第一幕 メインストリート「イナイチ」3.裏町銀座「パチンコ一七一」

 一日通しでバイトに入っている日は三時から五時に休憩時間をもらえるのだが、この時間帯と出前が重なる場合はしばしばチーフから皿下げの命を受ける。その矛先は決まって近所のパチンコ屋だ。二階が従業員の寮になっていて、よく出前を取ってくれていたのだ。

高校生だから本当はダメなのだが、休憩時間はほぼ毎回パチンコに行く。場所は『新大蓮』からイナイチを北へ二〇〇mほど行った先で、その名も「パチンコ一七一」。楽しげな色とりどりの看板やネオンがあるのはここだけで裏町のスター的存在であった。

 僕の目的はもちろん金を稼ぐため。とはいえ、椅子に座っているだけでいいし、ピーヒャララと色んな音が鳴ったりでなかなかな楽しい。もちろん負けるとバイト代が吹っ飛ぶわけだが色々と事情があっていい副業になっていた。

 パチンコ屋には『新大蓮』の多くの常連客が出入りしており、平日の昼間でも一〇人くらいの知った顔があちこちに座っている。夜間勤務のトラック運転手、よく出前を取ってくれる団地に住む主婦、近くの工場経営者や従業員、脱サラの自称パチプロ、コロンむんむんタイトスカート姿の保険屋熟女。ほか、一年中長袖の黒いセーターを着たそのスジの若頭ガッちゃんなど。

 パチンコ台が並ぶ通りを歩き、目が合うたびに何かしら話を交わし、そのうち台を回してくれる人が出てくるのだ。

「○○番台に玉を入れてあるからやってもええよ」

 これもたぶんダメだと思われるが、当時はみんな気になる台に玉を入れてキープしておいたものだ。だから一人で三台も四台も占領しているような人もざらにいた。だが、さすがに長時間置いたままだと場内放送がかかる。

「○○番台のお客様~お時間が一定以上経っておりますので今すぐにお戻りください。お戻りになられない場合は玉を回収して開放いたしま~す!」

 が、白昼からパチンコなんぞに夢中になる者がこんな放送を真面目に聞くわけがない。そのカモフラージュとして誰か気の許せる者なんかに打たせるわけである。いずれは自分が打つつもりだが、出ると思っていても出ないこともあるのでそれがわかると捨てる。そんなわけで夕方の1時間か、せいぜい一時間半程度しか遊ぶことのできない僕なんかは格好のいい代打役なのであった。

 打つ機種は限られていて名を「ギャラクシーダイバー」という。台には両手で軽く一杯、お金で言うと三〇〇円分くらいの玉を入れてくれている。うまくいくとこれだけで勝てる。

この機種は飛行機をモチーフにしていて、①の穴に入ると「ブイ~ン」とプロペラ音がなって中央部の羽が一回開く。②の穴に入ると「ブイッ、ブイ~ン」と二回開く。そして羽の内側の中央部に玉が入ると羽が十八回開き続けるのである。

 その間ひたすら玉を打ち続けるわけだが、中央の穴に再び玉が入るとさらに十八回開く。この繰り返しを最大一〇回まで続けることができる。中に玉がはいるたびにその何倍もの玉がジャラジャラと出てくるのがエクスタシーなのだ。

 四〇〇〇個出したら打ち止め終了となるが、一、二時間で終了することはありえない。出てもせいぜい一〇〇〇個か二〇〇〇個。それでも換金すると三〇〇〇円か六〇〇〇円にもなる。もちろん負けることもあるがそれは五回に一回くらいのものだから普通では考えられない勝率だ。

 が、本当にダメな台はやっぱりダメなものである。機械に細工はないということだが、どう考えたってあるに決まっている。でなければパチンコ屋が儲かるわけがない。周知の常識のはずだが、それでもまたやってしまうのがパチンコなのだ。もう少し頑張れば出るかもしれない。だからあと一〇〇〇円だけ。そんな風に。

 ちなみにチーフは滅多とパチンコをしないが、以前はちょくちょくやっていた。僕が行きだしたのもチーフに連れて行ってもらったことがきっかけだ。しかし何度かやっているうちに何万円も負けてしまったことがあり、それ以来行かなくなってしまったのだ。その後はパチンコ好きの常連客から誘われて何度かは付き合いで行ったことがあるようだが、ちょっとやったらすぐに帰ってしまう。

 チーフはスケベなだけで、賭け事にはさほど興味がなく、意外にも健全なのである。ただ、パチンコ屋の店員には『新大蓮』の常連客が多くいるので縁は切れない。

 狭い裏町のことである。パチンコ店員というものは人の恨みつらみを買う商売だけに、店に食べに来ることは顔が指してしまうのでない。その分出前を多く取ってくれるというわけだ。二階へ空いた皿を取りに上るたび、どこかしらからまた追加注文の声が飛んでくるというお得意さんだ。

 パチンコ屋の店員というのはなぜか陰のある人が多い。夏でも長袖を着ていていつも疲れた目をしている人とか、口は笑っていても顔色が黄色く目が冷め切っている人とか。でも、そんな人たちでも骨付きの唐揚げやうずらの旨煮などの注文をしてくれるとなんだか人間くささを感じて嬉しくなってくる。

 おいしい料理というのは人を選ばないんやなぁ。

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