2016年【隼人】30 自分自身に誓いをたてろ

 台所と隣接する脱衣場の奥に、浅倉家の風呂場がある。


 脱衣場と台所は暖簾で区切られているだけだ。

 静かにしていれば台所から風呂場の会話が聞き取れる。

 一人で缶チューハイを飲んでいると、楽しそうな会話が酒の肴となる。


 そんなことを頻繁にしてきたから、いまでは遥と撫子が風呂から出るタイミングが、だいたいわかるようになっていた。

 覗きといっても、入浴中は無理だ。

 裸を見るならば、着替えている最中を狙うに限る。


 何度も覗こうと思っていた。今日は記念日となるだろう。

 数多のシュミレーションを行動に起こすのだ。この一歩は、浅倉隼人にとっては、歴史的なものとなる。


 すでに脱衣所の目立たない場所にカメラを設置した。

 動画の録画ボタンを押している。

 録画開始のタイミングは、自分でもさすがだと思うほどに完璧だ。


 二人はすでに、脱衣所で話している。

 ここまではシュミレーション通り。

 祝杯は一本だけでは足りない。


 追加の缶チューハイを取りにいく。

 冷蔵庫を閉じたタイミングで、撫子がバスタオルで頭を拭きながら暖簾をくぐってきた。


「あ、ほ兄ちゃん帰ってきてたんだ」


「おお、さっき戻ってきた。みやむと遊んでたんだ」


 余計なことを言う前に、酒を飲んで口を塞ぐ。

 まだ嘘をついていない。

 銀河に恋愛相談していたとかは、あくまで話していないだけだ。


「あー、美味しそうなの飲んでる。ナデにもちょーだい」


「ダメだっての。これは子供が飲んじゃ――あれ?」


 持っていたはずの缶が、手からなくなっていた。

 いつ奪われたのかわからないが、撫子が握っている。


 こわい。

 人を超越している妹の運動神経がこわい。


 父の弾丸も同じようなことをできるのだが、隼人にはできない。

 死んだ母親もできなかった。

 弾丸と撫子が異常なのだ。


「いただきまーす」


 間接キス。

 妹なのにドキドキしてしまう。当たり前だが、撫子はなにも感じていないようだ。

 ごくごくと飲んでいる。


「ほ兄ちゃんも、お風呂入ったら?」


「オレは一人でか。昔は、三人で入ってたのになぁ」


 ほんの数年前まで、覗く必要もなかった。

 遥のパイパンの子供マンコは、どんな成長をとげたのだろう。

 録画映像をチェックするのが楽しみだ。

 まだ、なにも見ていないのに、すでに股間は熱くなっている。


「子供じゃないんだからね。一緒にお風呂とかはダメなんだからね」


 可愛らしく頬を膨らませながら、撫子は酒を飲んでいく。


「おい、そんな一気に飲んだら」


「あれれ? 美味しい変なジュース、もうなくなっちゃった」


 缶を下に傾けても液体が出てこない。

 見事な飲みっぷりだ。


「ほ兄ちゃん、これおかわり」


「ダメだ。酒なんだぞ、それ」


「お酒? 本当だ。未成年はどうのこうのって書いてる。これ、本当にダメなやつだよ。子供が飲んじゃいけないんだよ」


 子供じゃないから一緒に風呂に入れないとか言ってたのは、どこのどいつだ。

 ほんの少し前のことさえも、よくわからなくなっているのか。


「おまえ、もう酔ったのか?」


「酔ってないもん。あたし、大人だもん」


「いや、ガキだろ。どう見ても」


 いつものように、撫子は寝巻きとして親父のTシャツを借りている。

 小さい撫子が着用すると、萌え袖で丈の短いワンピースのようになっている。


「ガキって言わないで。これでも、ほ姉ちゃんはまだなのに、あたしは生えてきたんだからね」


「どこの毛の話だ?」


 空き缶を投げつけられる。

 隼人の額に直撃する。当たっても空き缶の飛行速度は衰えず、弧を描いて流し台に落ちていった。


「ほ兄ちゃんの変態。なに、きいてるのよ」


「痛ぇな。そもそも、誰から切り出してきた話題だ」


「だって、こんなの話せるのは、ほ兄ちゃんしかいないんだからね。あのね、きいて。せっかくだから、きいて。ききなさい。いいよね」


「おうおう、なんだ。話せ」


「おっぱいのサイズも、ナデのほうが大きいんだよ。けどね、けどね。ほ姉ちゃんのほうが可愛くて魅力的なんだ。とくに左の乳首が恥ずかしがり屋さんで、いっつもかくれんぼしてるの。ふざけて触ったら、すぐに出て」


「ナデナデ!」


 脱衣所から遥が怒鳴ってくる。

 隼人も缶チューハイを一本空けているから、酔っていたのだろう。

 こんなきわどい話を、脱衣所に聞こえる位置で、するべきではなかった。


 でも、極めて貴重な情報が手に入った。

 遥はパイパンで、陥没乳首。

 数年前から止まっていた遥の裸のイメージが更新された。


 このあと、それが動画で見えるのだ。

 頭の中で、アダルトビデオの予告映像みたいなものが勝手に作られて、流れていく。


 今日は、自分の限界を打ち破れるかもしれない。

 自分自身に対しての誓いを守り、何度も何度も射精してみせる。

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