第51話・万有引力、再び

さて、素粒子たちの物語にもう一層深く踏み入るために、きみにぜひ知っておいてもらいたい知識がある。

この物語がはじまった当初に「万有引力」と呼んでいた現象が、いつからか「重力」と呼びかえられていることに気づいたかな?

どちらも同じようなものなんだけど、万有引力の法則はニュートンさんの専売特許なんで、それよりも少し理屈の込み入ったやつを、重力と表現させてもらった。

そしてその重力理論は、アインシュタインさんがおなじみのやつで説明しているものだ。

「相対性理論」って、よく聞くよね?

アインシュタインさんは、この有名なやつの中で、ニュートンさんの万有引力の法則にダメ出しをし、重力についての考察をさらに展開して精密にしたんだよ。

自然界の声を聞くには、この理論はどうしても必要なんだ。

少々、脳を煮えたぎらせることになるかもしれないけど、きみもがんばって学んでくれるかな。

そのかわりに、以降、きみの自然界の現象を見る目は劇的に更新されるはずだよ。

アインシュタインさんは、本当にそれだけのことをしたんだ。

彼と、彼の論文(「特殊相対性理論」と「一般相対性理論」を、ここではひとからげにする)は、名前だけは知っていても、中身にはあまりなじみがないと思うので、この機会にさわりの部分だけでも理解してほしい。


それでは、アインシュタインさんの重力理論の前に、ニュートンさんの万有引力の法則を少しだけおさらいしておこう。

まず、古典的な「慣性の法則」(これはガリレオさんのやつ)は知っているかな?

ひとたび動きはじめた物体は、よそから力を加えられないかぎり、ずっと動きつづける、というものだ。

転がりはじめたボールは、いつまでもどこまでもその速度で転がるはずなんだ。

ただ地上では、空気や水、それに地面の摩擦などがあるために、この約束ごとは直感的にピンとこない。

だけど、周囲の抵抗を一切取り除いた、例えば真空の宇宙空間などで実験をしてみればよくわかる。

宇宙遊泳中の人物の手からぽいと投げられたボールは、その方向にまっすぐに、同じ速度で、永遠に進みつづける。

ただし、よそから力を加えられると、ボールの直線運動には変化が起きる。

バットで小突けば進行方向と速度が変わるし、グローブにおさめれば運動はストップする。

それを踏まえて、思い出してほしいんだけど、ニュートンさんは先の思考実験の中で、山頂から水平に大砲を撃ったよね。

その砲弾は、放物線を描いて、地上に落っこちた。

慣性によって飛びつづけていた砲弾だけど、地上から「地球の引力」という力が働いているために、そちらに向けて方向を変えさせられたわけだ。

地球も月も太陽も他の星ぼしも、慣性の法則を正しく守り、宇宙空間をまっすぐに進みたがっている。

ところが、法則が言うところの「よそからの力」が干渉してくるために、軌道は曲線に、あるいは円形にゆがめられる。

その力こそが、星ぼしの引力、すなわち、万有引力だ。

万物は引っ張り合うんだよ。

特に、大きなものは、強く引っ張る力を持っているんだ。

・・・と、これがまあ、ニュートンさんの考えた、万有引力の法則だ。

ただ、ちょっと気になる部分がある。

引っ張られる、というけど、「なんで引っ張られるの?」って点だ。

なるほど、ニュートンさんは、現象を描写はしたが、メカニズムを説明してはいない。

そこで、さらにかしこい科学者は考えたんだ。

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