第252話52ヘルツのクジラたち(ネタバレあり)

 やっと本屋大賞受賞作である「52ヘルツのクジラたち」を読み終えた。虐待ありのDVありの重い作品だったが、主人公が意外とさっぱりしているので、読み終えた率直な感想は、ほっとしたといったところだ。

 物語の中盤まで救いのない苦しいはなしであったのだが、後半から事態が好転して、ハッピーエンドに至る。このハッピーエンドが絵にかいたような理想的なハッピーなので、正直言って拍子抜けしてしまった。あまりにも苦しい展開の連続から急に幸せいっぱいのエンディングでめまいがした。ちょっと都合が良すぎる気がするのだ。確かにハッピーエンドで終わって肩の荷は下りたが、この物足りなさはなんだろう。きっと主人公が虐待を受けた割にはサバサバした性格なので、いまいち虐待の現実味が薄いというのもある。主人公は不幸のどん底にあっても、次の場面ではあっさりと環境を変えてしたたかに幸福をつかもうとする。なんともしぶとい人物なのである。

 虐待をテーマにした小説なので、ハッピーエンドで終わらせないと救いがなくなるのは分かるが、こういった深刻なテーマなので、もう少し結末を現実味のあるものにしてほしかった。

 とはいえ、深刻なテーマのわりにはサクッと読むことができた。不思議な本ではある。

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