6月13日火曜日 体育館 討論会 先攻演説・質疑応答
加美洋子
大村会長が中央の演台で簡単に挨拶するとすぐ先攻の古城先輩が演台に立って演説が始まった。壇上に置かれた席の一つでは吉良先輩が古城先輩を見つめていた。
古城先輩は丁寧に聞きに来てくれた人たち、そして校内放送で聞いている人たちに話しかけた。
「2年A組の古城です。今日は会場に足を運んで頂いた方、教室などで放送に耳を傾けてくれている生徒の皆さんに話を聞いてもらえる機会が得られた事に感謝します。
簡単ですが、私の提案を再度おさらいしておきます」
そういうと古城先輩は一呼吸置いた。体育館内を見渡して口元を緩めると話し始めた。
「制服の見直し提案では今の制服を標準服として私服を認めるか、制服制度は残してバリエーションを増やす事を学校に対して働きかけていきます。その際は生徒みんなの意見をまとめて集約した上でやりますか、一方的に決めるような事はしません。
私としては今の制服に加えて女子ならスラックス、男女共通のポロシャツなどバリエーションを増やせれば過ごしやすいんじゃないかと思っています。ポロシャツは可能であればこの夏からでも実施できるんじゃないかと考えています。これも関係する方々と調整していく必要がありますが挑戦したいと考えてます」
観客は静まり返っていた。学校に対して要求を通せるのかという疑いとこんな事を言っていいのかという疑問があるのだろうと思う。これは根強く存在するけど、そもそも立候補を阻止されなかった事で可能性はあると思ってくれるといいのだけど。信じる事が事態を動かす事はよくある。信じてくれないと先輩が当選しても新執行部は学校との交渉で挫折しかねない。
そういう私の思いをよそに古城先輩は話を続けていた。
「文化祭については会長の任期が実質1年5ヶ月におよんでいて本格的な準備期間がこの選挙後スタートになっています。
この点を改めるため文化祭実行委員会を新たに設けて、生徒自治会長任期を他の職と同様に6月選挙までに改めた上で文化祭実行委員会のオブザーバーとして自治会活動の枠組みから逸脱しないように助言するといった改正を提案します。
会計委員会が文化祭の運営で貢献されていますが、彼らが文化祭実行委員を兼務するといった形で現在の体制を元に改正出来ると考えています。この点は当選した暁には具体的な検討の場に会計委員会の方にも参加してもらい具体化を進めます」
会計委員会とは水面下で接触はしていて委員長からは「総論賛成各論調整かな。反対じゃないから。詳細は後日ね!」という事で話はついていた。よほどの事がない限り話はつけられる見通しだった。
「最後になりますが、私は不合理と不条理は嫌いです。学校生活を快適にするにはこの2つを減らす事は大事だと思います。我々の権利は我々が守るもの。粘り強く交渉して少しでも変えていきこの学校の後輩たち、未来の生徒たちがさらによくしていけるようにしたい。その一歩に皆さんも踏み出して欲しいんです。私からは以上です」
会場内からはおざなりな拍手と熱心な拍手が響いた。これぐらいでいいんだと思う。
吉良先輩は身を乗り出すと机の上のマイクに向かって質問を始めた。
「古城さん。会長任期について聞きたいのですが、我が校の伝統となっている生徒自治会長が11月の文化祭まで責任を負うという体制を変えるという事でしょうか?」
古城先輩は吉良さんの方を向きながらみんなに対して話しかけた。
「いいえ。でも会長として行う必要性はないと思うので、文化祭実行委員会という枠組みを作ってそちらに移して来年6月で引退した前会長が生徒自治会活動としての文化祭活動になるように助言するという事を考えています」
吉良さんの視線は厳しかった。
「その助言役は規則で役職を設けるのですか?」
吉良さんの方を見て頷く古城先輩。
「はい。その必要はあると思います。いずれにせよ文化祭実行委員会を設けるには生徒自治会規則改正は必要ですから、その際に織り込めば対処できます」
吉良さんは次の話題に移った。
「古城さん。私は制服は今のままがいいと思っています。80年代の生徒自治会の努力で今の制服は勝ち取りそして伝統となっています。ポロシャツが機能的。そうかも知れませんが、そこまで今の夏服が機能的じゃないでしょうか?」
古城先輩は両手でお手上げの仕草をしつつ指摘した。
「吉良さん。誤解されているみたいですがポロシャツだけにしようとは言っていません。ポロシャツを選択できるようにしようといってるんです。そういう自由があっていいんじゃないでしょうか」
ここで会場内から拍手が上がった。おざなりだった人も拍手してくれている。やっぱりポロシャツは待望論があるのだなと改めて認識させられた反応だった。
吉良先輩はここで質問を打ち切った。攻守交代だ。
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