28.勧誘

シエロと別れた後は依頼主であるクレアの元へ行き、腕輪を渡して依頼を完遂させた。

その功績によって出禁は無事回避し幾許かの報酬も貰い、少し世間話をしてから寮へと戻った。

その頃にはなると日も傾き始めている。


 2人が寮のドアをあけると、ほぼ同タイミングで到着したシエロがメイド服に身を包んだ状態で到着した。

 部屋にはおやつ代わりにニンジンを齧るかじるコバートとトマトジュースを啜るアリータ、部屋の整頓をするリヴィアがいたので怜央はシエロを紹介した。


「――というわけで、新しく仲間になったシエロです。皆仲良くしてあげてね」

「ご紹介にたまわりましたシエロです。縁あって夏目様にお誘い頂きここで暮らすことになりました。これからよろしくお願いします」


 ペコりと挨拶するシエロを見て、怜央とテミス以外はただただ驚いた。


「ちょっとちょっと、突然何なんのよ一体。聞いてないわよ?」

「その服は……」

「怜央!おまっ、ちょっとこっち来い!」


 そう言ってコバートは部屋の隅に連れやると、小さな声で問い詰めた。


「お前あんな可愛い子どっから引っ掛けてきたんだよ!? しかもここに住むってまじ!?」

「あ、ああ。まじだ。俺の作るギルドにどうかって誘ったら来てくれた」

「いやいやいや。それだけで一緒に住むは無いでしょ! 一体どんな弱み握ったんだ?」

「バッッッカ失礼だなお前。あれは単純に俺の魅力によるものさ」

「くぅーーーあっ! 羨ましくてぐうの音も出ねえ!」


 怜央はちょっとした優越感を抱きコバートの腕をほどいた。

 皆の方へ戻るとわざとらしい咳払いで注目を集めて、とある提案をした。


「えー、皆ちょっと聞いてくれ。テミスとシエロ、そして今しがたコバートにも伝えたが、俺はギルドを作ろうと思う。そこで! 俺のギルドに入ってもいいって言う人手を挙げて!」


 怜央はシュバッと手を挙げると、それに追随するかの様にシエロも手を挙げた。

他はすぐに手を挙げる気配がなかったので怜央はコバートをチラ見し念を送った。


 コバートは無駄にやれやれ感を出し、わざとらしいため息を着きながらゆっくりと手を挙げた。


「まあいいよ。他に行く当てもないしな」


 怜央は次にアリータにアイコンタクトを送った。


「……何よそんなに見つめて。私は入る気ないわよ?」

「ええっ!? どうして!?」

「どうしてって別に、あんたのギルドに入る義理なんてないからよ。それに今は学園中のあらゆるギルドとこが勧誘してるけど、それなりに魅力があるものが多いわ」

「そんなこと言わずにさぁ〜。俺とアリータの仲じゃないか」


 怜央はベットに座り、横に居たアリータの肩に手をまわそうとするも無事、叩き落とされた。


「アンタさ、ちょっと勘違いしてない? 私は優秀なのよ? 他の所からいくらでもオファーがあるっていうのに、なんで作ったばっかの弱小ギルドに入らなきゃいけないのよ。どうせなら一流のとこに入るわ」

「寂しいこと言うなぁ……。――なら、逆に考えよう!アリータがギルドを盛り上げて一流のギルドにするのだと!」


 怜央は立ち上がり、拳を握りしめて説得にあたる。


「ゼロから育てるのもきっと楽しいぞ!」

「それはそれで面倒くさそうだからパス」


 けんもほろろな対応に、流石の怜央も心が折れかけた。

とりあえず、アリータの引き込みは難しいということがわかったところで、怜央の勧誘対象は他へと移った。


「ちなみに……リヴィアさん? もし興味があるならリヴィアさんもどうかなーなんて、思ったりしちゃうんですけどねー、ははは……」


 怜央はチラッチラッと熱視線を送り、最早メンバー獲得に必死である。

だがその思いとは裏腹にリヴィアも乗り気ではなかった。


「私……ですか? お誘いはありがたいのですが……」

「ですが……?」

「やはり、私にはとても勤まるようには思えませんので遠慮をと……」

「いやいやそんなことないって! え、なに? リヴィアさん魔法とか使えないからって遠慮してる感じ?」

「そういうことではないのですが……すみません」


 怜央は自分の布団に腰を下ろして放心気味に身体を倒した。

天を仰ぐその様は、当てが外れて予想以上に皆が乗ってこなかったことを意味していた。


「まじかー……。そうなると俺とシエロとコバートの3人……。立ち上げに必要な5人にはちと足らんな」


 怜央がぼそりと呟くと、案の定ツッコミを入れた人物がいた。

 それは勿論この場で唯一誘われなかった1人、テミスである。


「ちょっとちょっと! 私は!? 1人だけ除け者にするなんてお姉さん感心しないわ」

「誰がお姉さんじゃやかましい! シエロのお祖母様にも言われてたろ? 反社会的で異常心理だって。流石の僕もそういう人はちょっとねぇ」

「あら、そんなこと言うの。ふーん……?」


 そう言うとテミスは自分のベットの上にどっさりと武器を取り出した。

その中からひとつの剣を手に取ると、反対の手に砥石を持ってシャッシャッと研いで手入れを始めた。

その音はわざと大きく聞こえるようにされたもので無言の圧力、脅しと言うべきものでもある。


 だが、前提としてそもそも人は足りていない。

テミスにああいったものの、怜央は初めから誘う予定だった。


「……わかったわかった。テミスも入る?」

「入ってくださいお願いします――よ」


除け者にされたのが相当気に障ったのか、怜央には意地悪をした。


「くっ……。テミスさん……入ってください……」


 という怜央の言葉では不十分だったようで、より一層研ぎ音を立てる。

怜央は我慢して絞り出すように声を出した。


「……お願いします」

「ふふん。そこまで言われたら仕方ないわね」


 そう言うと手元の武器を瞬く間に片したテミス。

つまり、手入れが目的でなく、あくまで手段であったのだ。

怜央に誘われるためだけの。


 しかしテミスが入るとしてもギルドメンバーは4人。

ギルド発足のための定数にはあと一人足りない状態であった。

シエロはそれを指摘する。


「しかし後1人足りないんですよね? 夏目様には何かお考えがあるのでしょうか?」

「お考えねー。……お考え。お考えは――今のとこ無いかな」


怜央は気まずそうに目を逸らすも、シエロは大して気になどしていなかった。

それどころか怜央を信頼し、ポジティブさを見せる。


「そうですか。でもきっと大丈夫ですよ。なんて言ったって夏目様ですから♡」


 全くの謎理論であったが、その一声とシエロの屈託のない笑顔に怜央も元気づけられたのは間違いない。


「ああ、なんとかなるさ。なんとかならなくてもなんとかするよ」


そう言って最後まで、怜央が希望を捨てることはなかった。

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