7―1

二日後――上弦の月の夜が、やって来た。


ミツコは鉛のように重い体を起こすと、それを引きずるようにして歩き出す。

長いスカートに隠された太ももには、ナイフの納められたホルダーが巻いてある。


「思い出の品だけど……返さなくちゃ。これが、最後だから」


最後―自分でそう言って、心がズキンと痛む。


ミツコにとっての『上弦の月』は、もう二度とやって来ない。


だから――


「全てを話すの。話して、受け止めてもらって、それ から―踊るの。それでお仕舞い。私の人生は、それで幕引き」


結局、『人の記憶に強く残る方法』は見つからなかった。

それでも、少しでも長くうつぎと一緒にいたい。少しでも長く、覚えていてくれたら――


それが今の、ミツコの気持 ちだった。


「私の人生の、最期の舞台。今日もライトを……よろしくね」


廊下の窓から半月を見つめるミツコ。

それから、庭に咲いたハナミズキを見る。


月光に照らされたハナミズキの花は、白く美しく――だが、それと同時に無機質な冷たい危うさを併せ持っていた。

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