07 天使の、豹変。

 「すべての人々を、“幸せ”にする――ですか?」

 「そうです。それが、私に課せられた“使命”でもあるのです」

 「使命?」

 「はい。私が今ここに存在し、あなたとこうして話している意義そのものに当たるものです」


 ……いやまあ、使命とは何かについては何となくわかるけど、その前の段階が問題だ。


 すべての人々を幸せにする。


 たった一行に収まる言葉だが、そんなことは果たして可能だろうか。


 ――不可能だ。


 これまで17年生きてきて、その程度の現実はわかっているつもりだ。そもそも自分自身が幸せか、と問われて即答すらできないのに、ましてや77億人全員を幸せにするだなんて。目の前の天使自身は、自分は万能だと主張しているけれども、たとえ万能であっても、理論では整理しきれない人の感情ばかりはどうしようもないとしか思えない。


 では、と一呼吸おいて天使は言った。

 

 「やってみましょうか」


 え、何だって……?



 「まずは私が、君のことを幸せにするよ。ね、光太くん?」



 ――っ!?


 何これ。


 甘い。甘すぎるっ……!


 まるでプロポーズみたいな言葉を囁かれて――彼女の本心でないことくらいわかっているのに――僕の心臓がばくばくと暴れて言うことを聞いてくれない。


 「じょ、冗談は、ほ、ほどほどにしてくださ――」


 「冗談なんかじゃないってば」


 全能の天使は左手で銀の長髪を耳にかけながら、首をかしげて僕を覗き込み、耳元で囁く。 

 

 何というあざとさ。


 何という破壊力。


 ……って言うか、口調がいつの間にかまるっきり変わってるんですけど。


 「ねぇ光太くん」


 「は、はい……?」


 「今、幸せ?」


 ――決まってるじゃないか、そんなの。


 「幸せです」


 

 こうして僕は抵抗も虚しく、彼女の魅力に陥落してしまった。

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