第2話

 「で、もし俺が告白するとしたら誰だ」


 早速本題に入っていく。


 「そりゃあ、お前が好きな人だろ。いるだろ?」


 「……特に気になってる人、いないんだけど」


 「……」


 徹は口をあんぐりと開けて、俺を何とも言えない目で見つめる。


 なんだ文句でもあるのか。そんな男子高校生だって、中にはいるだろう。


 「じゃあ、好きなタイプとかなんかないのか」


 「好きになった人がタイプってのはだめだよな」


 「だめだ」


 「俺をリードしてくれて、、可愛くて、ちょっとドジだが、賢い女の子」


 「そんな女いねぇよ」


 正直、好きなタイプと言われてもよく分からないからな俺自身も。まぁ、こんな感じだったら良いなという単語を並べたらこんな感じになってしまった。


 「じゃあ、徹の好きなタイプは?」


 「俺はエロそうな女だな」


 こんなにもすんなりと納得できたことがこれまでにあっただろうか、いやない。


 実に欲望に忠実な徹らしい。


 「このクラスで言うと、あそこの宇治田瑠衣とか良いな」


 徹は、ちらりと視線を向ける。そこには机に座って、談笑しているギャルというか、陽キャ集団がいた。


 その中で異彩を放っている女子がいる。金髪をはためかせ、可愛いというより、美人と言ったほうが合っている大人っぽい女子。


 彼女が宇治田瑠衣である。


 「お前、あんま見てると睨まれるぞ」


 「あの鋭い目付きもまた良いんだが……。ああ、今はお前の話だったな」


 何とか煩悩から抜け出してきたようだ。脱線した話は戻ってくる。


 「俺らのクラスは結構、可愛い女が多いからな。お前のタイプに合致する奴もいるじゃないか?」


 「ああ、そうだな。うーん……委員長とかは可愛いと思うな」


 「おー、じゃあ、委員長に告白してみようぜ」


 早い早い、結論に達するのが早すぎる。


 「いやいや、委員長はなんかハードル高くないか」


 俺と徹は委員長、早崎綾乃の様子をうかがった。今日も今日とで一人で弁当を食べている。黒い髪をなびかせながら、周りのことなど一切気にせず、黙々と弁当を食している。


 休み時間などの空き時間、他の女子生徒と話しをしているのを見る限り、話す人がいないというわけではないらしいのだが、昼休みはなぜかいつも一人だ。


 ある程度の友好関係を築いている人はいるが、友人関係には至っていないとかそういう感じだろうか。もしくは、友人関係までには至らなくても良いと思っているような人なのか。どちらかは分からない。


 「まぁ、確かに何考えてるか分からない感じするしな。だが、それがどうした。女子にとって告白されるということは、等しくうれしいものなんだ。高いハードルを越えて、喜びを与えてあげようではないか」


 「好きじゃないやつから告白されたら迷惑でしかないと思うんだが」


 「馬鹿野郎!そう思うのは男だけだ。たいていの女は優越感に浸るんだよ」


 「そんな馬鹿な女子いないだろ。あるとしても嬉しさ半分、迷惑が半分とかそんな感じだと思う。もっと悪かったら迷惑しかない可能性もあるんじゃないか」


 「……そういうもんなのか」


 徹はしょんぼりしてしまった。情緒不安定すぎる。もしかしたらこれまでの自らの行いが迷惑行為だったかもしれないと気づいてしまったのかもしれない。多分、普通に迷惑行為だったと思う。


 「まぁいっか。で、告白するのかしないのか」


 切り替えが早いところは美点だとは思うが、今はその前向き加減が鬱陶しい。


 「今の流れで、告白するって流れにはならないだろ」


 「薄情な奴め。分かった、俺が一肌脱いでやるよ。俺は宇治田瑠衣に告白する。そしたら、お前も委員長に告白しろ」


 「何その強引な取引」


 「俺もお前と同じリスクを背負えばお前もやりやすいだろ。赤信号みんなで渡れば怖くないってやつだ」


 その赤信号を渡ったら、確実にけがをすると思う。


 「本当にやるのかよお前」


 「ああ、やるぜ」


 やる気満々だ。何の躊躇もなくやりそうだ。なんかコイツのことが怖くなってきた。


 ここで俺が裏切って、徹だけ告白させたらどうなるだろうか。多分それはそれで面白いことになるのだろうと思う。俺がやらなかったからといって、そんなことで嫌うような奴でないことは分かっているから、それでもいいのかもしれない。


 だが、高校生になってからの唯一の友達を裏切るような感じもなんか嫌だ。


 ああ、もう。やってやるか。


 「はぁ……。俺もやるよ」


 「最高だぜ健人」


 ああ、やりたくねぇ。


 こんな感じで俺たちは告白することになり、高校生になってから一番内容が濃かった昼休みも終わった。

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