雨宿り
ある日、一人の少女が雨の中を走っておりました。少女は森の中で雨に降られてしまったのです。そんな少女の目の前に一軒の大きなお屋敷が現れました。少女は、申し訳ないと思いましたが門をくぐり雨宿りすることにしました。
その屋敷には、人々から野獣と呼ばれて恐れられている魔物が住んでいました。野獣は、少女が入ってきたのを見て困ってしまいました。少女の姿は雨に濡れてとても寒そうだったからです。しかし、自分が姿を見せてはきっと怖がらせてしまう。キョロキョロと人の姿を探すように部屋を見回す少女から逃げるようにしながら、野獣は台所に向かいました。
少女は、大きな声でごめんください。と、言いましたがお屋敷の中はシンとしていて誰もいないようです。薄暗い屋敷の中は随分と荒れ果てているようですし、少女は心の中で謝りながら居間に腰を下ろしました。
野獣は、慣れない手つきでようやく温かい飲み物を淹れると音を立てないように獣のような足を動かして少女がいる居間に行きました。そして、静かに少女のそばに盆に乗せたそれを置きました。
あら、少女はコツンと手に触れた盆に気づきました。そしてそれに温かい飲み物が乗っているのにとても驚きました。そして、誰かいるのですか。と、小さく呟きました。しかし、全く返事がないので仕方なく少女はその温かい飲み物をいただくことにしました。
野獣は、少女が飲み物を飲むのを見てとても嬉しくなりました。なので、次はその濡れた体を拭くための布を渡すことにしました。野獣は、大急ぎでお屋敷から綺麗な布を探してまた静かに少女に向けてポーンと投げてやりました。
ぱさりと少女の背中に布が舞い落ちました。少女は、びっくりして辺りをキョロキョロと注意深く観察しましたが、薄暗い部屋には何も見えないので、またありがたくその布を使わせてもらうことにしました。そうして、姿を見せない親切な誰かに試しにこう言ってみたのです。
「ああ、寒い。囲炉裏に火をくべててほしいわ。」少女の言葉を聞いて野獣は、大慌てで薪を集めるとガラガラと囲炉裏に置き、火を起こしました。チロチロと燃える火に照らされて野獣は、しまったと後悔しました。
少女は、目の前で暖かな色をした火に照らされている野獣の姿を見てしまったと後悔しました。なぜなら、その姿はとても恐ろしくまるで魔物のようだったからです。逃げなくては食べられてしまう。そう思い、立ち上がろうとしました。
野獣は、少女が立ち上がった音を聞いて悲しくなってしまいました。野獣は、何も悪いことをしていないのに姿が醜いというだけで人々から怖がられていました。どうして自分だけ、そう思いながらその大きな瞳からポロポロと大粒の涙が零れました。すると、柔らかい小さな手がそれをそっと拭いました。
少女は、どうしてかわかりませんが出口とは反対の野獣に向かって近づきました。そうして悲しそうに涙を流している野獣の頬に両手で触れました。野獣は、驚いたように少女を見つめていました。
「・・あなただったのね、温かい飲み物をくれたのは。とても美味しかったわ、ありがとう。勝手にお家に上がってしまってごめんね。だけど、雨が上がるまでここにいてもいいかしら。」少女は、そう言うと優しく笑いました。野獣は、驚いてどうしていいかわからなくなりました。嬉しくてたまらなくてまた、泣きました。心が温かくなりました。
そうして少女は、ふわふわの野獣と寄り添いながら雨が上がるのを待ちました。
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