第44話 ディーレフト
目的地であるブランド大陸プリフロップへと向かう途中、アレンはレイズの申し出を了承し、クロート号は進路をやや北に逸れ、北西ディーレフト国へとやって来ていた。
「用がある」
レイズはそう言って、ディーレフトへと着いた途端、どこかへと消えてしまった。
その他、レイズ以外の乗組員達は総出で儲かる仕事の情報、航海用の資金を得られそうな情報を探す事となった訳だったのだが……。
「……て、情報を集めるんじゃなかったんですか!?」
航海資金の調達という名目のもと、船を降りた一行だったが、私とラック、アレンとフォクセルの4人がやって来た先は王都付近にある飲食店だった。
「まあまあ、腹ごなしも大事だろ」
そう言ってテーブルの向かいに座ったアレンは昼間だというのに酒を飲み、更に追加の酒を注文する。
全く、どうしてこの人はいつもいつもこうなのか。
陸に降りれば真っ先に酒場へ行き酒を飲む。
海の上でも毎日毎日酒を飲む。
依存症を通り越してもはや中毒なんじゃないかと疑いたくすらなってくる。私は呆れてため息を吐いた。
そんなアレンの向かって左、つまり私の右隣にはラック。そして左隣にはフォクセルが同じようにテーブルを囲んで座っている。
いつもならそこにレイズも入っていつもの面子となる訳だが、ディーレフトへと着いた途端、レイズはどこかへと消えてしまい、そこにレイズの姿はなかった。
他の乗組員達は恐らく真面目に資金源になりそうな情報を探しているのだと思われる。
それなのに……昼間っからこんな事をしていていいのだろうか?
「あんた達、観光客かい?」
そんな折、料理を運んで来た店員と思しき中年の女性に話し掛けられた。
「ああ、まあそんなところかな」
アレンは恰幅の良い店員から酒を受け取りながらそれに頷く。
「この国はいいところだろう、ご飯は美味いし酒も美味い!税金も易くて平和で住み易い!それに何よりこの国の女は美人が多いと来たもんだ!」
アレンの言葉を信じた女性店員は観光客だと勘違いした私達に鼻高々といった感じで豪快にお国自慢を披露した。
ブランド大陸の北西に位置するディーレフト国。
この国は気候も温暖で交易地として発展しているという。
農作物も多く作られ、西側が海に面している事もあって漁業も盛んに行われている。
住み易い温暖な気候に加え、税も他の国と比べて割安で治安も良い。王都ともなれば美しく整備され、東海でも珍しく地下に水道が敷かれているらしい。
またリゾート地としても有名な場所が多く、世界各国から多くの人が訪れるのだという。
「この国は本当に良い所だろう!」
店員は眩しいくらいの笑顔で言った。
彼女の話にアレンはうんうんと同調する。
「確かに料理も美味いし酒も美味い。それに貴方も相当綺麗ですよ、美しいお姉さん」
「あらやだ、もう一杯奢っちゃおうかしら」
珍しくキリッとした顔付きでそう言ったアレン。
アレンのそんな甘い言葉に女性店員は照れるような仕草を見せた。
恐らくはこんな言葉をこのアレン・ヴァンドールという男は行く先々で言っているのだ。そんなアレンを白けた目で見詰めていると、アレンは酒の入ったグラスを置いた。
「確かにここは数年前とは大違いだな」
「おや、前にこの国に来た事があるのかい?」
「ああ、まあな。3年前に一度だけ」
豪快な笑顔を見せていた女性店員だったが、その言葉を聞いた途端、眩しいくらいだった笑顔を消した。そしてを僅かに目を伏せる。
「3年前か……ちょうど前国王が亡くなった時だね。確かに3年前まではこの国は戦乱続きで随分と荒れていたからねぇ。それにあんな酷い事件もあって……けど、陛下が即位なさってからこの国は随分と変わったもんだよ」
「そのようだな」
アレンは再びワインを口へと運んだ。
***
「船長、以前ここに来た事あるの?」
「まあな」
ラックの問いにアレンは先程の女性店員が本当に奢りだと言って置いていった酒を口へと運びながら頷く。そんな女ったらしの異名を持つアレンの事は置いておくとして、私はどうにも街に着いた途端に姿を消したレイズの事がずっと気に掛かっていた。
「レイズさん、この国に何か用があるって言ってたけど……」
「まあ、ここはあいつの生まれ故郷だからな」
「そうなんですか?」
「ああ」
頷いたアレンを見て、ずっと様子がおかしかったレイズの事がますます気に掛かってしまう。
「なんだ、気になるのか?」
アレンの問いに私は頷いた。
「なんかレイズさんの様子、いつもとだいぶ違ってたから。なんかずっと深刻な顔をしていたし……」
船で引き揚げた男が突然炎に焼かれ焼失してから、ずっとレイズは浮かない顔をしていた。
「まあ、そんなに心配しなくても大丈夫だろう、あいつなら。――ましてやあいつ自身の問題なら尚更な。自分でなんとかするだろうさ」
そう言ってアレンはぐっと酒を飲み干した。
「さあ、用がある奴の事はほっといてじゃんじゃん飲むとしよう!」
「だから船長。もう本当にお金がないんだってば……」
奢りの酒に完全に気を良くし、本来の目的を忘れて酒を煽り始めるアレン。
そんなご機嫌なアレンの様子に私とラックはほとほと呆れずにはいられなかったのだった。
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