第13話 天崎代理と初デート(0)
翌日、俺は代理の言う通り、私服で彼女が待つ社長室へと出勤した。
「おはようございます……天崎代理」
「あ、岸辺君! おはよーっ!」
挨拶しながら、元気よく俺に手を振る彼女。彼女もいつもと違って私服を着ていた。
「それで……どういうことですか? 代理」
俺が訪ねているのは、当然昨日のメッセージについて。デートのお誘いについてのことだ。
「大体こんな平日にデートなんて……。仕事はどうするんですか?」
「大丈夫大丈夫♪ だって、このデートも仕事の一環だもん!」
そう言い、天崎代理が何かの資料を手渡してくる。それは……新しいゲームの企画書か?
「実は今度ウチの会社でね? 新しい恋愛もののソーシャルゲームを手掛けるの。『恋人プロデュース』っていうんだけどね」
「はぁ……。新しいゲームですか……」
今現在もソシャゲ市場で大人気の『ノベルスタジオ』だが、また新しいタイトルを世に出すのか。
「それで私は、今回のタイトルにかなり力を入れているの。今まで以上の超大ヒットをこの作品に期待してる。だからこの作品のシナリオ開発には、私も直接携わるつもり」
「え? 天崎代理自らですか……?」
そういえば、代理の執筆速度やクオリティは凄まじく高レベルなものだった。以前手伝ってもらったとき、その実力を見せてもらってる。
「私も一応、ライティングに自信はあるからね。でも、シナリオを書くにあたり、一つだけ大きな問題があるの……」
「も、問題……?」
深刻そうな顔をする代理。
「この作品、ものすごく平たく言っちゃえば、色んな女の子たちとデートして遊ぶゲームなんだけど…………実は私、一度もデートしたことが無いの」
…………えっ。
「天崎さん、デートしたことないんですか……?」
「う、うん……」
「つまりそれって……。誰かと付き合っていたこともないと……?」
「実は、そうなの……。ちょっと恥ずかしいんだけど……」
言い辛そうに、俺から顔を逸らす代理。
「やっぱり、引いた……? これまでに一度も恋愛経験ないなんて……」
「いや、引いたりなんてしてません! ちょっと……いや、かなり意外だっただけで……」
天崎代理ほどの人ともなれば、学生時代からモテモテで恋愛経験もかなり豊富だと思っていた。それがまさか、俺と同じ恋人いない歴=年齢の方だったとは……!
「えっと……つまりね? 私、デートをしたことが無いからそういうシーンがうまく書けなくて……。要するに、このデートは取材なの!」
バツの悪さを誤魔化すかのように、大きな声で言う代理。
「デートシーンをうまく書くためにも、ちゃんとしたデートをしないとダメなの! 『恋プロ』をいい作品にするための取材! だからいくらデートとはいっても、立派な仕事の一環だよ!」
「な、なるほど……。そういうことですか……」
それなら一応デートも仕事になる……のか? 正直、かなり怪しいと思う。
まあでも、社長が言うならそういうことでいいのだろう。社畜の俺は、上司の命令に従うのみだ。
「分かりました……。俺でよければ、デートの相手をさせてもらいます」
「うん! よろしくね、岸辺君っ!」
と、その直後。天崎代理がもう一つ、言い辛そうに口を開いた。
「ねぇ、岸辺君……。それで、一つ相談なんだけど……:」
「相談、ですか?」
「えっと……。迷惑だったらいいんだけど……。私たち、デートの間は恋人として接しないかな……?」
「ゑ……?」
よく分からん声が口から洩れた。
「ほ、ホラ! だってこれはデートを知るための取材なわけだし! ということは、本当のデートに近づけるために、私たちも恋人としてデートを楽しむべきじゃないかな!?」
妙に熱のこもった声で語る彼女。
「た、確かにそうかもしれませんけど……。でも、俺だってデート初心者なんですよ? さすがにそれはハードルが……」
代理と同様、俺もデートなんてこれまでの人生でしたことが無い。
完全に仕事と割きるならともかく、恋人としてという話になると、緊張して動けなくなってしまいそうだ。
「それに普通のデートみたく代理をリードする自信もないし、何より俺なんかが恋人じゃ、さすがに役不足すぎるでしょうし……」
「そっ、そんなことないよ! むしろこのお仕事に、岸辺君以上の適任者はいないよ!」
自信なさげな俺の言葉を、代理が強く否定する。
「だって君は、私の大事な秘書だもん! 私が唯一側にいて欲しいと思う人だもん! 彼氏役なら、君しかいないよ!」
「あ、天崎代理……」
彼氏役なら、君しかいない……。
代理にここまで言われたら、引き受けないわけにいかなかった。
「わ、分かりました……。それじゃあ、天崎代理がいいのなら……」
「うんっ! 私たち、今日だけ恋人ねっ!」
よろしく♪ と可愛いらしい笑顔を浮かべる彼女。
そんな天崎さんに連れられて、俺は会社の外に出た。
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