第3話 エルフの住まう里にて(改稿)

「おはよう、早いですが、大丈夫ですか?」

 ルリの声で私は目を覚ました。

「まだ五時じゃん。どうかしたの?」

「はい、朝食の時間帯が決まっているんです。あと三時間くらいで終わってしまうので、急ぎましょう」

「そんな時間なんだ。急ごうか」

 私は寝間着から制服に着替え、大きく伸びをした。

「さて、いこうか」

「はい、いきましょう」

 私とルリは部屋を出て学食に向かった。


 学食の中はそれなりに混んでいたが、私たちはテーブルを一つ確保した。

「そういえば、あの鉄板焼きナポリタン美味しかったよね。あれってお金で買えるの?」」「はい、買えますよ。ですが、二十万クローネもします。お気に入りですか?」

「うん、あの味は癖になるね。でも二十万って、手が出ないよ!!」

 私は笑った。

「はい、そうでしょうね。私はまだたくさんチケットを持っているので、朝からヘビーですが食べますか?」

「うん、悪いね。あと、出来る事ならハンバーグをトッピングで。さらにいえば、チーズインで。コーダチーズだといいな!!」

 私は笑った。

「分かりました。ブイヤベースもつけてもらいますか。学食最高額メニューの特権です」

 ルリが笑った。

「いいねぇ。生ハムも欲しいな。なければいいけど!!」

「なければ意地で揃えてくれるでしょう。学食一熱いメンバーが対応してくれるので」

「だったら、フィットチーネが面白いかもね。その方が合いそうだし!!」

「分かりました。無理難題をいってきます。オリーブ・オイルはケチケチしない。私は騙されませんってね!!」

 ルリがカウンターに向かっていった。

「全く、朝から二十万だよ。どんな学校なんだか」

 私は笑った。


 朝食の時間が終わるすれすれになって、学食のお姉さんたち総出で料理を持ってきた。

「ごめんね、無理いって!!」

 私はテーブルの上に置かれた豪華な料理をみて、笑みを浮かべた。

「はい、間に合いましたね。朝から無茶をいったものです」

 ルリが笑った。

 お姉さんたちがブイヤベースをサーブしてくれる中、私は鉄板焼きナポリタンを食べた。「こっちの方が美味しいよ。ハンバーグもいいでしょ?」

「ダメですね。ハンバーグにはコーダチーズではありません。なにも入れない方がいいと思います」

 ルリが笑った。

「そっか、じゃあ生ハムと合わせよう」

 そんなわけで、私たちは朝から破格の食事を取った。


 豪華すぎる朝食を食べて部屋に戻ると、私は腰の銃を抜いた。

「ちゃんと安全装置は掛かってるね。セーフだし問題ない」

 私は次にマガジンを抜いた。

「……十七発か。自衛にしてはやり過ぎだけど、それだけ危険な場所なんだね」

 私はマガジンを銃に戻し、ホルスタに収めた。

「点検ですか。やっておいた方がいいですよ。私も同じ銃です」

 ルリが声を掛けた。

「そういや、研究室が使えるのっていつだっけ?」

「はい、掃除などがあるので、今週中は使えないと思います」

 ルリが笑みを浮かべた。

「本当は助手にしたいんだけど、魔法なんて使ったら命に関わるから、それができないんだよね」

「はい、構いませんよ。それにしても、暇だと思っていませんか?」

「うん、正直いって暇だよ。色々秘密が多そうだけど、知っちゃマズそうだし」

 私は笑った。

「皆さんでドライブいきませんか。トラックも面白そうです」

 ルリが笑った。

「それもいいね。だったら行きたい場所がある。特に、パトラが重要なんだよ」

 私は小さく息を吐き、煙草に火を付けた。

「そうですか。私はお留守番の方がいいですか?」

「それはダメ。ルリも重要だから」

 私は紫煙を吹かして、小さく笑みを浮かべた。

「そうですか。では、シガーを二本持っていきます」

 ルリが苦笑して、ため息を吐いた。

「よし、待ってね。無線で呼ぶよ。私たちは、先に校庭に出ておこうか」

 私は無線機を片手に、ルリを伴って部屋からでた。


 校庭に出ると、みんなが三々五々集まりつつあった。

「よう、どっかいくのか」

 白衣姿のオカベが声を掛けてきた。

「と……いけね。みんなどこ行くの?」

 マユリが笑みを浮かべて笑った。

「うん、私たちもいくよ。研究しないとね」

 クリスが笑った。

「どっから聞いたの。まあ、いいけど一点だけ注意。絶対に、エルフを怒らせないでね」

 私は小さく息を吐いた。

「うむ、心得ている。安心しろ。さて、俺たちは先に車に乗っているぞ。久々の遠足だ」

 オカベたちは先にミニバンに乗り込んだ。

「全く、今度はなんの研究してるのやら」

 オカベたちは研究所時代の友人だった。

 いつもなんかぶっ壊しては怒られていたが、変なモノを作らせたら天下一品だった。

「さて、気が付いたら大所帯だね。ミニバン十台にトラックって、相手がビビらなきゃいいけど!!」

 私は笑って、トラックの運転席に乗り込んだ。

 同時にエンジンが掛かり、ルリが助手席に滑り込んできた。

「これ、集まるのに時間が掛かるよ。特にリナは寝坊さんだからね!!」

 私は笑った。

「あの、どこにいくの?」

 ルリが笑み浮かべた。

「この近くにエルフの集落があってね。この学校とも縁があるみたいだし、ちょっと出かけようかと思ってね」

 私は小さく息を吐いた。

「え、エルフですか。私なんて不遜の輩だって、大変な事に!?」

「うん、パトラもハーフ・エルフだし、冒険野郎ではあるんだけどね。かなり緩い集落らしいから、多分大丈夫でしょ。それにしても、今さらなんか積み込んでるけどなんだろうね」

 サイドミラーに映る後ろの光景をみて、私は苦笑した。

「なんですかね。どうみても、慌ててますね」

 ルリが笑った。

「まあ、いいけどね。あのデカい袋から無線機が零れ落ちてるよ」

「エルフの集落に無線でも届けるんですかね。何に使うのやら」

 結局、二時間近く掛かって出発準備を終え、私たちは学校の裏門に向かった。

「……あのさ、これだけはいいたくなかったんだけど、個体識別番号は?」

「はい、百二十一です」

 ルリが笑みを浮かべた。

「ありがと、こうでもしないとダメでしょ」

「はい、外出許可が出るまで、申請から三日は掛かりますので、気にしないで下さい」

 トラックを先頭に進み、裏門の守衛所に横付けした。

「緊急の研究がある。個体識別番号百二十一が必要だ」

 私はこっそりため息を吐いた。

「了解しました。開けます」

 守衛のオジサンが門を開け、トラックは前進した。

「はぁ、何が緊急の研究だよ。馬鹿野郎!!」

 私は苦笑した。

「いいですよ。そういう存在ですから」

 ルリが笑った。

「さて、忘れて楽しく行こう。ここから三時間ってイートンメスから聞いてるから、お昼過ぎちゃうね!!」

 私は笑ってルリの肩を叩いた。

「こんな事もあろうかと、早起きついでにお弁当を作ってきました。うっかり、後ろの荷台に積んでしまったので、止まらないと取れないですね」

『あの、暇なんで九十年代アニソンメドレーでもどうです。寝ちゃいそう……』

 トラックの声が聞こえ、私は笑った。

「好きにしなよ。なるべく急いでね!!」

 いきなり車内に音楽が流れ、私は窓を走る景色に目をやった。

 一団は石畳の街道を突き進み、やがて脇道に逸れて未舗装の林道に突っ込んだ。

「うん、なんかそれっぽくなってきたね。これもイートンメスから聞いたけど、集落の周りは魔物が多いんだって。もしかしたら、これの出番かもね」

 私は腰の拳銃とショートソードをみた。

『無線はまともなヤツに変えておきましたよ。あんな有害電波発生器なんておさらばです。さて、これから向かうエルフの集落はエルサダという名がついていますが、族長の名を取ってスラーダというのが普通です。緩い集落ですが、油断なきよう。そして、ついでにセンサに反応があります。0時方向、距離三百、数は五。何らかの魔物と推定します』

「馬鹿野郎、ついでが逆だ!!」

 私は苦笑して、腰の拳銃を抜き安全装置を外した。

「ルリ、戦った事ある?」

「多少なら戦闘訓練を受けています。大丈夫です」

 ルリが笑みを浮かべた。

「じゃあ、多少は頑張ってね。五体もいるとだね」

 トラックは速度を落とし、薄暗い森の中をゆっくり進んだ。

『魔物との距離50。出番です』

 トラックが止まると同時に、私とルリは室内から飛び下りた。

「ルリは二体を狙って。私三体を片付ける!!」

 私はショートソードを抜き、前方を塞いでいる魔物に向かっていった。

「……シーモアスか。仲間を呼ばれると厄介だね」

 私は一体の首筋を狙って、ショート・ソードの切っ先を突き刺した。

 飛び散る体液を無視してさらに追撃を加えると、もう一体が鋭いかぎ爪を振り下ろしてきた。

「おっと!!」

 私は後ろに飛んで間合いを開けた。

 三頭目がハウリングして、茂みをかき分けてさらに三体増えた。

「こりゃ参ったね。援護がないと……」

 私がグレネードランチャーに手を掛けると、ミニバンから降りたオカベ、マユリ、クリスが一斉に攻撃魔法を放った。

「……ファイア・ボールか。助かった」

 いきなりの魔法攻撃で、混乱した様子の六体に向かって、私はショートソードを鞘に収め、拳銃を引き抜いた。

「こっちの方が慣れているんだよね」

 私は呪文を唱え、同時に拳銃を構えた。

「オメガ・ブラスト!!」

 魔法で一体を叩きのめし、銃で別の一体を撃った。

「私の腕では難しいです。サポートに回ります」

 離れた場所にいたルリが私の背後を固めた。

「ったく、イートンメスとビクトリアスはなにしてるんだか……」

「師匠、お待たせしました。援護します」

 イートンメスがショートソードを抜いてやってきた。

「遅いよ。あっ、またハウリング。手に負えなくなるよ!!」

 仲間のハウリングに呼応して、シーモアスが続々と集まりはじめた。

「まずい、こんな数対応出来ない。二百体はいるよ。これ、逃げるしか……」

「待て、戦いなら任せろ。私はこういう状況が嫌いではない」

 ミネルバとマチルダがロング・ソードを手にやってきた。

「こ、これをどうにかするの!?」

「ああ、おやすいご用だ。なぜかロング・ソードだったのが幸いだ。私は剣技にはちょっと自信がある。マチルダもな」

 ミネルバとマチルダは剣をかざして、魔物の群れに突っ込んでいった。

「よし、私たちも援護って……これどうなってるの!?」

 凄まじい勢いで魔物を切り捨てまくり、ミネルバとマチルダにとってはこの程度どうって事はないという勢いで暴れているので、とても援護どころではなかった。

「すっげ……。みんな、何もしないで。かえって邪魔になるから、身を守る事に集中して!!」

 私が声を上げると、パトラが呪文を唱えて防御結界を展開した。

 ミネルバとマチルダのコンビは、さらに増えていくシーモアスもガンガンぶった切って蹴り飛ばし、凄まじい連携でぶった斬っていった。

「……なんだこれ、凄すぎる」

 私は苦笑した。

 ミネルバとマチルダのコンビは、あっという間に最終的に五百近くまで増えたであろう魔物を切り倒してしまった。

「うん、こんなものだろう。スコーン、ちょっといいか。私の姉妹にケイオスというのがいるのだが、呼んでいいか?」

 ミネルバとマチルダはロング・ソードを収め、私に聞いてきた。

「凄かったね。うん、いいよ!!」

 私がいうと、ミネルバはポケットから小型無線機を取り出した。

「ああ、私だ。出番だぞ」

 ミネルバが無線に囁くと、しばらくして空から女性が降りてきた。

「お呼びですか?」

「うわ、本当になんかきた!?」

 私は思わず飛び退いた。

「うん、少々暴れやすいが、この先私たちが必要になる予感がするのだ。後ろの車にはまだ余裕があるだろう。同行するぞ」

「わ、分かったけど、予感って?」

「……この先に戦が待っている。そんな予感がしてならん。無理はするな、自分の命を守れ」

 ミネルバが笑みを浮かべた。

「わ、分かったけど、戦の予感って……」

「うん、なにか予感がするとしかいえない。この辺りは物騒なんだろ。何が起きても用心しないとな」

 ミネルバは私に笑みを送り、後ろのミニバンに乗り込んだ。

「すっごいね。みんな、乗って。急ぐよ!!」

 私の声で皆がミニバンに乗り、私とルリはトラックに乗った。

「……隊列変更。二台前に回って」

 私が無線で指示を出すと、後方のミニバンが二台前方に回った。

「よし、行こう」

 私がクラクションで合図を出すと、前方の二台が走り出し、トラックがゆっくり走りはじめた。

「戦の予感ね……。ここ魔物の被害が多いらしいから」

 私は小さく息を吐いた。


 林道をしばらく進むと、トラックが止まった。

『警告:0方向、距離500、オークの大軍がいます。撤退をお勧めします』

「オークまでいるの。撤退してる場合じゃないよ。早くしないと指数関数的に増えるから!!」

 私とルリは室内から飛び下りた。

 前方二台からも全員が飛び出し、後方からも一斉に飛び出した。

 先陣を切るミネルバたちの後に続き、私は拳銃を抜いた。

「ルリ、イートンメスと合流するまで控えてね。ビクトリアスは、真っ先に攻撃にいっちゃうから!!」

「はい」

 しばらく走っていると、イートンメスが追い抜いて私たちの前方についた。

 そのまましばらく走ると、悪臭とともに巨大な人型の魔物が溜まっているのが見えた。

「お前たちは自衛に専念しろ。あとは私たちで叩く」

 ミネルバたちは一気に魔物の集団目がけて飛び込んでいった。

「みんな、いうこと聞いて。適当に散って!!」

 私の声で全員が散って止まった。

「……二千以上か。あり得ないね」

 私はマガジンを抜いて、残弾をチェックした。

「油断してマガジン一つしか持ってこなかったからな……」

 私が呟いた時、凄まじい風と共に用務員のジャージオジサンが降りてきた。

 オジサンは大きな銃を持ち、サングラスを外した。

「ど、どうしたの!?」

「うむ、トラックからの緊急通報を受けた。オークが二千以上と聞いて、学校中大騒ぎになっている。とりあえず、用務員として看過出来ないからな。急ぎ駆けつけた。俺は突っ込むぞ」

 おじさんは銃を構えてミネルバたちが暴れている戦場のど真ん中に突っ込んでいった。

「……用務員って大変だね」

 私は思わず苦笑した。

 ほぼ同時に、無人偵察機が上空を飛びはじめ、先生が上空からスタッっと降りてた。

「皆さん大変ですね。これは非常事態なので、私も一暴れに。お小遣いは五百円ですよ」

 先生はアサルトライフルを片手に、ノートパソコンで無人偵察機から送られてくる情報を確認した。

「これは大変ですね。オークが二千七百体です。こんなにどこにいたんでしょうねぇ。まあ、ベストフォワードで」

き抜けましょう」

 先生は銃を構え、自分が背負っていた無線機を私に背負わせた。

「あなたが隊長といったところでしょうか。これも持っていって下さい。今回は、学校の総力戦です。お小遣いは五百円で。では、お任せしましたよ」

 先生は笑みを浮かべ、アサルトライフルを片手にひゅるりら~と消えていった。

「しょ、小隊長って!?」

「師匠、すでに飛び込んだ方々はさながら遊軍といったところでしょう。後続の指揮を任されたようです。私は単独行動には慣れていますが、全体の指揮をとった事はありません」

 イートンメスが私の肩を叩いた。

「はい、私もです。その偵察機の画像解析ならお任せ下さい。イートンメスが守るでしょう」

 ビクトリアスが笑った。

「そ、そんな無茶な……まあ、やれっていえばやるけど、後続ってどのくらいくるの?」

「そこまでは分かりませんが。カリーナで戦闘可能なメンツなど腐る程いますからね。先生が厳選したでしょうから……百人はいるかもしれません。もはや、小隊ではありませんね」

 ビクトリアスが笑った。

「スコーン、指示は?」

 ルリが小さく呟いた。

「ああ、指示ね。まず情報収集しないと……」

 私は先生のノートパソコンを開いた。

「……サーマルイメージにならないかな。光学センサじゃ木々が邪魔してみえない」

 イートンメスが無線の受話器を取り、周波数はそのままで早口に指示を飛ばした。

 画面が赤外線画像に変わり、ごってりとオークの手段が群がっているのが見えた。

「こりゃ、十万どころじゃないよ。一塊になってるのはいいけど、これ魔法でぶっ飛ばしても撃ち漏らしがでるよ」

 その時、無線ががなった。

 私は受話器をとったが、大混乱の様子でまず百人をヘリコプターで運ぶという話が聞こえた。

「……よし、西を固めよう。集落に一番近い」

「はい、地図です」

 イートンメスが私に地図を渡した。

「スコーンより急派チーム一号機。西側を徹底的に固めたい。百人全て集落の四六キロに展開して備えろ。並びに、航空支援要請。ありったけのA-10とアパッチを上空待機させて」

 私は無線の受話器を肩の向こうに放り投げ、全員にハンドシグナルを出した。

「私たちがいても邪魔だね。もう少し入ってから、基地を作るか」

「師匠、それは私がやります。無線に集中してください」

 イートンメスが少し離れた茂みを潰して基地を作り、私はその間に無線機の受話器をっった。

「スコーンより、カリーナ。こういう時のために、空挺隊が組織されているんでしょ。現場指揮官として許可する。偵察機の画像はチェックしてるよね。東側を徹底定期に潰して。国内でしかも緊急事態なんだから、条約は関係ないでしょ!!」

 私は無線機の受話器を肩越しに放り投げ、一度終結させたみんなに頷いた。

「ミネルバたちは、一番層が厚い中央部を片付けてる。私たちは打ち漏らしを片付けるよ。まだ動かないで。イートンメス、偵察機の画像解析できた?」

「はい、まだ動けないです。中央部への攻撃に呼応して広がっていた、周縁部の敵が集まりはじめたようですが。流動的でどこを狙えば……」

 ノートパソコンを受け取ったイートンメスが小さく息を吐いた。

「そっか、しばらく待機だね」

 私は制服のポケットから煙草を一本取りだして、火を付けた。

「みんな、大丈夫。ついてきてね」

 私は笑みを浮かべた。

 しばらくすると、ビスコティが片手を上げた。

「師匠、無線かりますね」

 イートンメスが無線の受話器を取り、どこかと交信をはじめた。

 程なくヘリコプターの重低音が聞こえ、夜闇が迫る空を通過していった。

「即応隊のチヌークです。元々数が少ないので、これいしかいませんが練度は保証します。北西のポイントに降下させていいですか?」

「任せるよ。A-10とアパッチは?」

「はい、あと二分で到着します」

「じゃあ、それを待ってこっちは中央の残党狩りするよ。東と西は任せればいい」

 私は煙草を吸って、小さく息を吐いた。

「師匠、偵察画像によると、オークの数が四十万を超えています。国軍の動員レベルですよ」

 イートンメスが笑った。

「それ出来れば苦労しないって。そういやB-2は?」

「はい、我慢出来なくなって、今せっせと爆弾積んでます。空軍のひっそり部隊は熱くなりやすいですからね。F-15E十機も飛び立ったそうです。そのくらいしないと、間に合わない数ですからね」

 イートンメスが笑った。

 私は拳銃を抜き、スライドを引いてセレクタをセーフにした。

 しばらくすると、金属音が聞こえ、ド派手な射撃音が上空から聞こえてきた。

「きたね、A-10隊。指示もないのに撃っちゃたよ。噂通りやると思ったけど」

 私は煙草を投げ捨てて、立ち上がった。

「イートンメス、航空攻撃をやめさせて。私たちも突っ込むよ!!」

 私は立ち上がり、それぞれの準備が整うのを待った。

「あくまでも、自衛最優先っだからね。いくよ」

 私たちは横一列の隊列を組み、林道の奥に進んだ。

 程なく、ミネルバたちの猛攻をくぐり抜けた様子のオークが十体現れた。

「近寄せると危ないから銃で。怪我しないように!!」

 私は銃のセレクタを弄り、一体のオークの眉間に銃弾を叩き込み、そのまま一気に間合いを詰めて。もう一体の喉笛に思い切り左肘を叩き込んだ。

 他のメンツも射撃を始め、私は軒並み襲いかかってくるオークに銃弾を浴びせ続けた。

 ちなみに、オークとは集団で集落や町を襲う嫌われ者どころではなく、一級排除生物に指定されているほどの魔物だ。

 取り立てて特殊な攻撃はしてこないが。三メートルはある身長から繰りだれる棍棒など直撃したら、人間など原型も留めないほどの怪力が特徴だ。

 まともに相手するだけ損といわれる魔物だったが、今はそんな事はいっていられる場合ではなかった。

「さてと、ビクトリアスも暴れなよ。暇でしょ?」

 私は拳銃を片手に笑みを浮かべているビクトリアスにいった。

「分かりました。では、こっちですね」

 ビクトリアスは拳銃を収め、ショートソードを抜いた。

「あくまで剣技だもんね。本気になった?」

「当たり前でしょう。久々に暴れましょう。では」

 ビクトリアスが剣を片手に素早くオークを斬って倒した。

「イートンメス、もういいよ。いい加減、暴れたいって顔に書いてあるよ!!」

「ばれましたか。では……」

 イートンメスはナイフを二本抜き、素早くオークの集団に突っ込んでいった。

「とてもついていけません、なんですかあの魔物」

 ルリが近寄ってきてため息をついた。

「詳しい事はあと話すけど、ついてこれないなら私のバックアップに回って。残弾がもう少ないから」

「分かりました」

 ルリが私の後ろにつき、ショートソードを抜いた。

「じゃあ、いくか!!」

 横並びの隊形のまま、私もショートソードを抜いた。

 研究所で自衛のための手ほどきは受けていたが、ここまでの戦闘は初めてだった。

「……威嚇じゃないぞ」

 私は自分言い聞かせ、間近に迫っていたオークに攻撃魔法を浴びせ、怯んだ隙に剣戟を加えて叩きのめした。

 その隙に襲いかかってきたオークをルリが切り飛ばし、私が喉元に一撃を入れてトドメを刺した。

「全く、面倒だね……よし」

 私は無線機の受話器を取り、航空支援要請をした。

 その途端、鋭い飛翔音と共に数発のミサイルが目の前に迫っていたオークの群れにぶち当たり、派手な爆音をまき散らした。

「少しは楽になったね。一気にいくよ!!」

 結局全員が銃弾を撃ち尽くしたようで、ショートソードを片手にド派手な攻撃魔法を撃ち込みながら、ショートソードでガンガン切り結んでいた。

「それにしても、いくら魔物が多いっていっても、これは異常だよね。オークなんか十匹もいたら、簡単に村どころか町を破壊しつくすのに」

 私はため息をついた。

「はい、希にこういう事もあるようですが。私もここまでは……」

 ルリが苦笑した。

「よし、おいておかれないようにしよう。イートンメスとビクトリアスは本気出すと強いからな」

 私からやや前方でオークとやり合っている、イートンメスとビクトリアスをみた。

「やれやれ、油断できないね」

 私は苦笑して、無線機の受話器を取った。

「総員、無理はしないで。ダメなら撤収して。纏めて、航空機でぶっ飛ばから」

 私は大きくため息をついた。


 結局、異常なほどのオークの大軍をなんとか蹴散らした私たちは、そのまま車とトラックに乗って移動を開始した。

 トラックの運転席に乗った私は、窓を開けて夜になってしまった森の中を突き進んだ。 私たちの前を走るミニバン二台が速度を落としはじめ、木製の素朴な門の前で止まった。

「さて、ついたか。それにしても、時間掛かったね。オークのせいでとんでもない手間が掛かったよ」

 私は笑った。

「はい、ビックリしました。でも、エルフですか……」

 ルリがため息をついた。

「ここが勝負なんだよ。この集落で認められれば、全集落に使いが出されるから、安心して動けるよ。これは、パトラもだけどね」

 私が笑うと、木製の門が開いた。

 ミニバン二台が先に入り広場に綺麗に駐車すると、トラックがド派手にバックしてその隣に並んだ。

 後発のミニバンも綺麗に並んで駐まり、私とルリはトラックから降りた。

 ミニバンの一台からパトラが降りて、私たちに加わった。

「こんばんは、ようこそ。スラーダと申します」

 私たちに近寄ってきた一人が、魔力灯の明かり照らされた顔で笑みを浮かべた。

「こんばんは、スコーンです」

 私は小さく頷いた。

「あら、お気になさらず。先生から早馬で連絡を受けています。あなた方のおかげで、オークの大集団からこの集落を守れました。ありがとうございます。お礼と歓迎を兼ねて、宴の準備を整えておきました」

 スラーダが笑みを浮かべ、隣にいた人に頷いた。

 その人は素早く馬に乗り、夜闇の中に消えていった。

「これで問題ありませんよ。さて、話は変わりますが、カリーナからのお土産があると覗っています。以前から無線設備があると助かるという話をしていて、私の家の隣にアンテナが立っているのですが、無線機は取り寄せのようで今回お持ち頂けると覗っています。近隣にあるクルル族の集落が魔物に襲われて壊滅してしまい、出来れば早急に設置して頂ければと。あとは、集落内の連絡用に小型の無線機も……。いきなりで申し訳ありませんが、宴の後にでもお願い出来ますか?」

 スラーダは笑みを浮かべた。

「無線の配線て面倒でしょ。今やっちゃおうよ……って、誰もいないかな。イートンメス、出来る?」

「いえ、私もあのやたら面倒なのは。壊すのは得意なんですけどね。こういう時は、カリーナが誇る自動車部の出番です。機械だったらなんでも直して繋ぎますから。もちろん、同行してますし」

「ああ、スズキとササキもそうだったね。この前なんだっけ、あの馬鹿デカい排気音のすするF60とかいう車を弄りすぎてぶっ壊して、色々な意味で泣きながら直していたよね。あれ、先生の車だから必死だったよね!!」

 私は笑った。

「そうですね。この前はチャリにエンジンつけてぶっ壊していましたし、楽しい人たちです。さっそく声を掛けてみます」

 イートンメスがミニバンの泥を落としていた自動車部の面々に向かっていった。

「さて、ルリにパトラ。これで大丈夫だよ。安心したでしょ?」

 私が笑みを浮かべると、二人は小さく笑った。

「さて、宴か。エルフ名物カラカニのごった煮が美味しいらしいんだよね。イートンメスはなんでも美味しいっていうから、実は当てにならなんだけど」

 私は笑った。


 自動車部によると、無線機との結線に時間が掛かるということで、先に宴の会場で個人用の小型無線機を配布でする事にした。

 イートンメスとビクトリアスが全員に一台づつ配布を進める中、自動車部のササキがやってきた。

「結線終わりましたよ。テストしたいので、カリーナの校長室を呼び出してみますか。これは、スコーンさんの役目なので」

 私は頷いて会場を後にした。


 薄暗い道を歩いていくと、建物の脇に立派なアンテナが立っている家に辿り着いた。

「結線終わりました。私たちで微調整したので、問題ないと思います」

 家の脇に立っていたウエノが笑った。

「ありがとう。みんな宴の準備してるよ!!」

 私は小さく笑った。

「家の中には自由に入っていいそうです。ここはスラーダさんの家なので」

「分かった。まずはテストしてみようか」

 私は家の中に入った。

 ダイニングと思われる部屋の片隅には、無線機が設置されたラックが置かれていた。

「あらかじめ決めてあるようだったので、周波数……じゃなかった、チャンネルの設定をしておきました。その『カリーナ』と書かれたボタンが通常用で、緊急用は赤字で『エマージェンシ』と書かれています」

 ウエノの説明通り、無線機のボタンにはカリーナと王都のボタンがあり、一番離れた場所には「E/M」と赤字で書かれていた。

「さて、テストしようかな。王都は論外だから、まずはカリーナからだね」

 私は無線の電源を入れて、カリーナのボタンを押した。

「おい、こら!!」

 私は笑った。

『はい、元気がいいことはいいことです。さて、我が校の門限はご存じですか。もう三時間オーバーしています。困りますねぇ』

「うげっ、そんなのあるの!?」

『はい、全寮制なので当然ですし、そもそも危険なので二十時には正門も裏門も閉めてしまうのです。まあ、フィールドワークですからね。不慣れで手続きを忘れたという事で、代わりに副校長をお説教しておきました、軽く三時間ほど。では、楽しんで下さい。それはそうと、テストついでに十二チャンネルで国王様と話してみて下さい。秘匿回線なので誰にも傍受されません。きっと、驚くと思いますよ』

「こ、国王様!?」

 私は声を裏返らせた。

『はい、楽しみにされていると思いますよ。ひゅるりら~』

 それきり、無線は黙った。

「……」

 私は無線のチャンネルを十二に合わせた。

『うむ。猫の直感は間違いない。さっそくきおったな。私はスコーン贔屓だからな。一つ知らせておくが、がらんどうになった魔法研究所は閉鎖した。クソの役にも立たないからな。そして、私は一度も魔法研究所に命じて魔法を開発させた事はない。私の名を語った魑魅魍魎どもが勝手にやらせた事だ。一応話しておきたくてな。まあ、その馬鹿たれ共が放った追っ手が無数にいてな、対応に苦慮してるのだ。特に保健所のマークをつけたヘリコプターだかなんだかには気をつけてくれ。くれぐれも用心してくれ。そうだ、カリーナに入ったそうだな。あそこは要塞のような学校だが、それだけに隙も多い。カリーナの周囲に戦車二個大隊を展開させ、空からは空軍が常にパトロールしているが、これも隙が多いので気をつけて欲しい。では、今度顔を見せてくれ。なに、私はスコーン贔屓だからな』

 プッツと無線が切られる音がして、私は一気に脱力した。

「師匠、どうしました?」

 部屋に入ってきたビスコティが笑みを浮かべた。

「冗談きついよ。ぶっ殺されるかと思ったよ」

 私は苦笑した。

「最初にお話ししたら、面白くないですからね」

 イートンメスが笑った。

 

 スラーダの家から大きな建物に戻ると、宴の支度が進んでいた。

「あっ、スコーン。どこにいってたの?」

 笑みを浮かべたルリが私に声を掛けてきた。

「まあ、ちょっと……。それより、楽しんでる?」

「はい、初めてこのような場所にきたので。エルフという種族自体、何度かみかけただけなので」

 ルリは笑った。

「そっか、私もそんなに会ったことないし、まして集落までとなるとそう何度もないよ」

 私が笑うと、パステルとキキが近寄ってきた。

「あの、みていたのですが、あの飛行魔法は?」

 パステルが興味ありげに聞いた。

「あれね、正式な資格がないからモグリだよ。無性に飛びたくなって開発したら、なんかとんでもないのが出来ちゃって。イートンメスがバチコーンするんだけど、たまには自由に空を飛びたいじゃん!!」

 私は笑った。

「あの……」

「キキには無理だよ。難しいじゃなくて無理だからね。あんな高速飛行出来たら苦労しないよ」

 なにかいいかけたキキの肩に乗っていたジジが苦笑した。

「そんな事ないよ。箒なしの感覚さえ掴めれば」

 キキがジジに抗弁した。

「まあ、その辺りはイートンメスに聞くといいよ。私だととんでもなく危ないから、ちゃんと教わった方がいいよ」

 私は笑って、鞄から研究ノートを取り出して見せた。

「……なんだかわからないです」

「音声発動式魔法の呪文ですね。初めてみました」

 パステルとキキが興味深げに、ノートを覗きこんだ。

「まあ、パステルはなんだか分からないかもしれないね。キキも初めてでしょ。これ、ファイア・アローなんだけど、歴とした攻撃魔法だから。私が本気で撃つと千二十八本の火柱がドバババって飛ぶよ。実用的な魔法の中では、一番簡単なヤツなんだけど、研究してみる?」

 私は笑みを浮かべた。

「はい、ドバババですね。楽しみです」

 パステルが笑った。

「こら、攻撃魔法だぞ。楽しみで撃っちゃダメ!!」

 私は笑った。

「これならなんとか……呪文は、えっと……」

 キキがなにか呟きはじめ、ジジが猫パンチをバチコーンと決めた。

「もう、すぐにそうなんだから。ここ屋内だし集落の中だよ。あとでね」

 ジジが苦笑した。

「そう、屋内でやるとぶっ飛ぶから気をつけてね。興味あったら即実行は私も一緒だけど、イートンメスの平手だけは気をつけて。マジで怒ってるから!!」

 私は笑った。

「はい、師匠。呼びましたか?」

 酒瓶を抱えたビスコティがやってきた。

「ほら、呼んでないけどきた。危険を察知すると、すぐにくるんだよ。で、バチコーンて平手撃って説教して、勝手に煙草吸って飲んだくれるんだよ」

「はい、誰か平手欲しい人がいましたか?」

 ビスコティが笑った。

「そういやビスコティ、宿じゃなかったカリーナの門限破っちゃったけど、明日早く帰ればいいかな?」

「師匠、フィールドワークの許可ですよ。一週間だそうです。先に先生から聞きました」

 イートンメスが笑った。

「そうなんだ、一週間遊べるね。終わったら研究室を使えるんでしょ」

「はい、その予定ですが、用務員のジャージオジサンが拘り抜いて掃除しているので、弾痕一つ残さないようにパテで埋めています」

 ビスコティが笑った。

「弾痕って……どんな研究しているの」

「はい、.五十口径AE弾の初速を測ろうとして、調子こいて六グレインの強装弾にしたら壁を貫通してしまって、隣で研究していた魔法薬の装置を破壊して爆発してしまったようで。皆でイェーイとかやってたら、先生が派手にバチコーンをお見舞いしたようで」

 ビスコティが苦笑した。

「あのね、どんな研究してるの。せめて、九パラにしておけばいいのに。装薬が三グレインでも危ないよ。跳弾とか……」

 私は苦笑した。

 そのまま腰の拳銃を引き抜き、私はマガジンを抜いた。

「あと三発だね。予備弾なんて持ってこなかったよ。うっかり忘れて!!」

「師匠、油断しすぎです。ビクトリアスなんて、用心しすぎてミニガンまでこっそり持ち込んできたのですが、バッテリを忘れてただの置物になってしまいました。鍛え方が足りません!!」

 イートンメスが笑った。

「あの、皆さんで何をしているのですか。私は寮の部屋から出てはいけなかったのですが、スコーンさんのお陰で大丈夫になったのです。たまに話を聞くだけで、見るもの全てが新鮮なのです」

 皿に山盛りのパスタを持ったルリが、ガツガツ食べながら笑った。

「それどこでそんなに盛ったの。意外と大食いだね」

 私は笑った。

「意外と食べますよ。キャリーさんが、なぜかホットドッグコーナーを作ってしまい、辛子とケチャップがないと騒いでいました」

 ルリが笑った。

「そりゃないでしょ。ここはエルフの集落だよ。なんでまた、ホットドッグかな」

 私は苦笑した。

 宴はダラダラ進み、どうも気が済んだら帰るというか、自由すぎる空間だった。

「それにしても、エルフ語かと思ったら共通語だったよ。どうも、外部とつながりがある珍しい集落みたいだね」

 私は小さく息を吐いた。

「まあ、無線機をしているくらいです。当然でしょう」

 ルリが笑った。

「じゃあ、せっかくだからキャシーのホットドッグでも食べに行こうか。辛子とケチャップがないって、どんな味だろ」

「はい、いこう」

 私はルリと一緒に建物の隅に行った。


「ああ、きたきた。あきポンも一緒にやってるよ!!」

「はい、ウインナー直焼きであります!!」

 いつの間にやら土嚢を積んで、キャシーのホットドッグコーナーが出来ていた。

「うん、なかなか美味いな。辛子とケチャップの代わりにコロッカス・ソースか。考えたな」

 先にきていたミネルバとリナが、仲良くホットドッグを囓っていた。

「なに、そんな高級品使ってるの」

 私は笑った。

「えっ、これ高いの。なんか、スラーダがくれたんだけど……」

 キャシーがキョトンとした。

「うん、エルフの間でも珍しいらしいよ。ケチャップと辛子の代わりには、ちょっと高すぎるよ。ルリと合わせて二個ちょうだい!!」

 私は笑った。

「へぇ、そんな珍しいんだね。味が違うから、あのホットドッグとは違うけど美味しいよね!!」

 キャシーが苦笑した。

「はい、あの安っぽい百三十八円のアレとは違います!!」

 あきポンが苦笑した。

「しかも、冷めてるような微妙な感じ……まあ、いいや。お陰で味気ないホットドッグを食べなくて済んだよ」

 キャシーが笑みを浮かべた。

「あの、この味は新鮮です。どんなソースなんですか?」

 ルリが笑った。

「知らない。なんか、色々混ざっているみたいでさ、なんかチリソースに似てるんだよね」

 キャシーが笑った。

「そういえば、カリーナの校長先生って面白いよね。いつもどこかにいるし!!」

 私は笑った。

「はい、私も思いました。いっつもどっかにいるようないないうような……」

 ルリが笑った。

「はい、私がどうかしましたか。こちらは、教師のリズです。私の教え子なんですよ」

 噂をすれば陰。人混みの中から、先生と笑顔が印象的な短髪の女性が現れた。

「あれ、先生は学校にいたはずじゃ……」

 私が聞くと、先生は頷いた。

「ここはヘリで飛んでくればすぐです。私は様子をみにちょっと顔出ししにきただけですが、代わって副校長のロータスが後を引き継ぎますので、まあ、楽しくやって下さい」

 先生と入れ替わるように、犬面の変わった人が現れた。

「よう、お前ら新入りだってな。まあ、変な学校だが、楽しくやろうぜ!!」

 ロータスが陽気な笑みを浮かべた。

「どうも、高等科の教師をやってるリズです。研究所にも所属していますので、なにかと会うかもしれません。カリーナは教師不足なので、慣れてきたら教師を任されるかもしれませんよ」

 リズが笑った。

「教師って、教えるの?」

 私は小さく息を吐いた。

「はい、そうですよ。教えるのは苦手ですか?」

 リズがカリーナの制服から細長い煙草を取り、火を付けて笑みを浮かべた。

「うん、なんか苦手なんだよね。勝手に研究している方が好きだし」

「そうですか。恐らく、研究より難しいかもしれませんよ。まあ、その時がきたら。では、あたしたちもホットドッグを、食べましょう」

「なんだよ、またウインナーが挟まってるだけのヤツかよ!!」

 リズはホットドッグを取る時、ノートを一冊落とした。

「あれ……」

「さて、お邪魔しちゃいましたね。また、会うと思いますので、よろしくお願いします」

 リズとロータスが小さく笑って去っていった。

「なにか、優しそうな人だったね」

 ルリが笑った。

「うん、このエルフ集落といい面白い場所だね。リズは分かるけど、ロータスってなんだろうね!!」

 私は笑った。

「皆さん、楽しまれていますか?」

 スラーダが笑顔でやってきた。

「うん、楽しんでるよ!!」

 私は笑った。

「あの、初対面で図々しい事は分かっているのですが、魔法薬の原料に必要な薬草を採るための洞窟に、なにやら魔物が住みついてしまったようで、退治をお願いしたいのです。警備隊の人数が少なくて手が回りません。大した謝礼は出せませんが、退治をお願いしたいのですが、引き受けて頂けますか?」

 スラーダはなにか卵のようなものを取り出した。

「ん、それってダライアの貴石だよね。私はあまり使わないけど、魔法薬の材料として貴重なものだよね。いいの?」

 私は小首を傾げた。

「はい、このくらいお渡ししないと割に合わないでしょう。先生には内緒ですよ」

 スラーダが笑った。

「あの、それってかなり高価なものですよね。その大きさだと、売れば豪邸が建つほどの値がつくと思いますよ」

 ビクトリアスが目を丸くした。

「えっ、そんなに高いの?」

 ビスコティが固まった。

「はい、偵察隊の報告によれば、ドラゴンのようなものと報告を受けています。侵入者避けの罠が逆に邪魔をして、討伐隊を送れないのです。どこから入り込んだのか分かりませんが、こちらで勝手にドラグ・シーモアスと名付けました。ドラゴンの亜種のようですが、ブレスを吐く事以外は分かっていません。しかも、三頭確認されています。大変危険なお願いと承知していますが、引き受けて頂けますか?」

 スラーダは一礼した。

「えっと、要するにその変なのを倒せばいいんでしょ。そういうのやった事なかったし、その変なのを研究したい!!」

 私は笑った。

「師匠、研究する前に倒さないとダメですよ。これは、いわばこの集落を助ける……守るための戦いですから」

 ビスコティが苦笑した。

「分かってるよ。ドラゴンの亜種ね。しかも、洞窟か……使える魔法は限られるね」

 私は小さく息を吐いた。

「コッティ、この武装で大丈夫だと思う?」

 ビクトリアスが真顔で頷いた。

「竜鱗がなければ大丈夫だと思うけどね。九パラじゃ辛いかな……」

 イートンメスが嘆息した。

「おい、お前ら魔法使いだろ。銃と魔法はオモチャじゃねぇよ!!」

「そういう事。あたしは結界魔法が専門だよ。でも、いざとなったら……なんってね!!」

 ロータスとリズが笑いながら、パステルを連れてやってきた。

「あの、一応戦えるかもしれませんし、罠解除は慣れています。リズさんに同行して欲しいと頼まれたのですが、私はロクに戦えません。それでよければ……」

 パステルが頷いた。

「んだよ、それじゃ私が守り役だな。ったくよ、どんなバケモノが出るんだよ!!」

 ロータスが笑った。

「はい、私も多少は魔法が使えます。もちろん、同行しますよ」

 ルリが笑った。

「なんか、いきなり大人数だね。このメンツで大丈夫かな?」

 私は拳銃を抜いた。

「あっ、予備弾持ってきてない……」

「んだよ、油断しすぎだぜ。ったく、同じ銃だししこたま持ってるから少し分けてやるよ!!」

 ロータスが私に銃のマガジンをいくつか渡した。

「それじゃ、あたしがパステルたちの後に続いて、防御結界でも張るよ。まあ、いざとなったらぶっ飛ばすけど!!」

 リズが小さく笑みを浮かべた。

「結界魔法か……難しいんだよね。こっそり研究しよう」

 私は笑みを浮かべた。

「師匠、研究もいいですが、護衛も限界がありますよ」

 イートンメスが拳銃を確かめ、ナイフを確認した。

「どう考えても、この武装では……まあ、これ以上は先生が許さないので、やるだけやってみましょう」

 ビクトリアスが笑みを浮かべた。

「リズ。チームメイトを置き去りですか?」

 どこからともなくパトラが現れ、ニヤニヤした。

「なに、パトラも暇なの?」

「うん、最近運動不足でさ。ナイフが錆びちゃうよ」

 パトラがやたらゴツいような気がするナイフを二本抜いた。

「あれ、パトラもイケる口なの?」

 私は笑った。

「まあ、嗜み程度に。ついでに、リリムとウメボシも暇そうだから連れてきたよ。死神がいれば無敵でしょ!!」

 パトラが笑った。

「あれ、随分明るい子だね。でも、死神って大丈夫なの?」

 私は笑った。

「もちろん大丈夫だよ。生き物を殺すっていうけど、色々ヤバい物が発生するから、それを刈り取らないと」

 リリムがショートソードを抜いてニヤッとした。

「ったく、冗談じゃねぇ。慈しみの心だぜ」

 ウメボシが拳銃を抜いて、マガジンを取り出して残弾をチェックした。

「大勢の方に協力を頂いて、ありがとうございます。洞窟の地図はこちらになります」

 スラーダが笑みを浮かべ、地図をパステルに渡した。

「なるほど、近くですね。洞窟内部は……これは面倒ですね」

 パステルが小さく息を吐いた。

「はい、しかもそこら中罠だらけなんです。なにもない時でも、薬草を採って帰るだけで三日は掛かります。食料や水は五日分用意しました。かなり重いですが、大丈夫ですか?」

「どうって事ねぇよ。いざとなったら、リズが全部担いでいくだろ!!」

 ロータスが笑った。

「あのね、あたしをなんだと思ってるの。三日もかかる洞窟っていったら、かなり大規模だね。みんな荷物担げる。多分だけど、一人二十キロくらい」

 リズが笑った。

「私は慣れているので平気ですが、慣れないとかなりキツいですよ」

 パステルが苦笑した。

「師匠、大丈夫ですか?」

「体力に自信がないんだよね。まあ、やれっていえばやるけど、プロテイン持っていっていい?」

 私は笑った。

「スコーンさん。プロテイン飲んでも意味ないです。まあ、そういう姉さんだって、体力はダメじゃないですか。まあ、私も持久力がないですが」

 ビクトリアスが苦笑した。

「はい、話は聞いていました。荷物は私とキャシーで可能な限り運びます。とても他には手が回らないので、あとのことはお任せします」

 ウインナーを焼きながら、あきポンが笑った。

「この規模の洞窟だと、五日分で十分ですね。厄介なのは罠ですか……」

 パステルが地図を眺めながら唸った。

「はい、よそ者が入らないようにと苦慮して配置したのですが、滅多に作動しないので逆に厄介なものになってしまいました。せいぜい脅すだけの程度ですが、よろしくお願いします」

 スラーダが笑みを浮かべた。

「……脅すだけね。冗談きついよ」

 パステルが呟いて笑みを浮かべた。

「洞窟の入り口までは、馬車で送ります。出発はいつでもいいですよ。

 スラーダが笑みを浮かべた。

「師匠、どうしますか?」

「早い方がいいね。今はもう夜だけど、準備が出来てるなら今から出たいね」

 私は小さく頷いた。

「おい、ダンジョン探索をナメるなよ。先生と一緒にヘリできたが、五日分の食料や水なんて百キロはあるぞ。これは、用務員の出番だな」

 ヒュルっと人混みからいつもみかけるジャージおじさんが現れ、笑みを浮かべた。

「そうなんです。どうしても荷運びがあって、大変なんです。私はこうしていました」

 パステルが呪文を唱え、空間に裂け目が出来た。

「うわ!?」

 私は思わず声を上げた。

「マジックポケットといいます。なんでも収納できて、便利なんですよ。こうでもしないと、とても運び切れません。ダンジョンというか洞窟の魔物退治ですが、これは基本的に変わりありません。荷物が邪魔なんですが、荷物は必要なんです。なんのために、潜っているのか、たまに分からなくなりますよ」

 パステルが笑った。

「なにその魔法。教えてじゃダメだから、研究する!!」

「師匠、そんな時間はありません。まずは、すぐ使えるように、教わった方がいいです」

 イートンメスが呪文を唱えた。

 空間に裂け目ができ、私は目を見張った。

「パクリは私の特技ですからね。まあ、これが呪文です」

 イートンメスは紙片を私に渡した。

「こら、ルーン文字を滅多な事で紙に書いちゃダメ。全く、急ぎだからって……」

 私はイートンメスのメモを手に取った。

「なるほど、難しくはないね。空間に……いけね。要するに、こうすればいい」

 私が呪文を唱えると、やたら馬鹿デカい空間の裂け目が現れた。

「うん、これなら数百キロは入るんじゃない。荷物袋にしよう」

 私は笑った。

「凄いですね。これなら、十日分以上の荷物が入ります。こういう時は、ぜひご一緒しましょう。プロテインもしこたま入りますよ。食後三十分以内ですからね」

 パステルが笑った。

「プロテインはいいよ。簡単な魔法に見えて、結構奥が深いね。今度、イートンメスがうるさい時にしまっておこう!!」

 私の頭にイートンメスのゲンコツが落ちた。

「……あとで、お仕置きですよ。

「……はい」

 イートンメスは満面の笑みを浮かべた。

「姉さん、この武装ではダメです。絶対ダメです」

「ペット、与えられた武器で戦う。違う?」

 イートンメスが笑みを浮かべた。

 ビクトリアスが右手差し出し、ボッと魔力光を放った。

「これだね?」

「そういう事、魔法使いだって忘れていたでしょ?」

 ビクトリアスが笑った。

「あの、本当に今から出発されるのですか。夜の森は危険です。近場とはいえ……」

「困ってるなら早い方がいいでしょ。さて、いこうか」

 私は笑った。


 私たちが宴の会場から出ると、荷物満載の荷馬車が駐まっていた。

「一応、用意しておいたのですが、どうしても水がかさばるのでこうなってしまいました。大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫ですよ」

 パステルが呪文を唱え、空間に裂け目を作った。

 馬車に積まれた荷物解いて、その空間の裂け目に荷物をホイホイ放り込みはじめると、私も空間の裂け目を作って荷物を入れはじめた。

「荷物は必ず分散して下さい。誰かに集中してしまうと、なにかあった時に物資まで全滅してしまいます。もう、皆さん使えますよね?」

 パステルが笑みを浮かべた。

「そりゃそうだね。みんな、やるよ!!」

 私が笑うと、ジャージおじさんがニヤッと笑みを浮かべた。

「それと、洞窟内では私が通った後を歩いて下さい。罠がないと保証しますので」

 パステルが笑みを浮かべた。

「……こりゃ、マジだね」

 私は笑みを浮かべた。

「分かったよ、こういうの初めてだし。リズだっけ、サポートよろしく。ロータスだったよね。戦えそうだし、パステルの護衛をよろしく!!」

「いわれるまでもねぇよ。このニブチンじゃ戦えねぇよ。私は剣が得意だけどな、大体の武器は使える。用務員をナメるなよ。最高のパフォーマンスだぜ!!」

 ロータスが笑った。

 そして、背負っていた荷物から、真っ赤な無線機を取り出した。

「業務連絡、真面目にやれよ!!」

 ロータスは無線機をしまった。

「よし、これでいい。荷物の分散って、どうするんだよ。メシと水だけでいいのか?」

「はい、それで十分だと思います。あとは、非常用のカンテラくらいは持っていた方がいいかな」

 パステルが頷いた。

「そっか、みんなやるよ!!」

 私が声を掛けると、十人がそれぞれ準備を始めた。

 程なく馬車の荷台は空になり、ジャージおじさんが煙草に火をつけた。

「じゃあ、行こうか」

「私が馬車を動かします。ありがとうございます」

 スラーダが御者台に乗り、私たちは馬車の荷台に乗り込んだ。

「いよいよだね。ルリはこういうの好きなの」

 私は胸ポケットから取り出した煙草に火をつけ、ルリに笑みを送った。

「はい、やってみたかったです。守る戦いという感じが素敵なんですよ!!」

 ルリが笑った。

「そりゃそうだね。攻撃魔法は破壊の象徴じゃないもん。むしろ、再生なんだよ」

 私は笑みを浮かべた。

「また意味深な事いって。まあ、それがスコーンだってやっと分かったよ」

 ルリが笑った。

「そっ、慈しみの心を忘れずにってね。それはそうと、研究ばっかりやってたから、こううフィールドワークは慣れてないんだよね。スニーカーで大丈夫かな?」

「大丈夫だと思いますよ。ヒールだったら論外ですけどね」

 ルリが小さく笑った。

「おい、今だからいうが俺たちが生き物を殺したら、ヤバい野郎になっちまう可能性が高いような低いようななんだぜ。なるべく、戦闘からは遠ざけてくれ」

 ウメボシが笑みを浮かべた。

「そういう事、後ろで荷物の番でもしてるよ。サボってるわけじゃないからね!!」

 リリムが笑った。

「分かった。さて、どんな事になるかな」

 私は過ぎゆく夜の森の光景を見やった。


 スラーダが馬車を止めた場所は、地上に穴が開いたような感じだった。

「到着しました。こんな事をいえる立場ではないですが、皆さんご武運を」

 スラーダが御者台で軽く頭を下げ、私たちは馬車から飛び下りた。

「おい、お前ら。パステルの言葉を忘れるな、罠ってのはかなりめんどくせぇからな。絶対、遊ぶんじゃねぇぞ。まあ、いいか。お気楽なピクニックだと思おうぜ!!」

 ロータスが拳銃のスライドを引いた。

「はい、脅すわけではないのですが、私の後なら比較的安全です。実は、魔物より罠の方が厄介なんですよ」

 パステルが笑みを浮かべた。

「……こりゃ命がけだね。スラーダも冗談キツいね。確かにね」

 私は苦笑した。

「私の光の魔法で照らしていますが、洞窟内は当然闇の中です。今のうちに支度を」

 スラーダの声で、私は光の光球をいくつか浮かべた。

「これで大丈夫だよ」

 私は笑みを浮かべた。

「すいません、もう少し光量を落として頂けますか。明るすぎて、罠が見えません」

「あれ、ダメだった。じゃあ、一個にしておく」

 私が光球を一個にすると、パステルは頷いた。

「ありがとうございます。それでは行きましょう」

 パステルを先頭に、私たちはゆっくり洞窟に潜った。

「……待って下さい。こけおどしにしては、やり過ぎですね。この際呼び捨てでいいですか。リズ、防御結界」

 洞窟に入った早々、パステルが足を止めた。

「あいよ!!」

 リズが防御結界を張った。

「さて……」

 パステルが洞窟の地面に手を置いた。

「……仕掛けは簡単なんだけど、これは作動するな」

 パステルが、地面に偽装された床を引き剥がした。

 その途端、周囲が火炎に覆われた。

 その間、パステルは何かの道具で床に張られた線を切った。

「もう作動しませんよ。行きましょう」

 パステルが息を吐き、手にしていた地面に偽装されていた、蓋のようなものを放り投げた。

「へぇ、怖いね。今の火炎をまともに食らったら、骨も残らないんじゃない」

 私は苦笑した。

「はい、こけおどしにしては、気合いが入りすぎですね。じゃあ、進もう」

 こうして、私たちの一行は先に歩みを進めたのだった。

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