11話 魚釣島の清明 1/16

 心が弱いとはどういう事だろう。

 心が強いとは。

 ただの断片。私はこう思う。


 魂の大きさ。

 自我を持つ生き物は、入れ物に見合った魂が用意されている。

 しかし、稀に入れ物に見合わない、とてつもなく大きな魂を持って生まれてしまう者がいる。

 窮屈な入れ物の中で、魂は抑圧され押し付けられ苦しみ、行き場を探す。

 行き場を探し、暴れ、入れ物を傷つける。

 逆も然り。

 入れ物よりも小さな魂は、入れ物の中でぶつかり傷つき、何かに縋(すが)りたくても、縋るものもなく、ただ魂を傷つけ続ける。


 魂の大小が価値ではない。

 入れ物……器との調和・不調和が、生きやすさを決めるのだ。


 そう。

 私の器は魂に合っていなかったのだろう。

 そんな事を考え続けてしまう私は……そんな事を考える自由はとっくに失ったのに、考え続けてしまう私は……。


 自分の運命を呪い……いや、違う。

 諦めたはずの私を諦められていなかった私を呪った。


 だから世界に混沌が訪れ、私は「落ちた」。

 ただそれだけの事。


 私は気が付いていた。

 そうだ。

 とっくの昔に知っていた。

 私は「そうなった」訳ではない。

 もともと「そうだった」のだ。




 私は「空っぽ」なのだ。





 落とされたのに死ねない私は彷徨った。

 私は自らを終わらせることも許されず、私を誰かに終わらせてもらう事も……こんなに自分勝手を貫いて落ちた私にも出来かねる。

 自分以外の者に、そんな枷(かせ)は嵌(は)められぬ。


 彷徨って彷徨ってどれくらいの年月が経っただろう。

 辿り着いたこの南の島で、お前に出会ってしまった私を許しておくれ。

 お前は私が何者かも知らず、自分の巣を守るために、生きるための刃を私に向けた。


 私は死ねぬ身。

 許しておくれ、小さなサソリよ。

 私が呪われた身でなければ。

 私が彷徨い疲れて、あんなところで倒れていなければ。

 いや、私が私の運命を受け入れてさえいれば、お前は死ぬことは無かった。


 私に出来ることはお前を忘れぬように、夜空の星にすることだけだった。

 今でも、お前は私を責めながら見てくれているのか。


 すまない、サソリよ。

 星に見下ろされた私に残された道は、この罪を悔いて、身を焦がし人に尽くすことだった。

 以前の私には出来なかった事を……自らの周りの世界だけでも正しくしようと。

 しかし、今思う。

 どうして私は、あの時、私の命をお前にくれてやらなかったのだろう。

 あの時、私の魂よりも、お前の魂の方が輝いていたというのに。


 すまない、サソリよ。

 私はお前の死を、私の最大の罪として受け入れると誓ったのに、

 私はまた、間違いを犯してしまっていた。


 サソリよ。

 お前ならどうするだろう。

 守る事も出来なかった私が、守ってもらえるはずもないのに、ただのうのうと愛される事に甘え、私はここまで来てしまっていたのだ。

 もう私の為に奪われる命は、欲しくない。


 そうだ。サソリよ。

 私もお前のように、赤く輝く命になろう。

 もう何人(なんびと)も奪えなくしてしまおう。

 こんな私を許してくれるか? サソリよ。


 この身をお前に捧げる。

 どうか私を、お前の魂の結晶にしてくれ……

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