第61話 逮捕

 窓から溢れる光に照らされ、私は目を覚ました。


「起きたかい?ハル」

「……うん。おはよう、ラック」


 私はゆっくりと身体を起こす。硬い床で寝たせいか身体のあちこちが痛かった。

 ラックは既に起きていたが、そこにはアレンとフォクセルの姿がなかった。


「アレン船長とフォクセルさんは?」

「船長なら朝早くにフォクセルを連れて何処かに行ったみたいだよ」


 それを聞いて私は部屋の中を見回す。


「リリさんはあれから?」

「さあ。結局、あの後戻って来なかったみたいだね」

「そっか……」


 リリは3年前の事件を知るランク・ナインの妹。

 昨日の口ぶりからして、恐らくリリは3年前に本当は何があったのか、真実を知っているのだろう。

 けれど、リリは軍人。

 無用な混乱を避ける為、国の秩序を守る為。

 真実を知りながも真実を隠蔽する国側の人間としてそれを語る事は許されないのだろう……そう思われた。


「さて、ハルも起きた事だし、船長達を探しに行こうか」


 私とラックはひとまず空き家を出て街へと向かう事にした。

 明るくなった街の様子は至って平穏そのものだった。

 行き交う人々の顔は笑顔で溢れ、街は活気があるように思えた。その光景からは、3年前にアレンの話にあったような凄惨な事件があったとはとても想像が出来なかった。


「船長達、一体どこに行っちゃったんだろうね?」


 隣を歩くラックがそう言って首を傾げる。


「………」


 昨日のアレンの話を聞いて、私はますますレイズの事が気に掛かっていた。

 そんな口を閉ざしたままの私を不審に思ったのか、ラックが私の顔を覗き込む。


「ハル?」

「この街の人は本当にレイズさんが国王を殺した罪人だと思ってるんだよね……」

「そうだろうね。船長の話じゃ、前国王の暴走によってほとんど地下の研究所は焼き尽くされ、後に残ったのは焼けた研究所跡の残骸だけ。

 おまけに駆け付けた兵達が見たのはフレイを手にしたレイズが国王と無数の焼死体の中心に立ち尽くしていた姿だった訳だし」

「………」

「それに、仮に真実が分かっていたとしても、国がわざわざ国王の行なっていた事の事実を公に公表するとは思えない。それならば、王都地下の研究所の事は内密にして、誰かが国王を殺害した事にしてしまった方が国民の目はそっちに向いて国の失態は隠せるだろうしね」

「……そんなの事実じゃないよ」

「確かにね。けどまあ、国がした事も分からなくはないよ。もし、国王がそんな凄惨な事をしていただなんて事実が露見すれば、国家の存続そのものに関わって来るだろうからね」

「けど、それじゃあレイズさんがっ」

「レイズだってそれはきっと分かっていた筈だよ。分かった上でそうしたんだ」

「それは、そうかもしれないけど……」


 あの場で国王の暴走を止めなければ、きっとこの街は、いや国そのものが壊滅していた。しかし、その結果、全ての責任をレイズが負う事になってしまったのだ。


「それじゃあ、あまりにもレイズさんが……」

「ハルは優しいね」


 言葉に詰まった私の頭をラックが優しく撫でる。


「………」


 私は続く言葉が見つからなかった。

 私とラックはその後もアレンとフォクセルを探して街を巡った。しかし、探せども探せども一向に2人の姿を見付ける事が出来ずにいた。


「本当に船長達はどこに行っちゃったんだろうね?」


 ラックの言葉に私は何度となくきょろきょろと辺りを見回し、2人の姿を探す。そんな折。


「おー!いたいたー!」


 前方から聞き慣れた声が聞こえた。

 その方向に目を向けると、アレンとフォクセルがこちらに向かって駆けてきていた。


「アレン船長!フォクセルさん!」

「船長、今までどこに行ってたの?」

「なに、ちょっと色々と街を探索してたんだよ」


 駆けてきたアレンは呼吸を整えながらそう言った。


「……て、その手に持ってるそれは一体?」


 私はアレンの両手に抱えられたそれを見る。アレンの両手には何やら高価そうな宝石やら美術品の様な物が大量に抱えられていた。


「ああ、これか。これはちょっとした戦利品だよ」


 戦利品って……一体どこからそんな物を?


「動くな!」


 訪ねようとした私を遮って突然辺りに怒号が響いた。見ればいつの間やら周囲一帯を憲兵に取り囲まれていた。


「全員その場を動くな!抵抗せず大人しく投降せよ!」


 取り囲んだ兵士達は銃やら剣やらを突き付けながらそう述べる。


「あちゃー。さっきの爺さん、流石に手が早いな」


 そんな状況にアレンは参ったと言わんばかりに苦笑を浮かべた。


 え、なになに?何これ?どういうこと?

 てか、さっきの爺さんって一体なに!?


「住居浸入及び窃盗の罪で逮捕する」


 一際偉そうな兵士がそう述べた。


 窃盗の罪ってまさか……


「アレン船長、まさかそれって……」


 私は恐る恐るアレンの抱えた宝石の類を指差す。


「さっきお偉い貴族様の屋敷から拝借して来た」

「拝借じゃなくて盗んで来たんですよね!?」

「まあ、品なく言うとそういう事かな」


 そう言ってアレンは笑った。


 一体何をやってくれちゃってるんだ、この人は。


 誰が見ても犯行は明らか。

 アレンとフォクセルと合流した私達はその場で即逮捕。そのまま憲兵によって連行された。


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