26.持込み物検査

 怜央らが密入国を企ててから3日後、送別会やら依頼の腕輪を貰う許可を取り付けるやらで時間はかかったが、無事帰国することができた。

勿論シエロも同伴してだ。


 依頼から帰ってきた際、現地からの拾得物を所持していると自動的に特別な部屋へと転移させられる。

そこでは空港での荷物チェックと似たようなことを行い、禁止されたアイテムや許可の無いもの、或いは危険と判断されたものを没収したりしていた。


 その部屋に転移してきた怜央は見えないシエロの無事を確かめた。


「シエロ大丈夫か? ちゃんといるか?」

「はい。ここにいますよ!」


 シエロは怜央の腕に絡みつき、声と感触の2つで安否が確認できた。


「さあ、問題はあそこね」


 テミスが指し示すのは持込み物検査場。

部屋の出入口に設置され、人や物が自由に出入り出来ないようにされている。


 そこには仰々しい金属探知機のようなものがあり、転移前に所持してなかった物が通ると警報がなる仕組みだ。

 なのでそういったものは事前に出すよう係の人から言われる。


「俺が考えるに2通りのやり方がありそうだな」

「――してそのやり方とは?」

「ああ。1つはゲートを俺と一緒に通り抜けて貰う方法だ。勿論警報はなるが腕輪を提出し忘れたとでも言って差し出せば腕輪に反応したと思ってくれるだろう。もう1つは係員のいるカウンターの中を通ってもらう方法だ。上下左右の空間は狭く、やりにくくはあるが警報は鳴らさずに済む」

「なるほどね。でもあの探知機の性能がわからない限り通るのは避けた方がいいと思うの」

「となるとカウンター側だが……シエロ、いけそう?」

「そうですね……」


シエロはカウンターと係員を観察し、通り抜ける算段を考えた。


「あそこの係員さんがしゃがんでさえくれれば何とかなりそうです」

「……わかった」


 怜央はテミスにアイコンタクトを送ると持込み検査の列に並んだ。

暫くして順番が回ってくると、係員は怜央に声を掛けた。


「はい、それじゃあここに端末を重ねて、持込み物があれば提出して下さいね」


 怜央とテミスは指示に従い順番にスマホを重ねた。

そうすると怜央らの情報が職員の操作するPC端末に表示される。

それでその職員はあることに気付いた。


「あっ、夏目学長のお孫さんでしたか! 入学されてるとはお聞きしてましたがまさかこんなに早くお目にかかれるとは」


職員はにこにことして、初対面の割りに好感触の様子だった。


「初めまして、夏目です。実はここを通るのは初めてで何をしたら良いのかよくわからないんです」

「そうですかそうですか。この季節は初めてという方も多いですからね。でも簡単なものですよ。異世界からの持込み物がある人は自動的にこの部屋に通されるので、その対象物をこちらのトレーに乗せて頂ければいいのです。PCこちらを見る限り調達系の依頼を受けていたということですので……腕輪? ですかね。それ以外にも持込み物があれば提出をお願いします」

「もし内緒で何かを隠してここを通ろうとしたどうなるんです?」

「それはバレます。未申告の物があれば反応しますからね」


 職員はゲートをコンコンと叩いて見せた。

怜央は相槌を打つとシエロの里から貰ってきた腕輪を2つ差し出した。

1つは依頼用に貰った物。もう1つはシエロから怜央へと贈られた物だ。


「はい、お預かりしますね」


そういってアイテムをカウンターの横にあるX線装置の様なものに入れてベルトコンベアで流した。

そのアイテムはゲートの外に出たが何も問題は無かったようだ。

職員は書類とペンを差し出して怜央に渡した。


「今回はパーティーでの依頼ですのでどちらか一人が代表して書けば大丈夫ですよ。こちらにあのアイテムに掛かる税金が書かれてますので、金額に納得されたらサインして貰い手続きは終わりになります」

「分かりました――って、高! 税金めちゃくちゃ高!」


その書類に書かれた税額は1億3千万ペグ。

とてもとても、怜央にはそれを払えるだけのお金は持ち合わせていなかった。


「ああ、余程貴重な物か何らかの価値があるアイテムだったんですね。でも安心して下さい。調達依頼の依頼品にかかる税金は依頼主に請求されるので、今回のサインは誰が持ち込んだかの確認みたいなものですから」

「あー。それは良かった。とてもじゃないですけどそんな大金持ってませんからね」


そういって怜央は書類にサインし、書類を反転させて職員に差し出した。

その時同時に渡されたペンも置いたのだが、チャンスはここにあった。


 わざとペンの先が書類に乗っかるように置き、職員が書類を手に取ろうとした時に魔力統制を使ってペンを小突き落としたのだ。

咄嗟の判断にしてはよく出来ており、職員も自分のせいで落としたとしか認識してなかった。


「おっと、失礼」


 そう言ってペンを拾おうと屈んだ時、カウンターにはシエロの通れる空間が出来た。

シエロはずっとこの瞬間を狙っており、見逃すこともなかった。

職員が屈んだ瞬間に素早くその上を通り抜けた。

その姿は怜央らに見えなかったが職員の髪が不自然に靡いたことから成功したのだと察することはできた。


「それでは手続きは以上になります。隣のゲートをくぐって何も無ければそのまま行って構いませんよ」

「ええ、ありがとうございます」

「どうも」


 怜央とテミスは礼を述べてゲートをくぐったが、特に何も無かった。

この時誰しもが、シエロの密入国は成功したのだと思った。

そう、のだ。


 そしてそのまま気取られることなく何事も無いかのように、冒険センターの入口に向かって歩き出す。

すると不意に、テミスは怜央に尋ねた。


「ねえ。この前私達の部屋に来てたオッサンいたでしょ? あのオッサンとは仲良さそうだったわよね?」

「何だ急に? まあ俺の爺様に世話になったっつってたし、何やら龍雪さ――じゃなくて、父と同級だとも言ってたから、目を掛けてくれてるのはあるかもしれないな」

「そう。なら大丈夫ね」


訝しげにテミスを見る怜央が冒険センターの入口に差し掛かった時、不意に後ろから声が聞こえた。


「おい。お前さっき変な所からでてきたやろ。ワシは見とったぞ」


 そう、ドスの聞いたこの声は1度聞いただけで誰だかわかる。

怜央が振り向くとそこには、異能学部学部長水谷星一が透明化の解けたシエロの腕を掴んでいた。

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