第12話 義父

 私の義父は、地元に愛される小さなお鮨屋さんを営んでいます。


 寡黙で職人気質なイケメンです。


 ある日、接待で某有名飲料メーカーの会長さんを連れてきた、地元会社の社長さん。


「大将!今日はエライ人を連れてきたから、特別なモノを頼むよ!」


 なんて言いながら座ったところ、義父は、


「すいません、お客さん。ウチは来て頂いたお客様がどんな立場の方でも、同じ物しかお出しません。特別扱いを受けたいのなら、他の店に行って下さい」


 その時は、エー!?って思いましたが、何故かその会長さんと打ち解け、今もお得意様のようです。


 と、いうような、少し硬めの真面目な義父から、先日、突然電話が……


 何事?!と慌てる私。


「いやー。とまとちゃん。参った参った」


 と。





 話はこうでした。


 夜遅くに、お得意様から、出前の注文が入ったので、自分で配達に出掛けたところ、検問に遭ってしまった。


 呼気検査と免許証の確認をされたのですが、義父は早く配達して店に戻りたくて、イライラ。


「免許証を見せて下さい」


 と言われて素直に出したところ、


「お父さん、からかってないで!真面目にやってよ」


 急いでいて、イラ付いてるトコロに、タメ口で言われてすっかり頭に来た義父は、


「あぁん? テメェこそ仕事の邪魔しやがって、ふざけてんじゃねぇぞ!」的な、熱い事を言っちゃったと。


「コレ、見て」と返された免許証は、、、

『なめ猫』の免許証だったんです。


「いやー。恥ずかしかったー」と義父。


 免許証入れが二つ折りタイプで、免許証とその反対側に、カードとか名刺とか入れられるようになってるのですが、焦って反対側の方から取り出しちゃったんですね。


 そこには、遥か昔、息子がイタズラで入れたオモチャの免許証が入っていた訳です。


 イタズラされてるのは知っていたケド、免許更新の時しか免許証を出さないから、すっかり忘れてたと。





「なめ猫?」なんか聞いたことあるな。


 ググりました。


 皆さん、知ってます?


 超ー可愛いですね。


 猫が学ラン着てて、不良やってるんですよ!


 暴走族とか、バンドとか。


 そこで免許証発見!


 有効期間のところに「なめられたら無効」とか書いてあって、ギャグが効いてて面白い。




 ……確かにね。


 検問でコレ出したら、警察の人は、真面目にやってって思うよね。


 因みに、義父の「なめ猫免許」は「死ぬまで有効」だそうです。

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