第6話 再戦《リベンジマッチ》

「ゴォォォアアアアア!!」


 赤巨人レッドエノルマスが雄叫びを上げ、右手に持つ大剣を振りかぶり、佑吾に向けて叩きつけた。

 直撃すれば、いくら防具を身につけていてもそれごと叩き割られて即死する一撃。しかし、佑吾は──


(──見えた!!)


 その剣のスピードを見切り、かつてアフタル村の洞窟で遭遇した赤巨人レッドエノルマスにライルがそうしたように、ギリギリを見極めてその一撃を交わした。

 そして、即座に剣による反撃に転じた。


「シィッ!!」


 氣術<剛体ごうたい>を使って全身を強化し、赤巨人レッドエノルマスの懐に潜り込んで、右脇腹から左肩に向けて斬り上げた。


(硬い……!)


 しかし、赤巨人レッドエノルマスの強靭な筋肉に阻まれたせいか、佑吾がつけた斬り傷は浅く、奴の肌と同じ色の赤黒い血が、少し流れた程度だった。


「グガァァァ!!」


 斬り付けられた怒りから、赤巨人レッドエノルマスが剣を持っていない左手で、佑吾を殴りつけようとした。

 佑吾はそれに即座に反応し、剣を構えて防御した。


「うぐっ⁉︎」


 ゴガンという鈍い音ともに、赤巨人レッドエノルマスの拳が佑吾の剣にぶつかった。

 そしてその衝撃で佑吾の体が浮き、後ろへと吹っ飛ばされる。


「くっ、<風刃ゲイルド>!!」


 後ろへと吹っ飛ばされた佑吾は何とか着地し、それと同時に左手を前に突き出して、風の魔法を放った。

 <風刃ゲイルド>による風の刃が、佑吾を殴りつけた赤巨人レッドエノルマスの左腕に直撃し、先ほどの剣撃よりも深い傷を負わせた。


「グギャア!?」

(魔法の方がダメージがでかい。それなら──)

「グゥゥゥ……ブゥゥルァアアアアアアアアアア!!」


 痛みで怒り狂った赤巨人レッドエノルマスが、大剣を両手で持って佑吾へと接近し、やたらめたらに振り回し始めた。

 大剣は凄まじいスピードで振り回され、尋常ではない力で地面に叩きつけられていた。

 この猛攻にもし巻き込まれてしまえば、かすっただけでも瀕死の重傷を負い、まともに食らえば間違いなく即死するだろう。

 赤巨人レッドエノルマスを倒す算段を考えていた佑吾は、その猛攻に慌てて思考を中断し、仕方なしに回避に専念することにした。

 しかし、一発でもまともに食らえば即死してしまう状況で回避し続けるのは、佑吾の精神力をどんどんと削っていった。


(このまま避け続けるのは無理だ! なんとか隙を見つけて、あの技で一気に倒すしかない!)


 そこからは、根比べが始まった。

 佑吾はもはや攻撃することは考えておらず、赤巨人レッドエノルマスが早く隙を見せることを願いながら、ひたすら赤巨人レッドエノルマスの攻撃を回避し続けた。

 反対に赤巨人レッドエノルマスは、下手な鉄砲数撃ちゃ当たると言わんばかりに、大剣を佑吾に向けて振り回し続けた。

 佑吾が回避に失敗して死ぬのが先か、赤巨人レッドエノルマスが疲れて隙を見せるか、その根比べだ。


 先ほどのように、ギリギリで攻撃を回避するような余裕は佑吾にはなく、赤巨人レッドエノルマスの初動から攻撃の動きを読み、素早く避けていた。

 しかし、そんな簡単に一筋縄ではいかなかった。

 赤巨人レッドエノルマスは、自らが持つ大剣だけではなく、その丸太のように大きい手足も使って攻撃をし始めたからだ。

 大剣を振り下ろした直後に片手を横なぎに振るう、巨大な足で蹴り上げてくる、そしてまた大剣を振るう、連撃に次ぐ連撃だ。


 暴れ回る重機のような攻撃に次第に佑吾は追い詰められ、剣で攻撃を防がなければならない状況が増えてきた。

 赤巨人レッドエノルマスの一撃一撃は重く、氣術で肉体を強化して剣で防いでも、佑吾の肉体に少しずつダメージを与えていった。

 そんな数分が数時間にも感じられるような危機的状況の中、早く終わってくれという佑吾の祈りが通じたのか、もはや何度目かも分からない大剣を叩きつけた直後、赤巨人レッドエノルマスが大きく息を吐き、その攻撃の手がようやく止まった。


「ガフッ…………」

「っ! ここだ!」


 その隙をずっと耐えて待っていた佑吾は、それを見逃さずに赤巨人レッドエノルマスへと駆け出した。

 そして、奴を倒せるとっておきの技の発動に移る。


 「<剛体ごうたい>!! <腕力増強アレムスト>!! <ティオル風刃ゲイルド>!!」


 佑吾は、氣術と魔法の両方を用いて自分自身の肉体を強化していった。それにより、体の奥から並々ならぬ力が湧いてくるのを感じる。

 さらに、先ほど放った風の魔法を赤巨人レッドエノルマスにではなく、自らが持つ剣に向けて放つ。

 すると放たれた風の魔法は、剣を傷つけることなく、まるで剣に馴染むかのように表面にコーティングされ、剣は若葉色の光を帯びた。

 剣から風の魔力が溢れる。


「ハアアアアアッ!! <風刃ふうじん斬り>!!」

「グギャアアアアア!?!?!?」


 そして赤巨人レッドエノルマスへと肉薄した佑吾は、強化された肉体で渾身の力を剣に込めて、強烈な一閃を放った。

 その斬撃は、赤巨人レッドエノルマスの硬い筋肉を深く切り裂いた。

 赤巨人レッドエノルマスの胴体に大きな斬り傷が生まれ、少し遅れて、ごぽりとその傷口から大量の赤黒い血が流れ始めた。


「アッ……ガァァァ……」


 やがて、短く小さな断末魔と共に、赤巨人レッドエノルマスは前のめりに地面に倒れた。


「良かった……何とか勝てた……」


 赤巨人レッドエノルマスが動かないのを確認した後、激しい息切れと共に、佑吾は膝をついた。

 佑吾が放てる渾身の技、<風刃ふうじん斬り>は威力は大きいが、その分体への負担も大きい。

 <風刃ふうじん斬り>を放った剣を持っていた両腕はずしりと重く、動かすのが億劫なほどだった。

 また、赤巨人レッドエノルマスの猛攻を回避し続けた足は、プルプルと膝が笑って力が入らない有様で、攻撃を防いでいた体は痛みでボロボロだった。


「早く、他の村人を助けに行かないと……」


 それでも佑吾は、震える足に力を入れて立ち上がった。

 こうしている間にも、村人は魔物に襲われ、それを助けるためにライルやエルミナたちが頑張っているのだ。

 そんな中、自分一人だけ疲れてうずくまっている訳にはいかない。

 何とか立ち上がった佑吾は、持っていた剣を鞘にしまい、他の村人を助けるべく、その場を後にした。

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