第3話
次の日の朝、俺たちは朝のホームルームが始まるまでの空き時間を利用して、作戦会議をしていた。
「下駄箱にしっかりと手紙を入れてきたか?」
「ああ、朝早起きして入れてきたよ」
「じゃあ、完璧だな」
「手紙で呼び出しても来なかったら意味がないけどな」
「委員長は来るんじゃないか。問題は俺が告白する宇治田瑠衣の方だな。まぁ、来なかったら直接突撃するつもりだが」
それ、絶対迷惑だ。そう思ってしまったが、俺の告白も迷惑行為になるかもしれないので、俺は何も言い返さなかった。
「じゃあ、放課後が勝負だな」
「……ああ」
俺たちは朝っぱらから何を話し込んでいるのだろうか。これは普通の高校生の会話とは思えない。
これは高校の青春と呼べるものなのだろうか。今は分からないな。
大人になってから、良い思い出として昇華されることを願う。
放課後になった。
俺は徹と別れて、指定した教室で委員長を待った。
徹は屋上に呼び出したとか言ってたな。俺は別にどこでも良かったので、自分の教室の隣にある空き教室をチョイスした。
あまり人気のない場所を選んでしまったら、委員長も呼びかけに応じるのを躊躇してしまうかもしれないからな。良く知らない男に呼び出されることだけでも怖いのだから。
しばらく時間が経った。もう来てもいい時間ではないだろうか。
なんかもう来なくてもいいのではないだろうか。そんなことを思い始めてしまっている俺がいる。
もしそうなっても、徹は責めないだろう。むしろ同情してくれるかもしれない。それはそれで、イラっとするが、まあこれからやってくるかもしれない状況よりはましだろう。
そんなことを思っていたのがフラグだったのだろうか、無情にも空き教室の扉は開く。
そこにいたのは委員長だった。綺麗な黒眼は俺の姿をとらえ、そして律儀にもぺこりと頭を下げながら教室に入ってきた。俺もつられてぺこりと頭を下げる。
正面からまじまじと見るのは初めてだ。綺麗な人形を見ているようで、一瞬呼吸を忘れそうになる。
なんか普通に緊張してやばい。何か言わなければ、沈黙を続けるのも心臓に悪い。
「あの、忙しい中、呼び出したりしてすいません」
「いえ、平気です」
なんだろうこの会話、今から告白するシチュエーションとしては間違っている気がしてならない。
「何か私、あなたに悪いことをしたのでしょうか。呼び出された意味が見当たらなくて……」
なんとなく常人なら、この雰囲気は告白だろうなと分かってしまうと思うのだが、委員長はそうではないらしい。
「全然悪い事なんてしてないですよ。あの……何というか。告白的なあれで……」
俺の頭はパニックに陥っていた。今するりと告白と言う単語を言ってしまった気がする。
「告白?なにか私にカミングアウトしたいということでしょうか?」
……その通りではあるが、全然分かっていないようだ。この人はちょっと変なのかもしれない。
なんか違う意味で告白しづらくなってしまった。好きですと言っても、この人、変な解釈をしそうな気がする。
「まあ、そうなんだけど……。あのちょっと聞いてもいいかな?」
「はい、どうぞ」
「早崎さんって、恋愛漫画とか読んだりする?」
遠回しな感じで今の状況を理解させよう。
「読みません」
「恋愛小説とかは?」
「興味ないですね」
ポカンとした顔で頭を傾けている、非常に可愛らしいが何も分かっていないようだ
ああ、無理そうだなこれ。もういいか、普通に言えば。もうどうとでもなってしまえ。
「早崎さんのことが好きです」
「え?好き?」
「そう好きです」
二度言う必要はなかったかもしれないが、なんとなく理解してほしかったから念を押してしまった。
「それは……。性的な意味でと言うことでしょうか?」
その切り返し方は斬新だな。多分、世界中を探してもその返しをする人はあまりいないのではないだろうか。
非常に返しにくいというのが本音ではある。だが、返すしかない。多分、そうしないと理解してくれない。
「はい、性的な意味です」
俺がそう発すると、気持ち悪がるような表情でもなく、困惑するような表情でもなく、なんというか顔を真っ赤にして照れているような表情を委員長はした。
これは照れているので合っているのだろうか。
「……私、そんなこと言われるの初めてで、何と答えたらいいのか……」
意外だったな。ここまで可愛らしければ、告白されたことなんて、数えきれないほどあってもおかしくはないと思うのだが。
いや、さっきみたいな雰囲気になってしまえば、告白までこぎつけても断念してしまう人がいてもおかしくないか。
「これまで誰かに呼び出されたことないの?こんな感じで」
「ありますけど、会話をしていたら、みんな帰っていきました。何がしたかったんでしょう彼らは?」
可愛そうな先人たちだ、同情する。
「多分、早崎さんと話しをしたかっただけですよ」
ここで、告白だったんですよと言って、罪悪感を感じさせるのもあれだしな。先人たちも萎えて告白しなかった事実を彼女に知られたくはないだろう。
「そうなんですか」
なるほどと納得したような顔になった。正直、どうしたら納得できるのかさっぱり分からないが、まぁいいだろう。
そこから、沈黙が続いた。俺を見て顔を赤くしたり、何か言いだそうとしているそぶりを見せたりと、せわしなくもじもじしている。
ただただ可愛い。
俺は、急かさずに返事を待った。あまり深く考えず、コバエを振り払うようにスパっと振ってもらった方が楽なんだがな。
その方がこちらとしてもそこまで罪悪感を感じなくて済む。
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