レポート 8:『孤独の苦悩』
自分も眠りにつこうと自室のベッドへと寝転がり、数分。
頭の中では、色濃く染みついた思い出の数々、今までの全てが記憶の断片となって沸々と鮮明にも蘇っていた。
6歳の初恋と失恋。
7歳の一目惚れから始まった、10年以上もの片想い。
ませたガキのどうしようもない引きずりっぷりに呆れを通り越して、おかしくて笑みを溢してしまう。
そして、その隙間に挟まれるドス黒い不幸が、邪魔で邪魔で仕方がない。
――俺の家族は、瑠璃だけだ……。
最愛の人。
血縁なんて関係ない。
むしろない方がロマンチックでいいとさえ思える。
親のくせに何も見てはくれていない。
ただただ自己中心的な押し付けがましい優しさと、幾つもの矛盾で溢れた傲慢な親。
その血が自分にも流れているというだけで、吐き気がするのに。
家族によって生まれた幸せがどれだけあっただろう。
そんなものは数えるまでもなくゼロだ。
どうして家族なのに子を否定する? どうして家族なのに気を使って、取り繕った笑みを浮かべなければならない? どうして子の夢や希望を摘み取っていく? どうして何もかも縛られなきゃならない? 人は生まれながらに平等? 笑わせるな、こんなのは過保護でも何でもない。ただの侵奪と保身に塗れた、自分勝手で卑怯な独裁者だ。呪いの何ものでもない。貧相な暮らしで何が手に入った? 何もないだろう?
――やめよう……。
親のことを少し考えるだけで、沸き立つ憎悪が止まらない。
今更、縁を切った相手のことを考えても仕方がない。
あそこに幸せなんてなかった。
あいつらとは何もなかった。
ただそれだけ。
――そんなことより、
今は他に考えるべきことがある。
長重による生徒会強制加入イベント。
顔合わせにより出現した『あかね』という存在。
こんなにも過去に因縁のある出来事に遭遇するとは、運命としか言いようがない。
だからこそ、感慨深い。
自分がやってきた行いを見つめ直させてくれる。
どれだけ悔いたかわからない。
ずっと付きまとっていた重荷が、目の前に形として現れた。
なら、自分がとるべき行動はただ一つ。
この機会をもって、全てを終わらせる。
何もかも――。
まずは松尾が本当に『あの子』なのか、確かめなければならない。
今はどこで何をしているのかもわからない人。
――けれど、
あの日交わした約束を破ってしまったこと。
何に変えても守らなければならなかった、忘れることのできない初恋。
――もし、
もしも彼女が本当にそうであるならば、その人であるならば、贖罪を背負おう。
忘れているかもしれない。
覚えていないかもしれない。
それでも、ただひたすらに謝りたかった。
わかっている。
これはただのエゴ。
一方的な懺悔でしかない。
長重に対してもそう。
彼女から奪ってしまった記憶。
あれは単なる事故だと皆は言ってくれたが、同じく失いかけた者として、見過ごすわけにはいかない。
昔の『彼女』を取り戻す。
それは今の彼女を否定するわけでも、昔の『彼女』を肯定するわけでもない。
ただ彼女に空白の
奪われたもの、奪ったものを返す。
元あった場所に戻ってきてもらう。
本当に自分勝手な願いだった。
――もう、寝よう……。
嫌なことばかり考えると、必然と瞼を閉じて現実から目を背けてしまう。
どっと疲れた精神を休ませるべく、張っていた気を解いて楽になる。
――今日は、色々ありすぎた……。
今はもう、何も考えたくはない。
先のことは、その時考えればいい。
そんな甘えが生じながら、意識は遠のいていく。
そうやって、長いようで短い夜が過ぎていった。
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