2
それから二年。
「じゃあ、行くね」
「おう、気をつけてな」
「本当に手伝わなくて大丈夫?」
「大丈夫、剛ちゃんがいるから」
入籍を済ませ、二人の新しい新居を探し、ようやく引っ越しのトラックの荷物が出発した。
私は今日、もう一度家を出て生活をしようとしている。
自信はない。過去に一人で暮らしていたころに一度の失敗を経験したから。部屋が散らかるかもしれない。忙しくて家事も疎かになるかもしれない。
でも
「さ、そろそろ行こう」
私は一人じゃない。剛ちゃんがいる。私を支えてくれる大切な人がいる。
「うん」
剛ちゃんの車に乗り込もうとした。二度と戻らないことはないけれど、今までずっと生まれてきて生活をしてきた実家を後にするこの気持ち。
「お父さん!お母さん!」
「アツ!剛将くん!」
あれ?こういう時って私が言うタイミングじゃ……と、私と剛ちゃん、そしてお父さんとお母さんは目を合わせて不思議な顔をした。
「……」
「……」
「あの…」
「あの…」
何よ!何なのよもう!!
「……どうしたの?」
「アツこそ……」
うわあ、これすごく言いにくい。
「じゃあ、私から!」
母は、こんなタイミングでもバッサリと言い切る。こういうところがすごいと思う。
「アツ、元気でね。そして剛将くん」
母は剛ちゃんの目の前に立ち、頭を下げた。
「うちの娘を、どうか…どうかよろしくお願いします」
「お義母さん……」
母の気持ちが、胸を締め付けるほど深く伝わった。お父さんも後ろで寂しそうな様子を見せながらも、母と一緒に頭を下げた。
「頭を上げてください!…あの、僕が……敦子さんに頼りっぱなしになるかもしれません…ですが」
「そんなことは…剛将くんはとても素敵な人よ」
「いえ!そんな!敦子さんに比べればペーペーです」
「……ふふっ」
「でも、一緒に頑張ります!幸せになります!」
そして、剛ちゃんは背筋を伸ばした。
「お義父さん、お義母さん。こんな素敵な娘さんを産んでくださり、ありがとうございました。僕は、敦子さんと一緒に人生を添い遂げることができることを、誇りに思います」
母は目に涙をにじませた。父も、感慨深く剛ちゃんを見つめた。
「……ありがとう」
「ぐすっ……ぐすっ……」
「えっ?」
剛ちゃんが、こらえきれず泣き出した。
「ちょっと……」
「だって……だって……」
零れ落ちる涙を必死に手で拭う。見兼ねた私はハンカチを差し出した。剛ちゃんはハンカチを手に取り、涙をふく。
「じゃあ、行ってくるね。お父さん、お母さん、言ってきます」
「おう」
「いってらっしゃい!」
そして、車に乗り込み二人で新しい新居に向かった。なんだか「じゃあね」とは言いたくなかった。
そんな、新しい旅立ち。
佐藤敦子・御年三十三歳
私のリスタートは、少し涙腺が弱い素敵な彼とともに。
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