44話

 肌に感じる圧倒的な強者の気配。それに僅かに足がすくんだルヴォルスだったが、後衛達の力を精一杯発揮させるため、己を奮い立たせる。

(僕がこいつを止めておかないと、リリンが祈ることができない。ロベルトが詠唱できない! 二人を守るために前衛になったんだ。たかだかBランクごときに気圧されてたまるか!)

 レッドウルフの俊足に、Aランクの冒険者や王冠冒険者なら別だろうが、ただの新米冒険者がついていけるはずがない。しかしルヴォルスには、『目』があった。この、呪われた目が。

 高位のモンスターは、少なからず何らかの精霊の加護を受けている。それならば、その精霊を奪ってしまえばいいのだ。加護をなくしてしまえば、幾分かではあるがレッドウルフの俊足は衰えるだろう。

 普通の人間には、そんなことは決してできない。おそらく王冠冒険者でさえも。それがルヴォルスが他者に胸を張って言える、己の唯一の長所。


【精霊干渉】


 精霊はこの世界のありとあらゆるものに付属するように存在している。天然物、人工物の別なくだ。空気があれば精霊がいて、木があれば精霊がいて、当然ながらロベルトの魔法発動用の杖やリリンの弓矢、ルヴォルスの剣にも精霊は宿っている。

 つまり、この世に精霊の宿らないものなど何一つとしてないのだ。そしてルヴォルスには、それが全て見えている。姿形はもちろんのこと、その属性も完全に。

 人間には、もうこの能力を持つ者はいない。先天的に視える場合なら大昔にほんの数例あるが、視界が全部精霊に埋め尽くされているのだ。その全員が発狂していた。

 ルヴォルスは後天的に『呪い』という形でこの力を手に入れることになった。

 呪術師には比較的簡単になれるが、そんな呪いをかけられる呪術者は限られる。相手は相当な手練れだろう。そいつを倒し、弟を救い出すためには、Bランクのモンスターに怯えるわけにはいかないのだ。

 大きく息を吸い込むと、剣を構えながら念じる。

(風の精霊、僕の言葉を聞いてほしい)

 迫り来るレッドウルフに恐れの感情が湧き上がる。しかし焦ってはいけない。焦れば、精霊干渉に影響が出てしまう。

 ルヴォルスは静かに息を練りながら、正面を見据えた。

(僕の役目は、レッドウルフを加護する精霊を奪うこと。そして――!)

 風の精霊に語りかけながら、ルヴォルスは目の前にやってきたレッドウルフに、剣を振り下ろした。

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