1-5
野次馬の集会は、エリスンが校長室に飲み込まれていったところで解散になった。
だけどわたしだけは、彼女たちを後目に窓際に残った。なんていうか、余韻に浸りたかったんだと思う。さっき感じたトキメキというか、胸の高鳴りを確かめたかった。
わたしはしばらくのあいだ、窓から中庭を見下ろしていた。
クレセントの校舎は、その名の通り
中庭では、バラたちが荒れ放題だ。赤いのと白いのが混ざり合って、お互いの棘でお互いを傷つけあってた。
「無様、か」
わたしは独り言ちて、静かにため息をついた。吐息は空気の流れを作って、中庭に吹き下ろす。心なしかバラが小さく揺れた気がした。
わたしが真っ昼間から
「なにが無様なんだ?」
彼女はわたしの前で歩を止めるや、そう言い放った。わたしの独り言までちゃんと聞いてたらしい。すべて見計らって、計算し尽くしたタイミングでやってきたみたいだった。歩き方は乱暴そのもので、品性のかけらもないのに。脳筋に見えて妙に計算高いんだよね、この人。
メリッサは血の付いた軍服を着ていた。イギリス陸軍だかなんだか知らないけど、レジメンタル・ストライプのネクタイに返り血が付いている。きっとエリスンの鼻血だろう。
「なにがって、あのバラですよ。誰も手入れしてない。無様ですよ」
「バラ?」
「ほら、あれ」
わたしはそう言って中庭を指さしたけど、メリッサのやつは見向きもしなかった。きっと求めてる答えと違ったんだと思う。
「M2、お前に仕事だ」
「仕事?」
「ああ。仕事だ。だが、その前に
「わたしを? クラスBの底辺生ですよ? いったい何の仕事です?」
「詳細はまだ伝えられない。が、重要な任務だ。三日後、試験を実施する。用意しておけ」
「用意って……。わたし、何をすればいいんです?」
「詳しくはスペンサーに聞け」
「スペンサー? なんであいつに」
「なんでもなにも、お前の主治医だろ? じゃあ、私は他にやることが山積しているから。M2、お前は早くスペンサーのとこに行くんだ」
「はぁい」わたしは気の抜けた返事をしてから、「ねえ、それってもしかしてエリスンと関係ある?」
「答える義務はない」
メスゴリラのやつ、いつも以上に眉間に皺寄せて回れ右してった。それはイエスって言ってるのと同じだと思うよ、メリッサ。
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