小型タクシー「えくれ石」

middleやん

(一話完結)


とある村に数時間に一度だけ運行する少し変わったタクシー「えるけいし」があった…



薄暗い街角、4時44分発のタクシーに乗ると必ず話すという


「お客さん’’えくれ石’’って知ってるかい?」


その話し始めはこの村の一部では少し有名らしい。


「えくれ石に触れるとたちまち目眩や嘔吐、場合によっちゃ心不全になって死に至るんだとよ」


少し髭の生えた80代くらいのおじいさんが得意気に話し始めた。


曇天の下 無色の風景で、木々は踊るように伸び、小鳥の声すらないこの村には


この石によって呪われ死んだ話が言い伝えられている。


灰色のツルツルした見た目の丸い石で、村の奥にある切り株に埋まってるのだと言う。


その切り株のある森は今は封鎖されている。


今まで森に出掛けて帰ってきた姿を見た者は誰一人と居ない。


踏み入れた人は全員死ぬからだ。


ちょうど三日前に実際に踏み入れた人がいた。


興味がわいて出来心で入ったらしい。


男は当然死体となって見つかった。


全員仰向けで、もがいた痕すら無い


物静かな現場に蟻すら近づかない


80代のおじいさんはそう語ってた。


行ってみたい・・・


でも死にたくない


そうこう思ってるうちに目的地へとタクシーは着く。


「3千飛んで5円ね」


そう言われると男は3千5円を払う。


用事を済ますと小さい提灯を掲げた居酒屋を見つけた。


「こんな田舎にも居酒屋があったのか」なんて思いながら家に帰った。


次の日会社に行くために家を早く出た。


求めていたタクシーでは無かった。


来る日も来る日もそのタクシーが現れることはない。


ある日仕事帰りに街角に行ってみる。


苔が生えている。


その先にはチェーンとフェンス 錆びれた南京錠によって封鎖された森がある。


近づいて入口を探してみたが見つからない。


雨が降ってきた。


不気味に思ってその場を後にした。


半年ぶりに何気なく街角に行くと森の奥にタクシーが止まっている。


「もしかして・・・」と呟き近づいて行った


「何か御用で?」


30手前の若い男性が窓を開けて問いかける。


「いや何も」


80代のおじいさんは居ないのかと聞くと


「ああ、あの爺さんね」

「あの爺さんなら2週間前から来てないよ」


辺りを見渡すと血塗られたタイヤ痕があった。


気が付くとタクシーの姿は無く


土埃と共に小さくなっていくのが確認できる。


そのまま森の方へ行ってみる。


進んでいくと目の前に入口があった。


固く閉ざされたフェンスに穴が開いている。


人一人入れるほどの


もともと興味があったので入ってしまった。


タイヤ痕があったからだ。


腐ったような臭いがする。


とりあえず入ってみた。


話に聞いていた通り死体が仰向けになって所々で倒れてる


丸い石の呪いなのか 白い粉を付着させながら倒れていた。


周りに枯れ木も草も、石棚も祠もある。


まるで樹海のように、


怪しく日光も差し込む。


心做しか死体が笑ったようにも見える。


ここに長居すれば心が支配される。


そう思い、外へ出ようとした…


その時だった。


外へ出ようとする足を阻むように足が重く感じる。


息が苦しくなってくる。


「なるほどな・・」


生きて帰れない理由が漸く分かった気がした。


何とか外に出ることが出来た。


空気も軽くなり生きてることを実感した。


とぼとぼと歩いていると古びれた鏡があった


自分の姿が映るや否や顔が青白くなり汗が滲み出てくる。


そう・・・白い粉が付いていたのだ。


粉を払って家に帰る。


いつもの帰り道が長く感じる。


ここを曲がると苔が生えている街角がある。


ここが過ぎれば家が見えてくる。


そんなことばかり考えていた。


するとタクシーを見つけた。


「助かった・・」


手を斜め上にあげるとタクシーは停車する。


30手前の運転手だ


「xxxマンションまで!!」


焦った表情で運転手に行き先だけを伝えた。


「あいよ」


そう返事すると男を乗せたタクシーは発進する。


マンションに着きお金を払い車を降りる。


すると住民たちの話す声が聞こえてきた。


「・・・だってねぇ」


主婦の話だ。


「・・・らしいわねぇ」


しばらく立ち聞きすると気になることがある。


「・・・・え?」


あまりに衝撃的過ぎて思わず声に出してしまった。


その言葉に体が硬直して頭が真っ白になる。


「あら、今お帰り?」


話していた主婦がこちらに気づき挨拶を交わす


何とも話を聞くとここ最近嫌な噂が流れてるらしい。


人が何人も立て続けに死んでいること。


それがこの町で起こってること。


そしてそれが・・・あの運転手だったこと。


80代のおじいさんも30手前の男性も


半年前に死んでいたことが今分かった。


分からされた。


知りたくもなかった。


タクシーが不吉時(4時44分)に来たのも


石の呪いにもこれで納得できる


まさかおじいさんと初めて会った時にはもう


全員死んでいたなんてね。




塩化カリウムによって。

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小型タクシー「えくれ石」 middleやん @middle_yan

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