第21話 殺人犯は柵の中にいる
遺体発見時、彼女の腰まであった髪は肩下あたりまで切られていたとのことだった。そして、切られた分の髪はどこからも見つからなかった。
一応、首つり自殺も考えられたらしいが、被害者が精神病だったこともあり、他殺の線が濃厚らしかった。
凶器は見つからなかった。縄や紐の類は見つからなかったし、水に濡れていたこともあって、絞殺痕からも特定できなかったそうだ。
彼女の殺害方法は明白だったが、凶器は謎に包まれていた。
病院にも警察は来た。医師や看護師、それに私たち事務員も事情聴取を受けた。
元患者の美容師まで事情聴取を受けたらしい。後で彼女から話を聞いたところによれば、「髪を切ったか聞かれたんです。でも、私、いちいち覚えてないですし。そういえば、切ったような気もするって答えたら、あなたは元患者ですかだって。失礼しちゃうわよね」となぜか笑っていた。話し始めは神妙な面持ちだったのに、話の途中から自分のことを話している気分になり、嬉しくなってしまったのだろう。
監視カメラも当然分析された。だが、彼女が鉄柵をよじ登るところは映っていなかったし、彼女の髪の状態も判別つきにくかったらしい。
もし犯人がこの病院の人間だとしたら、私たちは殺人犯といっしょに暮していることになる。この鉄柵に囲まれた中で。
そういうふうに考えるのは早計だったかもしれないが、とにかく私はそう考えるようになり、疑心暗鬼というか人間不信というか、誰が敵で誰が味方なのか、誰が殺人犯なのかと、心の奥底でくすぶるような気持ちになっていた。
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