第26話

「泰道さん」

「何?」

さおりに呼びとめられる。


「わがまま言っていいですか?」

「何?可能ならいいよ」

「お兄ちゃんって呼んでいいですか?」

「いいけど・・・どうして?」

「お姉ちゃんばかりで、お兄ちゃんが欲しかったから・・・」

さおりは、もじもじしている。


「いいよ。さおり」

「ありがとう。お兄ちゃん」

僕に妹が出来た・・・


実の兄弟よりも、他人同士で兄弟のちぎりを交わしたほうが、結束が強くなる。

喜んで、受け入れた。


そして、お花畑をおり、どんぐりの森をぬけて、静養所に戻ってきた。


何だか、すがすがしい・・・


そこへ、ボールが転がってくる。

「野球の硬式ボール?」

かなり、使いこまれているな・・・


「すいませーん」

声のするほうを向くと、男の人がいる。

昨日の人だ。


あっ、向こうから来た。


「サンキュー。昨日も拾ってもらったよね」

「覚えていて・・・」

やはり、見たことある。


「今、見たことあるって思った?」

男の人が言う。


鋭い。


「おーい、まだか?」

向こうから女の子の声がする。


「ああ、今行く」

その前に、女の人が駆け寄ってきた。


「あっ、君、会田泰道くんだろ?さくらの担当の・・・」

「そうですけど・・・あなたたちは一体・・・」


男の人が礼儀正しく挨拶をしてくれた。


「申し遅れました。僕は、村金秋吉。18歳です」

「初めまして、相田泰道、17歳です」

そういや、男の人と話すのは初めてだ。


「で、この方が・・・」

秋吉さんは、隣の女性を差す。


「俺は、鈴本久子。彼の担当だ」

俺女ですか・・・


「僕は甲子園に出たのですが、当番過多で肩を壊して、ここに来たんだ」

あっ、高校球児か・・・


「今は、リハビリ中。彼女はそのための、担当だ」

「よろしくな。泰道」

ああ、野球繋がりね・・・


ここまで、徹底しているのか・・・


「じゃあ、行くか?秋吉」

「おお。じゃあまたな。泰道」

「また」

何だか、調子が狂う・・・


去り際に、久子さんが言う。


「泰道、早く部屋に戻れよ」

久子さんは、ウインクをする。

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