NO.7-16 白雪❆様 「ニート候補生の僕がパパになって、銀髪美少女が僕の娘になる」

【募集テーマ】

 Thema:「音楽」(再企画)

 企画募集日:2019.9.24


【作品名】

「ニート候補生の僕がパパになって、銀髪美少女が僕の娘になる」

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884480873


【作品概要】


 ChessRankingSystemチェスランキングシステムという、変わったピアノコンクールにおいて、優秀な成績を修めていたにも関わらず、ピアノと向き合うことを止めていた早見優人が、白雪と言う名の少女と出会い、再びその舞台へと戻って行くお話。


【感想】

 実を申しますと、企画者はこの作品を拝読したことがございます。そして、お話の設定に関して申しますと、中々面白い発想をされていらっしゃると素直に思います。

 ピアノを始め「コンクール」と呼ばれるものは、楽譜に含まれた意味をいかに正確に読み解き、それを表現できるかということが評価される基準になっております。楽譜には音符は勿論のこと、速度用語、拍子記号、強弱記号のほかに、どのように演奏して欲しいのか、ということなどが書かれております。楽器を奏でる方々は、それらを読み解き演奏するわけですが、それらをただ正確に弾いただけでは、音楽のはできません。

 それ故に、有名なコンクールに出場する人たちの中には、作曲家の人生について調べたり、どういう時代に生み出されたのかということを学んで、それを自身が演奏する曲に載せてゆくのです。そして、コンクールの審査員たちは、いかに楽譜通りに弾けているかということに加え、情緒や演奏者の曲の解釈を聞き取って評価するのです。しかし何故楽譜通りに弾かなくてはいけないのかと言えば、楽譜自体は同じようにコピーしていけば未来に継承できても、演奏自体はそうはいかないからです。彼らは、今までもこれからも、楽譜に込められた音楽を未来につなげていくために、楽譜の解釈をとても大切にしているのです。(勿論、中には色々ことを目論んでいらっしゃる方もいるとは思いますが)

 しかし、この作品ではその「コンクール」にありがちである「譜面通りの演奏」を、あえてしません。演奏者は原曲について如何様にもアレンジしてよく、その良し悪しを決めるのが如何に「感動させられるか」というところに焦点が当てられているのです。それ故にこの作品はコンクールの「隙」を付いた作品である、ということを作者様には以前申し上げたことがございます。

 ただこちらを読んでいらっしゃる方の中で、誤解をされる方もいらっしゃるかもしれませんので一つ申しておきますと、「譜面通りの演奏をする」とは言いますが、同じ曲を別の人が演奏しているのを聞き比べるとに気が付きます。不思議なことですが、それがまた音楽の面白い所であり深い所でもあります。


 さて、前置きが大分長くなりましたね。では、内容についてどうであったのか申し上げていきましょう。

 設定に関しては、上記に述べた通りです。面白い設定ですし、作者様自身がこの作品に出てくるキャラクター達を好いていて、大切にしていることも分かります。それ故に、話を読み進めても、キャラクターの性格や話し方は一貫しているので、とりあえず安心して読んでいられます。

 しかし、この作品は読んでいて、どこか「背伸びをして頑張っている」という風に感じます。何故そう思うのかと言えば、地の文と会話文に対して音楽の知識や文学の知識が不釣り合いのように思えるからかもしれません。そのギャップがいいと言う方もいらっしゃるでしょう。企画者も決してそれが悪いと言っているわけではございません。ライトノベルのような作風の中に、本気の音楽の話が入ってきてもいいと思います。ですが、この作品にはその間を埋める役割をする部分が不足していると感じるのです。

 その理由として挙げられるのは、地の文が時折情報不足になっているときがあること、前後の文章から違和感や微妙な齟齬があること、そして作者様は言葉にならないような感情表現や音楽の導入部分に「……っ」や「……」、「――!」、「――♪」等をついつい選んでしまっている、悪く言えばそれでしまっていると感じてしまうことの3つです。


 一つ目の地の文が時折情報不足になっていることについて、次の文を引用します。


「episode23:……はぁ。バカ、鈍感、ヘタレ、ロリ」より

(引用開始)


 そう言って僕の手の平に軽く触れてくる。これは……。


「お陰様でな、音羽のおかげだよ。そして、何故音羽は僕の思考を自然と読んでるんだよ、怖いんだが」


「私、隠していたけれど、あなたの手のひらに触れると心が読めるの」


「……シェイクスピアのロミオとジュリエット、か?」


「え?」


「……正解、流石ね」


 満足のいく答えだからか、コクコクと頷く音羽とは別に、白雪がキョトンと今のやり取りを見て、首を横に傾げている。


(引用終了)


 この部分の会話で、企画者は「え?」が誰が話しているのか分からなくなりました。作者様は音羽が言わない台詞であり、その後に「白雪がキョトンとしている」と書いている為、あえて誰が話したのか書く必要がないと思われたのかもしれませんが、二人の会話に突然第三者が入る場合は、その説明をさりげなく入れたほうが親切でしょう。


 次に、前後の文章から違和感や微妙な齟齬があることに関しても引用します。


(引用開始)「episode5:狂姫、東雲静」


 僕が対象になった理由だとか「無理です、僕には」というあまり意味のない発言は避けておく。書類に書いてあることは間違いなく事実で、僕が拒否しようとすると、どんなペナルティが待っているのかがわからないからだ。


 しかも、この情報を知っているという今の状況がもうすでに詰んでいるし、もし拒否なんてしたら、下手すれば記憶ごと全てを消されることも検討に入れて、大人しくしておくことする。


(引用終了)


 ここで、優人はこれについて「拒否することは自分にとって不利だ」と言っています。誰がそう言ったわけでもありませんが、彼は賢いようで1の情報から10のことを推測することができています。それ故に、Project白雪を拒否したときに「記憶ごと全てを消される」ことも考えて黙っています。それ故に、彼はこのあと二つの質問しかProject白雪の責任者である東雲静にしません。


 続けて引用します。


(引用開始)「episode5:狂姫、東雲静」より


「理解が早くて助かるよ。君はもうこのProject白雪の意図に気づいているのだろう?」


 僕は目を閉じて、考察する。

 十秒ほどで考えがまとまり、僕なりに結論を述べることにする。


「政府が考案したのはきっとニート候補生と捨て子を一緒にして、ニート候補生が捨て子の為に才能を伸ばしていければ互いの為になる。それに、今の状況は日本経済の回復はもちろん、才能溢れる国ができるかもしれない」


「……続けたまえ」


「それに、いきなり実行しても成功する保障はない。そこで、まずは被験者を選んで実際に実験してもらって、その結果次第で今後の対策を考える。それで、Project白雪に選ばれたのが僕と白雪。これは偶然ではなく、決められていたのではないですか?」


「……」


「無言は肯定とみなしますよ。それに、あなたは今現役で活動しているCRSの女王

だ。ニート候補生である僕と捨て子の白雪、そして狂姫であるあなたがProject白雪の責任者として選ばれた……いや、違うな。何かしらの報酬があり、それが目的で自らこのproject白雪に参加し、協力しているってとこでしょうか」


「……ほう。今の今で、もうそこまで行き着いたのか。全く、頭が切れすぎるのも問題だね」


「正解ですか?」


「ご名答。早見少年にはいち早くそのピアノの才能と向きあってもらって、そのピアノの腕で白雪を育ててほしいんだ」


「育てる、だから『パパ』ですか……」


(引用終了)


 このようにproject白雪というのは、「ニート候補生が」ことであると優人は瞬時に理解し、次いで「早見少年にはいち早くそのピアノの才能と向きあってもらって、そのピアノの腕で白雪を育ててほしいんだ」と東雲静が説明しています。

 つまり、この時点で優人のピアノの才能が白雪の為に使われるであろうことと、白雪にもピアノの才能が多少なりとも備わっていることが分かるはずなのです。そして、優人はこのプロジェクトは拒否するのは危険であると感じ、最初の時点で「拒否することはペナルティになるのでしない」と言っていたのにもかかわらず、次の場面で前触れもなくそれを拒否をしています。



(引用開始)「episode7:パパのお腹の音、凄く大きい音ですね!」より


 どこまでもまっすぐで、相手を射抜く力のある表情。

 東雲静の黒い瞳の奥には、僕の知らない感情や想いが感じられた。


 ――――――――白雪にピアノを教える。


 東雲静が言うところの「教える」は、CRSでも通用するピアニストとして育ててほしいという意味に他ならない。


 全盛期のあの頃ならまだしも、僕の今の実力では、人にピアノを教えるなんて真似は到底難しいだろう。


 それに僕はもうピアノは弾かないと心に決めていたし、白雪ももっとちゃんとした先生に教えてもらった方がいいに決まっている。


「……っ、悪いけど」


 断ろうとしたところを察したのか、すぐさま開こうとした口を人差し指で押さえて、ウインクをしてくる。


(引用終了)


 確かに、優人がピアノを弾かないと言うことから、このプロジェクトを引き受けたくない気持ちは分かります。しかし、今の流れで彼は随分と先のことを推測しているにも関わらず、彼の気持ちは「episode7:パパのお腹の音、凄く大きい音ですね!」になってようやく追い付いて来るのです。

 東雲静との会話の中で、優人の心の変化を入れて、「最初はペナルティのことも考えて拒否しないと決めたが、やはりこれは引き受けられない」という流れが必要あると企画者は愚考致します。そして、このような細かい齟齬が他にもいくつか見受けられました。


 そして3つ目の「……っ」等についてですが、長い説明と引用を多用したことにより、大分長くなってしまったので省略致します。ご容赦ください。


 ただ、作者様がピアノを題材にした作品を書きたいと言う、確固たる意志があるからか、ピアノを弾いているときの表現は中々面白いと思います。言葉で「音」を表現するのは、簡単なことではありません。ましてや、アレンジしたものとなると、余計難しいでしょう。それ故に、努力しているというのは見受けられました。

 また、クラシック離れが進んでいる中、ベートーヴェンやモーツァルトの他に、リストやラヴェルといったクラシックを語る上で欠かせない作曲家の音楽を選んで出してくるところも好感が持てます。ピアノに関する知識も載せてありますし、ピアノの知識がない方や、クラシックに興味のない方にとっては入門になり得る作品になる可能性があります。

 お話はまだ未熟であると思いますが、音楽と言う面白さを語る作品として成長されることを、期待しております。


 以上。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます