第19話 代理との混浴


「ふはぁ~~~……!」


 風呂桶に座り、熱いお湯を被りながら俺は大きく息を吐いた。


 しかし今日は、色々疲れたな……。

 人生初のデートとあって、かなり緊張していたようだ。全身が凝っているのが分かる。もちろんそれ以上に、すごく楽しい時間だったけど。


 とにかく、早く体を洗って熱いお風呂で癒されよう。真冬さんを待たせているから、そんなにゆっくりもできないし。


「優斗く~ん。お待たせ~」


 そう思って体を洗おうとしていると、脱衣所の方から何やら声が聞こえてきた。


 ……え? お待たせって? どういうこと?


 疑問に思い、扉の方に顔をやる。すると扉が躊躇なく開かれ――真冬さんが姿を現した。胸と腰にタオルを巻いただけの、とても無防備な格好で。


「jでょいkdんlvんbfkんvkぽぅj?」


 謎の言語が俺の口から漏れ出した。


「えへへ~。一緒に入りに来ちゃった♪ 優斗君、体洗ってあげるね?」


 そして、当たり前のようにこちらへ踏み入る。

 いやいやいやいや! ちょっと待って!


「ま、真冬さん! 何してんですか!? 何でいきなりこんなこと!」

「だって、一人で待ってるのも寂しいし……。それにこういうのもデートっぽいと思わない?」

「そりゃそうなのかもしれませんけど……。俺たち、ホントのカップルじゃないですから! 普通に上司と部下ですから!」

「だいじょーぶ、だいじょーぶ。これくらい、上司と部下なら当然のコミュニケーションだよ!」

「絶対違う! 絶対こんなの当然じゃない!」

「拒否するなら、お給料九割カットします♪」

「ぐっ……!」


 出た、必殺技! 給料カット!

 これを言われたら、どんな社員でも彼女に従わざるを得ない!


「優斗君、どうする~? 今月の給料削っちゃう? それとも、一緒にお風呂入る?」

「…………お風呂、よろしくお願いします……」

「は~い♪ 素直な優斗君、大好きだよ~♪」


 そんな甘いことを言いながら、俺の後ろに立つ彼女。


「あ。そういえばさっき見たんだけど、優斗君の持っているHな本に、一緒にお風呂に入るシーンもあったね?」

「っ!?」


 い、いきなり何を言い出すんですか……!?

 そりゃあ、確かにありました。女の子と一緒にお風呂に入って、その巨乳で背中を洗ってもらうシーンが。


 でも、何でわざわざそれを言う……?

 困惑していると、真冬さんが俺の耳元で呟いた。


「――やっぱり、ああいうことしてみたいと思う?」

「ガフッ、ゴフッ、べブッ、ゲフゲフ……ッ!」


 かつてないレベルで盛大にむせた。


「私さっき、優斗君に嫌なコト思い出させちゃったから……。だから、そのお詫びに今なら何でもしてあげる。Hなことでも頑張るよ?」

「……ッ!」


 ま、マジか……!?

 真冬さんが……俺のためにHなことを……!?


 ヤバイ。俺の心が叫んでいる。エロいことを頼めと言っている。

 突然のコトで混乱をしたが、冷静に考えればこの状況……俺にとって死ぬほど美味しい流れだ。こんな好機、今を逃したら人生で二度とないかもしれない。


 コレ、もう、アレだ……。彼女の胸を堪能するしか……。


「って、何を考えてんだ俺はーーー!」

「優斗君っ!? どうしたの!?」


 誘惑に負けてんじゃねえよ馬鹿! こんなことダメに決まってるだろ! 本当の恋人ですらないのに、性欲に流されるような真似……!


「真冬さん……。別に、何もしなくていいですよ?」

「え……?」

「別に俺、さっきのことは気にしてません。それに真冬さんはもう十分、俺のために色々してくれていますから。だから、気に病まないでくださいね?」

「優斗君……!」


 振り向くと、真冬さんが両目を綺麗に潤わせる。

 そして次の瞬間、後ろからギュッと抱きしめてきた。


「優斗く~~~んっ」

「うええっ!?!?!?」


 む、胸が……! 胸が背中に当たってる! 真冬さんのぱつんぱつんに膨らんだ胸が、ムニュっと背中でたわんでる! いやらしい形になっている!


「優斗君って、本当にすごく優しいよ~! 私、とっても感動しちゃった!」

「い、いやあの……! それより、早く離れたほうが……!」

「もう優斗君には、好きなだけおっぱい触らせてあげる! 君の好きなようにしていいよ!」

「いや、何言ってんですか真冬さん!? 自分の言動分かってます!?」

「もちろん! あ。安心して? 優斗君以外には、絶対こんなこと言わないから!」

「そりゃそうですよ! それに俺に言うのも問題で――あっ」


 喚いている途中、なんだかフラッとした感覚。


「えっ……優斗君? 優斗君っ!?」


 次の瞬間、浴室の熱さと興奮で、俺はのぼせて倒れてしまった。


               ※


「ゴメンね? 優斗君……。思わず、ちょっと取り乱しちゃって……」

「あはは……。まあ、気にしないでくださいよ。俺も、早く忘れますから……」


 風呂から出て、しばらく横になった後。

 俺は真冬さんを見送るために、彼女と一緒に外に出ていた。


「あと……今日は本当にありがとう。デート、凄く参考になったよ?」

「なら良かったです。シナリオ、期待してますね」

「うんっ! またお仕事一緒に頑張ろうね! あ。明日からリムジンで迎えに来ようか?」

「いや、そこまでしなくていいですから!」

「え~、残念。それじゃあ、またデートの時に一緒に乗ろうね♪」


 ウインクしながらそう言って、次があることを仄めかす彼女。

 そして、俺と真冬さんのデートは終わった。




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