第一部 最終話 幼女魔王ならボクの隣で寝てるよ

 あれから一週間が過ぎた。


 魔王の城は、数日も経たずに修復されている。

 ドワーフたちの手伝いや、チサちゃんの魔法もあって、以前より立派な城となっていた。

 琥珀花専用の庭園までできている。


 今もチサちゃんは、朝食を取ってくつろいでいた。

 穏やかな寝顔である。ボクは、この眠り姫を守るために、この世界に生を受けたんだろうな。


 そんなことを考えていると、セイさんが飛んできた。


「チサ様、ダイキ様。ロイリ様より、新たなミッションが下りました」


 パッと目を開き、チサちゃんがムクリと起き上がる。


「今度は、どんな宿題? L・O退治? それとも新しい魔王との勝負?」


 今のところ、チサちゃんの統べる世界は攻めてこられていない。ときどきマミちゃんが遊びに来るが、遊んで、カードを交換して帰るだけだ。


 おかげで、ボクたちの世界は少しずつ潤ってきている。


 だが、油断はできない。

 L・Oのような危険極まりない存在が来て、この土地を荒らす可能性だってあるのだ。


 そのときは、ボクとドレンで撃退するけど。


 長年の勘を取り戻したのか、ドレンも最近は善戦するようになった。頼もしい限りだ。


 チサちゃんが尋ねると、セイさんが一枚の紙をテーブルに置く。


「感想文です。内容は、玉座について」


 白紙の原稿用紙が、チサちゃんの前に。


「ボクについて書くということでしょうか?」

「はい。チサ様が書くなら、ダイキ様のことになります」


 座り心地とかかな? 


「それって、ラブレター?」


 チサちゃんの心音が激しくなるのが、ボクの腕を伝って聞こえてきた。


「はい。そう解釈なさってよろしいかと」

「枚数は?」

「ご自由にどうぞ、とのことです。一枚以上でしたら、大丈夫です」


 だったら、あんまり迷うことはないかな。


 チサちゃんが、ボクと目を合わせる。


「どうしたの、チサちゃん?」


 ボクが聞くと、チサちゃんは顔を赤らめてそっぽ向く。


「ダイキ、ゴメン。向こうを向いてて。なんか適当にマンガでも読んでて欲しい」


 チサちゃんの指示で、セイさんが数冊のマンガ本を持ってきた。


「お好きな作品をどうぞ」

 適当に、学園モノをチョイスする。


「原稿用紙換算三〇〇枚で、足りるかな?」

 ラノベ一冊分!?


「大スペクタクル巨編ですね。プロット作成はお任せください。起承転結ですか。三幕八場でしょうか?」

「三幕で」


 ただのレポートなのに、本格的すぎだ!


「モニターでしょ? 座ったときの感触はこんなんで、みたいに簡単なレポートでいいんじゃない?」

「それだけだと、世間にダイキの素晴らしさが伝わらない。それに」


 言いかけて、チサちゃんが振り返る。


「わたしがどれだけ、ダイキを大切に思っているかも」


「チサちゃん……」

 思わず、ボクは照れてしまう。


「まず、ダイキの足の感触。砂袋に詰めた岩のように、太くてたくましくて」


 それ褒めてんの!?


(第一部 完)

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