっか行けよ」
ビッチは大変傷ついたようだった。野田に縋り寄って来た。
「何でそんな事言うのダーリン?!冗談でしょ!?」
「うるせえな。どっか行けよ」
ビッチは泣きわめくと店を飛び出し、外にいた中年に飛び蹴りをかまして去って行った。野田はそれを一瞥すると受付を済ませ、女性の傍まで近づくと言った。
「あ~お姉さん方ちょっといいかな?」
野田はゆっくりと目を開けた。見慣れた自分の家の天井が見えた。どうやら居眠りをこいていたらしい。ベッドの中にいるようだ。両隣を見ると先程の女達がいた。彼に添い寝していた。両手に花というやつだ。野田も彼女達も、ともに全裸だった。野田はフギッ、と笑った。
そうだった。こいつらを『洗脳』して家にお持ち帰りしたんだっけな。まったく、生きてて17年、ようやくこの俺にも春が訪れたようだ。最高だぜ。この体に触れた者を誰だろうと俺の意思のまま動く傀儡にしてしまう能力。そう、俺の手にかかればどんな強靭な意志の持主だろうと、どんなハクい女だろうと、指先一つで自我が消滅、俺の忠実な奴隷となり、性奴隷となるのだ。金を要求しようがぶん殴ろうが文句の一つも言いやしねえ。ああ~これからどんな女だろうと好き放題食いまくれるのかと思うと、期待と股間が膨らんできたぜ。うけけ。
何がどうして俺にこんな力が宿ったのかさっぱりわからないが、折角手に入れたこの能力、せいぜい使わせてもらうわ。
まず、手始めに調子こいてた小林の野郎と、その手下を下僕にしてやった。楽なもんさ。それと生徒会長の津茂田保。アイツも優等生ぶってて癪に触ったから能力で面子を潰してやった。あの文化祭の開会式挨拶は傑作だったな。それと、学校のあちこちに監視役を散らばらせた。学校の異変に気付いて俺を疑う奴が出てこないか調べさせるためだ。懸念材料は早急に消し去っておきたいからな。その甲斐あって俺を怪しんでたバカを二人、洗脳できた。後はそうだな、教師の連中も配下にして、俺好みの校則を打ち立てさせるのもありか。例えば女子は体育の時間、全員ブルマ着用!とかよ。ひひひ。このまま行けば学校全体をこの俺が裏から支配するのも時間の問題ってやつだな。
だが、まずその前に何としても始末しておきてえ奴がいる。あのにっくき転校生、常史江永遠だ。あの野郎には鼻をぶっ叩かれた恨みがあるからな。だが、聡明な俺にはわかる。奴は俺と同じ超能力者だ。小林を倒した時のあの雷はそうでもねえと説明がつかねえ。『イケメン野田による○○学園乗っ取り計画』を遂行する上でアイツが最大の脅威だろうな。
奴を洗脳できちまえば楽は楽なんだが、出来れば奴には近づきたくはねえのが本心だ。正直言うと俺は奴にビビってる。だが臆病さというのは慎重さにも繋がり、慎重さはそのまま強さにも繋がるのだ。奴の能力の全貌はまだ未知数だからな。不用意に近づくのはまずい。
俺には他人を洗脳する力がある。ならば自分は安全な場所で高見の見物しながら奴隷に奴を襲わせるのが利口な戦い方じゃあねえか?
決まったぜ。首を洗って待ってやがれ常史江ぇ~!
「おらあ第5ラウンド始めっぞォ!」
野田は決意を固め、女達を叩き起こした。
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