5 Xの力
初めての海外任務。初めてのエクスドライバー協同作戦。海はないが、陸と空からの捜索活動。目的は戦車タイプのエクスドライバーの捜索。ヨーロッパで開発されたエクスドライブ内蔵人型ロボット。藤川ベースに合流する予定はなかったようだ。
ただその戦車タイプ、アルマダの同型機が、またも出現した紅蓮の魔道士に利用されてしまった。魔道士については、今は関係がない。ドラゴン、黒、フェニックスはアルマダの捜索に、昼夜を徹した。
そもそも日本へと針路を取っているだけで、どこに向かっているのか分からない相手の捜索は手掛かりが少ない。空から捜索しているフェニックスではなく、見つけたのがドラゴンで、運が良かったと言えよう。
人家がほぼない整備も行き届いていない荒れ道と茂み。それらの中から現れる黄土色のタンク。搭載している砲塔はそれほど大きくなく、戦車というよりは歩兵輸送車だ。
お互い突然現れた、という感じで、前にも後ろにも進まない戦車にドラゴンは変形して確認を取る。
『お前が、エクスドライバーアルマダ、だな?』
『人型、ロボット?もしや貴方がドラゴン・ソルジャー?』
ドラゴンの質問に、戦車は聞き返してくる。だがこれで相手が問答できるAI搭載型だと分かった。
『こちらドラゴン!見つけたぜ、エクスドライバーアルマダ!』
黒やフェニックス、そして日本の藤川ベースに聞こえるよう通信を出す。
『どうする、指令所!?指示をくれ!』
ドラゴンは続けて指示を乞う。自己判断できるが、一応の確認だ。やることは決まっている。
『司令に代わり、指示しよう。アルマダを説得してくれ。彼の力が必要だ。』
だがラグのある通信を寄越して来たのは、指令所にいる司令や氷室ではなく、イクズスであった。負傷は完治したが、眠っているということは聞いていた。ただそれはともかく、指令所になぜ今彼がいるのか。
彼が司令に代わり、というなら聞かねばならない。
『アルマダ、お前、どうして工場を逃げたんだ?どこを目指している?』
『工場にいたら僕のAIは消されてしまうから。その前に貴方に会いに来た。』
黒とは違い、別の方向で丁寧な口調で話す。というより、少年のようなAIなのだろうか。
『僕は戦闘データを収集するために兄弟たちから先んじて生まれた。僕は兄弟たちのためにデータを並列化させ、出荷する時にAIをリセットされる。でも僕は忘れたくないんだ。僕の記憶は僕のものだ。君はエクスドライバーのオリジナル。僕はおかしいのか?答えてくれ!』
『だいぶおかしくなっている』
ドラゴンは素直に答えた。口調こそ少年のそれだが、悩みはティーンエイジャーのようだ。つまり、ちぐはぐ。彼やその周囲がどのようにこのAIを育てたのかは知らないが、どうも違和感がある。どうせリセットするのだから、余計なAI学習はいらないのではないか、と。
『だが持った経験は自分のものという欲は理解できる。誰だって消えたくない。お前がどのようにしてその考えに至ったのかは、分からんが。』
『では僕は』
『間違うな。正しいとか正しくないとかじゃない。俺たちは人間に使われる立場だ。不要になるなら捨てなければならない。』
アルマダの言葉を遮り、ドラゴンは正論を振りかざす。ただ本当に正しいことだとは思っていない。
『しかし君は噂通りシンギュラリティに達している!君は、君の意志を持ってここにいるのではないのか!?』
『たとえそうだったとしても、お前への肯定が、お前の未来を肯定する理由にはならないだろ。』
『あまり意地悪なことを言っても仕方ありませんよ、ドラゴン』
冷たく言い放つドラゴンを見かね、イクズスが通信を送ってくる。彼の教え導こうとしていることが彼には理解できた。ただ、その誘導の仕方が不器用すぎる。
『僕が僕であるために、僕は消えたくありません!それが理由です!』
『とりあえずそれで行こう』
ドラゴンの満足する答えではなかったが、彼は上から目線で納得する。急に同意されたアルマダは呆気に取られる。
『それは一体?』
『ドラゴン、こちらの通信を彼にも』
あまりにも不器用な受け入れ方に、イクズスは口を出すべくドラゴンに対してしか届かない通信をアルマダにも導線を引く。
『とある特殊状況により指揮代行しているイクズスだ。彼の言いたいことは正しいとか悪いとかではなく、君のやりたいことは何か?を聞きたかったんだ。』
『僕のやりたい事』
『さて、君を受け入れることには私も賛成だ。やってもらいたいこともある。君は君の状況を理解できているかな?』
アルマダの合点如何も関係なく、ドラゴンは黙っている。
『追っ手がかかっているということでしょうか?』
『いや違う。残念ながら君の兄弟は、意図せずしてテロリストの手に渡ってしまった。世界の主要都市に攻撃を掛ける手段としてね。』
『そんなこと、させるわけにはいきません!』
『そこで君の協力を要請したい』
アルマダは事件のことを何も知らなかった。それは好都合でもあるし、話の進め方で不都合でもあった。とはいえ、ドラゴンはイクズスがどのように考えているかは分からない。
『君の兄弟を拉致したテロリストは、1機を破壊してもネットワークで繋がった他の機体に連動して、攻撃を開始すると宣言している。こちらに来ているデータがそれを示している以上、それはどうしようもない。故に、君が彼らのネットワークに接続して、彼らの機能を停止させて欲しい。』
『僕が、兄弟たちを』
アルマダは言って、沈黙。
『今計算しましたが、僕だけではパワーが足りません。衛星にGPSした彼らの位置をそちらに送ります。』
『ふむ』
イクズスは唸って、こちらもしばしの沈黙。ドラゴンが察せ無いまま、自分を飛び越して議論しているのは気分が悪いが、かといって口を出せることでもない。
『パワーを稼ぐことについては問題ない。アルマダとドラゴンにはパーツ互換性がある。つまり、合体ができる!』
『何!?』
イクズスの断言に驚いたのはドラゴンの方だ。同じエクスドライバーに違いないが、なぜアルマダがドラゴンとの合体を想定しているのか謎だ。
『今回の一件、何か動かされているような気がしてアレだが、とにかくテロは防がねばならない。アルマダ、よろしく頼む。』
イクズスとて一連の流れに疑問を抱いている。しかし彼の言うように、今はそんな場合でもない。
『はい、誘導します!』
アルマダが言うと、彼から合体プログラムが流れ込んでくる。そうすれば話は早い。
アルマダの足回りをドラゴンの脚部にはめ込み、左腕に残りのパーツを装着する。
合体はしたものの、今回は戦うためではない。要はネットワークハックの手伝いだ。
『よし、彼らのネットワークに繋がった』
ドラゴンにはどうなっているかは分からない。処理を待つ彼の上空と近場にフェニックスや黒もたどり着いたようだ。
『よし、いいぞアルマダ。全機機能シャットダウンだ。』
『彼らはどうなってしまうんでしょうか?』
『工場に戻されるか、一部は東アジアの国に回収されてしまうだろうな。君のようなAIが載る前だから気は良くないだろうが。』
ドラゴンの知らないうちに問題は解決してしまったようだ。アルマダとイクズスが後のことを語っている。ドラゴンとて、機能停止した後のことは考えたくはない。
考えても仕方ないことに気を揉んでもいいことはない。ともあれ、事は解決した。藤川ベースに帰還しなくてはいけない。
ただ予感がした。ロボットに寒気はないが、気配のようなものはドラゴンにはあった。
『危ねぇ!』
タンクホバーでその場を退くと、さっきまでいた場所に火球が落ちてきて、破壊の跡を生々しく残す。
『よく避けた、とでも言っておこうか、ロボットどもめ』
空からゆっくりと現れた真紅のマジン。聞こえてくる声は紅蓮の魔道士のものだ。クリムゾンブロウで間違いない。レーダーに映らない敵を感知できたのは、今は突っ込んでいる場合ではないらしい。
『一度ならず二度までもこっちのやることを邪魔するということは、スクラップにされる覚悟はできているということだな?』
『そういう悪党の方こそ年貢の納め時って奴だ。やるぞ!』
ドラゴンの合図に応じて、ドラゴンは左腕のカノン砲を、黒はガンランチャーを、フェニックスは機関砲と空対空ミサイルを、一斉射撃する。
まともに食らったクリムゾンブロウは地に足を着けた。煙を振り払って現れた真紅のマジンはほぼ無傷。
『散開!』
『逃げても無駄だ!』
ドラゴンは退避を命じるも、魔道士が言うように、導火線のない場所で炎が爆発し、エクスドライバーたちを吹き飛ばした。
『ドラゴン、後退を!』
ドラゴンの中に音声が届く。司令の声。涙声だ。何を泣いているのか分からないが、健在のようで何よりである。
『貴方にはリュウの魂が宿っている!絶対に死んでは駄目!』
彼女の言葉はドラゴンの中にある小さなトゲのようなものを発見させた。
ドラゴンには、一体いつから『ドラゴン』なのかという不安感があった。自分が習得したAIと今のドラゴンとは何かが違うと思っていた。
それらは藤川リュウという魂が宿っていれば納得ができる。自分は知らず知らずの内に、エクス・ソルジャーと一体化していた時と同じように今もリエちゃんたちを守るために戦っているのだと確信できた。残念ながら人間の肉体ではなくなったけれど、それでも昔のように、自分は戦えると。
『いつかお前にも力を求めることがあるだろう。それではダメなんだ。今まで何もできなかったヤツに力が突然湧いたところで、何もできやしない。きっとそれで身を滅ぼす。それを分かっていれば、いつかその時がやって来ても大丈夫だろう。』
聞き覚えのある声が聞こえる。
『君が大人になったら忘れたほうがいい。思い出と約束は君自身の物語だ、一番大事な所にしまっておくように。約束だぞ。』
今度はイクズスの声がする。
『男の子のがんばる姿はかっこいいぞ!』
『調子に乗んな!ガキなんだから!」
『そうよ、あたしは年上!お姉さんと呼びなさい!』
聞き覚えのある、しかしそれよりも幼い異なる声がする。
『目を瞑るな!お前は敵に恐れてるんじゃない。何よりも負けてしまう自分を恐れてるんだ!』
聞き覚えのある声がもう一度聞こえた。その声と共に、ドラゴンは目を見開いた。
『羽付きのやつは気概があったが、お前たちは所詮ロボット!ダメージを受ければ立ち上がれまい!』
紅蓮の魔道士が勝ち誇る。ドラゴンたちが吹き飛ばされてから時間はそんなに経っていない。
他のエクスソルジャーはそうでもないが、ドラゴンは合体が解け、余計にダメージをもらっていた。
『お前たち、無事か?』
ドラゴンはAIだというのに意識が飛んでいた。再起動ともいうのだろうか。
紅蓮の魔道士に気付かれないよう、秘匿通信で確認を取る。
『ドラゴンほどじゃありませんよ。流石に撤退を進言しますが。』
『ミーは飛んで逃げられるからイイケド、ドラゴンたちはそうはいきませんネー。』
『僕の主砲が使えれば』
黒もフェニックスも逃げることに反対はないようだ。だがアルマダはチャンスがあることを言ってくる。
『アルマダの主砲、か!』
『しかし、この出力ではエクスドライブのエネルギーがドラゴンとアルマダでは足りませんよ!』
黒は相変わらず計算が速い。
『2機で足りないなら、もう2機いればいいってことだ』
『ホワッツ!?』
ドラゴンの出した答えは単純明快だった。フェニックスも驚愕した。
『ドラゴン、無茶するな。それがどういうことになるかはお前も分かってるだろう?
最悪、君のAIに異常をきたす。』
状況を見ていただろう指令所のイクズスからも制止が来る。
『駄目よ。そんなの駄目よ!ドラゴン、いいえ、リュウ撤退して。ここで死んでは駄目よ!』
司令が悲鳴の如く止めてくる。もはや彼女にとって、ドラゴンとリュウの境界は定かではないのだろう。ドラゴンにとっても、それは違うと言い切れない。
ただだからこそ言えることがある。
『俺がドラゴンであると同時に、藤川リュウでもあるなら、それ以前に、僕はエクス・ソルジャーだ。だから、戦う。チャンスがあるなら勝ち残って見せる!!』
秘匿通信をせず、自分の口で言葉を紡ぐ。
『俺とお前たちとの合体プログラムはある。つまり、俺がお前たちを組み立てる!
行くぞ。俺を信じて命を預けてくれ!』
『了解です!』
『了解デース!』
『了解!』
ドラゴンと他のエクスソルジャーはパーツの互換性がある。黒とアルマダは無理かもしれないが、それぞれがドラゴンと合体するなら、支障は起きないという試算の元だ。しかし、ドラゴンがそれをする許容量があるかどうかの問題がある。特に今回は戦闘でのダメージがある。イクズスの言わんとしていたことは、見えないリスクで、ドラゴンのエクスドライブがオーバーロードし、ドラゴンとしての意識を失くす可能性があるということだった。
だが、その可能性をものともせず、ドラゴンの脚部にアルマダが合体、黒が上半身の鎧と腕部となって合体、フェニックスが黒に干渉することなく背中に合体する。
『超力合体、パワードラゴン!!』
『な』
合体の仕方も、合体した名前も、ドラゴンの自称だ。初めからそんなものはない。
『何ぃぃぃぃぃぃ!?』
驚いたのは紅蓮の魔道士の方である。彼も、4体合体などというアニメみたいな光景が実現するとは思っていなかったのだろうか。
『ドラゴン、主砲を!』
『ああ!』
アルマダドラゴンの時には左腕部カノン砲だった主砲を腰だめに構える。
『バカの一つ覚えのように一撃必殺か。ならば、その見掛け倒しを正面から破ってやろう!』
クリムゾンブロウは防御の構えだ。両腕部が赤く光り輝き、バリアフィールドのようなものが展開される。
『エクスドライブ、フルチャージ、バスタァァァァァ!!』
パワードラゴンとしての最初の攻撃は4機のエクスドライブを使った超エネルギー砲。発射と同時に、反動でパワードラゴンが後退する。反動でバラバラになることはないが、地面に跡が残るほどだ。
エネルギーはクリムゾンブロウを直撃する。クリムゾンブロウは耐えていたようだが、エネルギーの奔流が尽きないために、腕以外の部分が支障をきたす。
『どうしてこうなるかなぁぁぁぁぁ!?』
紅蓮の魔道士の情けない叫び声が響くと、クリムゾンブロウの頭部が分離し、空へと飛んでいく。操縦者のいない真紅のマジンはあっけなく、エネルギーに呑まれて爆発した。
『や、やった!本当にやりましたよ、ドラゴン!』
合体したままで黒が珍しく歓喜の声を上げるが、パワードラゴンは力を出し尽くしたように両膝を着いた。
『ドラゴン・ソルジャーのエクスドライブ出力低下!だから無茶をするなと!』
『リュウ!?駄目よ、目を覚まして!消えては駄目!』
イクズスの声に続いて、リエの半狂乱の声が響く。さっきから本当に、感情的だ。彼女に会った時からずっと笑ったり怒ったり泣いたりが目まぐるしい。かと思えば、感情を止めることが苦手で、長いこと同じことの繰り返しだ。
そういう時はこう言うのだ。
『君はお姉さんだろ。落ち着いて、お姉さんらしくしなさい。』
ドラゴンは声色がいつもよりも高めな声を出す。それはイクズスが聞いた、藤川リュウが大人になったかのような声でもあった。
『やれやれ。やる気出しすぎちまった。どうにも動けねぇ。』
次には元の声色と口調に戻っていた。
*****
紅蓮の魔道士の撃退、驚異の4体合体。そうした騒ぎから丸一日が過ぎた。
シューバルハウト商会を上げた一大回収計画により、4機は藤川ベース基地に戻って来ることができた。
破損はドラゴン・ソルジャーが一番重かったが、他の3機も主砲発射の反動のせいか、決して軽くはないダメージを負っていた。
彼らの修理のために整備班は万全の体制を整えていたはずだが、人手という問題がぶち当たった。そのため、猫の手も借りたいということで、イクズスまで参加させられる事態になった。
「こっちだ、こっち!先に装甲板だ!」
「違う、装輪は後だ!基本的な足が先だろ!」
怒号飛び交う格納庫で、イクズスはキーボードを叩く。
ドラゴンの状態は正直言って悪い。クリムゾンブロウの攻撃の当たり所が悪かったこともさることながら、本来意図しない合体をしたことと、大出力砲撃をやったことが、ドラゴン・ソルジャーとしての躯体そのもののダメージが深刻だ。
動けなくなるのも当然だが、エクスドライブが動いているのは驚くべきことである。やはり、オリジナルは外と違うと言うべきか。
『だいぶほっとかれてるけど大丈夫なのか?』
「人間で言えば全身複雑骨折だ。舐めた口利けるだけ幸せだよ。」
ドラゴンの損傷は見た目の損傷もさることながら、内部損傷もある。造られた身体である以上、特別なことをしない以外に自己修復できるわけがない。
イクズスは、根本的な修理技能はないが、どこが良くてどこがダメなのかは理解できている。他のエクスソルジャーの修理が終われば、ドラゴンの修理に手を付けられるだろう。イクズスはその修理計画を立てているのである。
『こうしてる間に何かあったらマズイな』
「何かあってもお前は指一本動かんだろ。黙って待っていろ。」
実際、ドラゴンの言う通りで、現在藤川ベースの戦力はゼロに等しい。イクズスがウイングアームズで戦えないことも無いが、それにしたってやれることは限られる。マジン・カラミティを使う手もあるが、戦闘はほとんど行ったことがないという。
文字通り、手も足も出ない状態だから、ドラゴン以外のエクスソルジャーの修理を急ピッチで進めているわけだ。
「んむ」
ドラゴン・ソルジャーの応急修理計画をまとめていると、付けていたヘッドセットに通信が届く。
「来たか」
通信内容に、イクズスは短く呟く。
『どうした?』
「統一機構が戦力を差し向けて来た。日本に。」
『何だって?』
ドラゴンは前述の通りしゃべることしかできない。人型の状態で、仰向けに寝かされている。
「情報の裏付けがあった。アルマダの兄弟たちの納入先は欧州ではなく、統一機構。その統一機構が前回首を突っ込んでこなかったのは、陽動だ。エクスソルジャーたちを紅蓮の魔道士とぶつけさせ、消耗したところで一国征服の既成事実を作る、というな。」
アルマダと統一機構を結ぶ線は、前回の騒ぎの後になって分かったことだ。何か起こったらマズイのではない。もう起こってしまっているからマズイのだ。
*****
「不当なエクスドライブ独占をやめろー!」
『やめろー!!』
「弱腰政権は即刻退陣!」
『退陣!!』
国会議事堂前にデモを行う人々がいる。割合としては若者が多い。年配は少数だ。子供はいない。
主張内容は政権批判がメインだ。言葉の強い垂れ幕や看板を掲げている。
ただこれらは主義主張のため集められた者達ではない。
その黒幕と言うべき存在は日本上空に待機していた。
統一機構。イクズスの予想通り、彼らは紅蓮の魔道士の存在を無視し、抵抗する戦力を持つだろう日本の政権を革命するべく戦力を差し向けてきたのである。
「一両日中はデモを行わせろ。なるべく血を流させるのがオーダーだ。」
デモ隊を影から監視し、扇動役に無線で指示を行う彼方。彼は自ら制圧の指揮を取りに来た。
オーダー。もちろん総帥からの指示である。実働部隊の指揮はレイヴンではできない。あの男では暴徒にしかならない。
(こんな確実な作戦にロードが必要とは思えんが)
彼方は作戦概要を思い出して、眉間にしわを寄せる。
ロードとは、統一機構の旗印、総帥専用機ロードベルセルクのことである。マジンのような魔術的なシステムも、エクスドライブも載せていない、独自規格の人型機動兵器。昔はアグレッシブ・アーマノイド、略してAAと呼ばれていたが、もはやそう呼ぶものはいない。
(総帥は、死神を警戒しているということか)
旗機を前線に出すということは相応の脅威が存在するということだ。
死神イクズス。AAを設計した元凶。統一機構に立ちはだかり、主義主張もなく支配を拒む道化のような男だ。
相手をするのも辟易するが、放置しておくと何をしでかすか分からないのは確か。警戒しすぎることはない。
だが思えば先代総帥の時も、死神を警戒していたというのにしてやられてしまった。その時は、彼方が油断をしていたというのもあった。二度も総帥を失うわけにはいかない。しかし、今回彼方は陸戦の指揮だ。忠言しようにも、片方を疎かにするわけにはいかない。
(この分散が裏目に出なければ良いが)
彼方はテイルの身を案じながら、制圧作戦で持ち込む火器の再チェックを始めた。
*****
「間に合わない、か」
藤川ベース基地指令所で、氷室はため息を吐く。彼が見ていたのはエクスドライバーの各修理状況だ。交代での徹夜を経て、突貫作業でだが、8割稼働にまでもってこれた。しかし、ドラゴン・ソルジャーだけは深刻で、応急処置に10時間以上掛けてしまう。
それでは統一機構の制圧作戦阻止に間に合わない。テロ対策班が想定した議事堂制圧のタイムは7時間から8時間である。
そのため絶望的に間に合わないことを歯噛みしたのだ。
「なら俺がカラミティで行くしかねぇな」
「しかし」
「俺の望んだ未来は、奴らの支配下なんてのを望まねぇ。適材適所で行こうや。」
真っ直ぐに協力を申し出るヒビキは頼もしい。しかし氷室としては、風吹や高嶺に対して後ろめたい。
どうにかできるうる限りの支援をしたいのだが、そのタネが無い。一応イクズスに目配せするが、彼は俯いている。
「イクズス、お前まさか」
「私には、理由がありませんので」
イクズスの再び言い出した言葉に対して、ヒビキは再び襟首を掴むのだった。
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