第4章 開戦
6月 8日木曜日 生徒自治会会議室 早刷り、眉をひそめる私達
6月 8日木曜日 生徒自治会会議室 早刷り、眉をひそめる私達
三重陽子
選挙運動開始日の初日がやって来た。昼休みのチャイムがなると弁当を持って北校舎2階の渡り廊下の所で私と冬ちゃん、肇くん、加美さんと待ち合わせた。これから政見放送の録音があるのだ。
放送室は南校舎1階にあったので、南校舎隣の体育館1階の学食へ向かう人達にまぎれながら渡り廊下を歩いて行く。
「いやあ、緊張するなあ」と言い出す冬ちゃん。
彼女、度胸一発かと思ったら本番前は緊張する事は多い。
「しっかりしろよ」
という肇くんはそういって気を紛らわせたいんでしょうね。
放送室の扉を前に立つ4人を代表して冬ちゃんが放送室の引き戸をノックして開けた。
「古城ミフユです。政見放送の録音をお願いします」
加美洋子
録音は結局一発録音、15分ほどで終わった。案外3人とも本番の度胸はいいようで何よりだった。
放送委員会の人達にお礼を言うと南校舎隣の体育館1階にある学食へ向かった。そこで4人でお昼を食べようという話になっていた。お腹を空かせて押し寄せていた生徒達の群れはあっという間にお昼を食べて遊びに行ったり、お茶を飲みながら話し込んでいりと少し閑散とした光景になっていた。空いている島に陣取ると持ってきた弁当箱を広げた。
「冬ちゃん。その肉団子、私の唐揚げと交換して」と三重先輩。
私も冷凍食品のコロッケで申し訳ないと思いつつその肉団子を1つ交換してもらった。
「夕食の残りだからそんな大したことは」
謙遜する古城先輩のお手製らしい。中華風で筍など入っていて美味しかった。
弁当を食べながら1年の自分のクラスの反応について話をした。
「午前中にクラスメイトにどう思うか聞いて回りましたけど。反応は悪くないですね。ちゃんと伝わっている人は反対はしないと思います」
「加美さん、微妙な言い回ししてるね」
古城先輩にツッコまれた。
「はい。古城先輩を支持するかは現状別問題ですね。原因は吉良さんの公約がまだ分かってないからだと思います」
「そこか。そうだよねえ。向こうも準備が後手だったか政見放送録音で手一杯だったみたいだし」
私の読みでは今日の所はあまり積極的な選挙活動はしないんじゃないか。明日の選挙公報配布と昼休みの政見放送が事実上のスタートになるだろう。
「古城先輩、クラスでの松平先輩の動きはどうなんですか?」
「私がいるからかな。表だっては何もやってないみたい。というかクラスの空気がちょっと分断された風になっていて申し訳ないなあという感じはある」
日向先輩が溜息混じりに言った。
「やっかいだな。A組は」
頷く古城先輩。松平桜子先輩と古城先輩はクラスが同じなのだ。
「松平さんはクラス替えの時からちょっと視線きつかったからね。詳しい話はまた放課後するから」
私は古城先輩に念押しした。弱腰になられては困る。
「遠慮せずにクラスメイトへのアピールはやって下さいね。候補者の足元がぐらつくのは困ります」
「わかってる。やるからには徹底的にするから」
この後、日向先輩と三重先輩は2年C組、D組に行って運動員のお願いに行ってくると言って先に席を立った。
まだ時間があったので古城先輩には私のクラスに来てもらった。教室にいた子達に「制服の見直しをやるから」という事を簡単に説明してもらって公約を少しでも知ってもらおうと仕掛けた。これで何人かは古城先輩支持者を増やせたと思う。票は小さく拾っていくものなのだ。
日向肇
放課後、俺と陽子ちゃんでリクルートしてきた2年C組の秋山菜乃佳さんとD組の姫岡秀幸くんを連れて選挙管理委員会のある生徒自治会事務室隣の会議室に行った。
この二人は去年1年A組で一緒だった子で選挙期間中に古城陣営の選挙運動員として手伝ってくれる事になったのだ。
秋山さんは身長175センチでバレーボール部の中核プレイヤー。姫岡くんは帰宅部だけどある事で古城と関わりがあって手助けを名乗り出てくれた。彼も身長182センチと背の高く偉丈夫コンビ誕生ってところかなと思った。
二人の選挙運動員届けを提出すると明日配布される選挙公報の立候補者確認用の分をもらってきた。
三人で並んで公報の内容を読んで思わず溜息が出た。
大急ぎで北校舎3階の『事務所』へと向かった。引き戸を開けると古城と陽子ちゃん、加美さんが既に集まっていた。
「古城さん、水くさいよ。さっさと声かけてくれたら良かったのに」
と秋山さん。続いて姫岡が
「去年の文化祭のバザーで買ってもらった自転車のアフターケアとして手伝うよ」
と言って場を和ませてくれた(加美は訳がわかんなかっただろうけど、去年のクラスのバザーであいつの自転車を買ったのが古城だったのだ)。
おっと。そんな和んでいる場合ではなかった。
「運動員届けを出しに行ったついでに選挙公報の立候補者向け分をもらってきたけど、向こうの公約がちょっと不味いな」
そう言うと選挙公報をホワイトボードにマグネットで貼ってみんなで見られるようにした。
古城、加美、陽子ちゃんが三者三様で呆れている事は表情で分かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます