野田の逆襲!!!!!

クズvsクズ

千佳達が住む街の中腹に位置する、創立50年以上の歴史を持つ○○高校。児童生徒数、500人以上。教員数45人。大型の正門にはでかでかと校名が記されている。また、景観を意識してか正門前の花壇にはチューリップ、パンジー、マリーゴールドなど色彩豊富な花達が植えられている。また、昇降口にも大量のプランタに植えられた花が飾られている。自然保護、ゴミ拾いなどのボランティア活動も盛んである。校訓は外寛内明。他人には寛大に接し、自分には厳しくあれ、という意味を持つ。

そんな校訓を、息をするように破る男がいた。

傲岸不遜を体現したかのような面構え。シャツがはち切れんばかりの屈強な筋肉。日サロ通いの賜物である小麦色の肌。グリースの整髪料で塗り固めたツーブロック。それが学園の番長こと、小林である。

時刻は12時30分。昼休憩の時間帯だ。彼は廊下のど真ん中を、周囲の生徒にメンチを切りながら図々しく闊歩していた。彼が廊下を歩けば誰もが大人しく道を譲るか、もしくは彼に邪魔だ、と張り倒されていた。それは上級生や教師ですら例外ではなかった。教師と言えど人間である。睨まれれば怖いし殴られりゃ痛い。彼の圧倒的な力や威圧感にはとてもじゃないが逆らえなかった。


2002年、絵にかいたようなDQN夫婦の間に生を授かった彼は小さい頃から悪童として名を馳せていた。何か欲しい物があれば奪ってでも手に入れなくてはいられない性分だった。自制だとか、慎むだとか、そう言った言葉は彼の辞書には存在しなかった。

中学に進学すると、ますますガキ大将としての資質を発揮した。暴行、恫喝、恐喝、威迫などを当たり前のように行うようになった。そして高校に入学すると完全に手がつけられなくなった。元ボクサー選手の父から特訓を受けた彼に歯向かえる者は存在しなかった。両親はそんな彼を『将来有望』だとぬかした。

廊下をズカズカと歩いていると、壁に寄り掛かってスマホをいじっている一人の女子生徒が彼の目にとまった。小林は鼻の穴を膨らませて彼女の肢体を舐めまわすように見つめた。

金髪のウェーブヘア、ドギツいアイメイク、腫れぼったい唇にベージュの口紅、頭の悪そうな顔。ミニスカの下から伸びた大根足。

ビッチの中のビッチ、クイーンオブビッチとして有名な女子だった。当然小林も以前、彼女と足腰が立たなくなるまでヤリまくった記憶がある。多分。…あったよな?確かブヒブヒ豚みたいな喘ぎ声を出しやがる女だった。名前は何だったっけか。まあビッチで十分だろう。ビッチに名前なんて勿体ねえ。しっかしクッソ、誰にでも股をおっぴろげるイカれた豚女だが、相変わらず扇情的な体してやがる。顔はとても褒められたもんじゃねえがな。そういえば最近俺もご無沙汰だったな。

小林は己の愚息が凄まじい勢いで怒張していくのがわかった。

人間の三大欲求であるとされる食欲、睡眠欲、性欲、この三つに彼以上に忠実な人間がいるだろうか?

小林は鼻息を荒くさせながらビッチの元へ歩み寄り、彼女の肩に手をまわすと、ねばついた口で耳元に囁いた。

「おい、携帯なんか握ってねえでよぉ~、俺の息子を握ってやってくれよぉ~、今ちょっと寂しがっててよぉ~ひひっ」

低俗なセリフを吐くと彼はビッチの手を取って自分の股間に誘導した。その途端、下腹部に鈍い激痛が走り、小林は絶叫した。

「おびょぉあうっ」

あまりの痛みに立つ事すらままならなく、彼は床にへたり込んだ。どうやら睾丸をビッチご自慢の大根足で蹴り飛ばされたらしい。どんな屈強な人間だろうと睾丸までは鍛えられない。男性ならもちろんわかるだろう。

彼のいきり立っていた愚息は痛みで萎びたキノコのような状態になっていた。彼が股間を抑えて悶え苦しんでいると、ビッチが頭上から彼の顔目掛けて唾を吐いてこう言った。

「触ってんじゃねえ!キモイんだよ、この短小野郎!」

「なにぬねっ!?」

ビッチの心無い言葉に、小林は柄にもなく傷ついた。心身ともに小林は彼女にけちょんけちょんにされた。

「小林さん、俺の女に手ぇ出さないで下さいよ~」

小林の背後で聞き覚えのある声がした。彼が振り返ると、一人の生徒が立っていた。

金の短髪で標準体型、両耳に安物のピアス、顔は中の下といった感じの男、野田だった。彼は哀れな小林の姿を見て、フガッと豚鼻を鳴らした。

「野田てめえ、お、俺の女だと?」

「そうっスよ、なあ?」

そう言うと野田はビッチの元に近寄り、小林の目の前でビッチの尻を揉みしだきながら氷も溶けるほどにホットなディープキスをかましやがった。小林は茫然とそれを眺めていた。

「小林さんなんかより俺の方がいいだろ?」

「うん、こんな早漏ゴリラよりダーリンの方がずっと素敵~」

小林は思わず目に涙を浮かべた。何たる屈辱、何たる赤恥。小林が怒りに震えていると、野田の後ろから数人の男子生徒が現れた。いずれも小林の舎弟達だ。舎弟の一人が威勢のいい声を発した。

「野田さん!焼きそばパン買ってきました!」

そう言って彼はパンを野田に差し出した。

「おう、ご苦労」

「はっ!過分なお褒めをいただきまして、恐縮至極に存じます!!」

舎弟達が一斉に声を張り上げた。野田はパンを受け取ると、袋を破いてがっついた。小林は目を疑った。何で野田のカスがこんな殿様気取りでふんぞり返ってやがんだ?俺は夢でも見ているのか?だとしたら過去最悪の悪夢だ。

「てめえら気でも触れたか!?何でそんな野郎のパシリなんかやってんだ!」

彼らは答えなかった。皆まるで正気を失ってるかのような虚ろな表情をしており、薄気味悪かった。

「アンタの時代は終わったんスよ、小林さん」

野田はそう呟くと、ビッチの肩に手を回し、小林に背を向け廊下の向こうに歩き始めた。その後を舎弟共が金魚のフンのようについて行った。

「この野郎!ぶっ殺す!」

小林は立ち上がると、舎弟共を乱暴に突き飛ばして野田の肩に掴みかかった。

その瞬間、彼の全身に電流のような何かが走った。

「あがっ」

小林の全身の筋肉が脱力した。白目を剥き、顎が外れたように口をあんぐり開け、口端から涎を垂れ流した。野田の肩から彼の手が外れた。

「これでアンタも俺の配下だ、小林」

野田は微笑すると、歩くのを再開した。その後を舎弟達と、生気が感じられないゾンビのようになった小林がついて行った。

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