08 天使の、名前。

 「と、まあこんな感じに光太さんを陥落させてみましたけど、どうでした?」


 案の定梯子を外された。そりゃあそうだけど。あと、口調が急に元に戻るのも、それはそれで“ギャップ萌え”を感じて可愛らしい。


 「めちゃくちゃ幸せでした。それに、あなたみたいな美少女に言われたら、そりゃあ誰だって陥ちますよ」


 「び、美少女……だなんて」


 何この天使。急に照れだしたけど、まさかこれも計算なの?顔が真っ赤になっているが、意図的にこんな表情をできるものなのだろうか。

 そして、それを誤魔化すように、彼女はさらなる爆弾を投下。


 「そ、それより、さっきみたいに、敬語はやめません?私も、光太さんも」

 「――そ、それは嬉しいですけど、何か畏れ多いというか、何というか……」

 「大丈夫だよ。何せ光太くんは、人類の代表だから」


 ……なるほど。それで彼女が良いなら、まあ良いか。こちらとしても敬語をやめた方が話しやすいし、見かけは同年代だ。中身は絶対ものすごく年上だろうけれども。


 「わかったよ。じゃあ――」

 そこで僕ははたと困った。

 「その……あなたのお名前って……?」

 「え、私?」

 「そう」

 「私は私しかいないから。名前なんてないよ」


 何だかかっこいいな。そういえば“この宇宙に存在する天使は、私ただ一人です”って言ってたような気もする。


 「でも、天使さん、って呼ぶのも何だかちょっと」

 「確かに……じゃあ光太くん、私に名前をつけてよ」


 な、名前を――!?それも、天使にだって?

 ど、どうしよう……。誰かに名前をつけるだなんて、そんな子供が生まれる直前の親みたいな経験は、僕には当然ないのに。

 でも、彼女の頼みだ。大変重大な任務ではあるが、覚悟を決めよう。

 

 「じゃあ、ええと……」

 楽しそうに、でも少し緊張しているようにも見える天使から目を離し、脳をフル回転させて必死に考える。


 「――アヤナ」


 「アヤナ、か……」


 「だめ、かな?」

 

 「そんなわけないに決まってるよ。だって、光太くんのつけてくれた名前だもの」


 「よかった……」

 彼女はそう言って微笑み、僕は胸を撫でおろした。天使に名前をつけるだなんて生意気なことだとは思うけれど、アヤナが喜んでくれるのならそれでいい、と僕は思った。


 「じゃあアヤナ、君が人類を幸せにしたい理由を教えてくれないかな?」


 「わかった。じゃあ話すね、全部」 

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