犬が渡り歩く異世界

第38話 お隣の勇者

「ねぇねぇ聞いてる？聞いて？お願い、きゅーちゃん！聞いて！」

　今食事の時間なんですけど？

「あ、それ美味しいの？食べてみていい？」

　マドロンさんの頬に犬パンチ

「ブヘッ！」

　食べつつ寝転んだマドロンさんに、なんやねんと話を促すベシベシ！

「痛い！痛い！やめてっ！」

　キッと睨む！はよ言えや！！

　手を振りかぶる、容赦しねーぞサイン。

「やー！！言う！言うから！」

　チッ

「もぅ舌打ちこぁい……あのね、あのー隣の国の勇者が来るって聞いてー、ね？」

　ああ、ポンコツが言ってたな。

「そっそれでね！パレードみたいな？のするんだって、でね？でね？」

「きゅーちゃん一緒に見に行かないかなって、思ったんですー……」

　何で俺が見に行く必要があんだよ？興味ねーよ！フルフル

「ええっ！駄目ですか……きゅーちゃん可愛いから勇者の目に止まるかなって、ちょっと期待したりして……」

　お前……勇者狙ってんのか……

「分かる、分かるよ？勇者狙いかって目！でもさ、少し位目が合うとかあったらいいなって！思ったんですー」

　勇者ってのはそんなにいいのかねー？ここの勇者がアレだったから期待してないんだけど、前の世界の勇者はちょいマトモだったよな。

(性格は少し荒れてた人も居ましたけど変態勇者の存在が強烈すぎましたねー)

「駄目ならさみーちゃんでもいい……

　腹にジャンピングキック！

「んぐおぉぉーー！！おぇぇ！！」

　みーちゃんだとぅ！見世物にする気かっ！！飼い主だろうが許さんっ！！

　連続ジャンピングキック！！

　ジャンプした瞬間副店長にキャッチされた、あっ……チッース！！

(千代さん系にはとことん弱いですね……気持ちは分かりますけど。)

　長いもんには巻かれるのがコツだ。

「それ以上やると死ぬので一応勘弁してください、私から謝ります、申し訳ないです。」

　な、何いってんすかー！副店長は何も悪くないっすよ！やだなー尻尾振っときます！

「ただ、私も拝見したいので一緒に来て貰えませんか？」

　喜んでー！！

(居酒屋かっ！！)

　それそれー突っ込めるじゃん！

(きゅーちゃんの受け売りですー)

　個性死んでるな！

(ポンコツ馬鹿って個性があますから！)

「それで？了承の程は？」

　やだこぁい！コクコク。

「ぎゅーぢゃんー！！うぇっぷ酷い……」

　死人は黙って？

「では、明後日らしいので、姉妹と一緒に行きましょう。」

　さりげなく姉妹のおかわりしやがった、けど文句言えない……コクコク。

　そして観たくもない勇者パレードに連れていかれた、お店を閉めてまで皆が見たがるとかオカシクナイ？イケメンなの？爆発するの？みーちゃんメテオなの？

「ンミ？」めておしていいの？

　いや、駄目なんだけどね、悲しそうな顔しないで？何でそんなにメテオしたいの？にぃに良く分かんない……。

　店員さん達で女パワー炸裂、最前列ゲット、バーゲンセールに群がるおばちゃんみたいなこと止めて！恥ずかしい！

　店長に俺が、副店長にみーちゃんが、他の店員さんはぴーちゃんとヨーンを抱っこで待機、そこまでしたいか！

(お隣の勇者はイケメン？が揃っているらしいです、だからでしょう。)

　なぬ？周りを見渡せば確かに女性がやたら多い、おっさんが気圧されてる……虚しい構図だよな……

　ポンコツ馬鹿、先に見に行ってこいよ、イケメンかどうか。

(やです、私もドキドキしてみたい。)

　なっ！生意気！神様は縁ないだろが！

(そんなことないです！落ちた神は人間と恋に墜ちるんですぅ！)

　ポンコツが夢見んなよ、悲しくなるだろ？言ってて虚しくないの？

(余計なお世話ですっ)

　今の場所は中央広場みたいな所だが、遠くの門付近で歓声が起きている、いや、隣の勇者って条約なければ敵だろ？何歓迎してんの？

　視力の良さで遠くが見えるが何か無駄に豪華な馬車を改造でもしたのか某ネズミーランドのパレードみたいな馬車になってる、アホちゃう？何かアレ、金あんだぜ！って言ってる感じがムカつくわ。

　乗っている三人組の男がそうなんだろう、明らかに日本人だ、そして……チャラい、あれはイケメンでも駄目な部類だなー。

(ちゃらいって？顔が良くても駄目な人間が居るんですか？)

　あれは調子乗っているヤツだな、ドヤ顔だもん、ハーレム系だぜ。

(はっ！ハーレム！？変態勇者と同じ人間なんですか？)

　変態は顔で却下されたろ？でもな、女の中ではイケメンなら良いってのが居るんだ、愚かよのー？中身は只のクズなのに見た目で流されて泣きを見るんだよ、何で分かんないのかね？俺は不思議でならんよ。

(えー？そうとは限らないかもしれないじゃないですかー！決め付けすぎです！)

　お前みたいのが一番泣きを見るんだよ。

　と、馬車が近くに来ている、マドロンさんはカッコいい！なんてきゃーきゃーしてるけど、副店長は案外冷静だ、何でだよ！俺達連れ出してまで来たのに！？

「成る程、隣の勇者はクズっぽいですね。」

　……ち、調査だったの？こぁい。

　馬車が目の前を通る、と勇者の一人が此方を見て驚いた顔をした、と思ったらサッと馬車を降りる、女どもの歓声が五月蝿い！

「ミィミぃ」にぃにみみいたいの……

「ピッピッ」なんでうるさいの？ばかなの？

　ぴーちゃん！変なとこ真似しちゃ駄目！仕方ないみーちゃんとぴーちゃんに結界をする、透明だからバレないかな、って副店長がこっち見てる！感触でばれた、見ないで……

「まぁ五月蝿いですしね、仕方ないです」

　アザーッス！！

　と、馬車から降りた一人がこっちに来てる、マドロンさんが五月蝿い、絞めようかな？

「わーマジ？これポメじゃねぇ？この世界にも居るんだ！感動したわ！」

　触ろうとしたので威嚇する、触んなクズが！チャラいのはメソで十分だよ！

「！きゅーちゃん！威嚇なんて駄目よ？勇者様なんだから失礼ないように！」

　マドロン……帰ったらお仕置きな？

「ははっごめんごめん、つい感動して、ポメもごめんな？じゃあなー！」

　と、爽やかに去って行った、おおーチャラいのは外見タイプか？

　何て思うかよ、能力で鑑定したぜ？魅了なんて付いてやがる、厄介なヤツだ。

　もしかしたらあの能力で王様をどうにかする可能性もあるぜ、どうすんだ？

(きゅーちゃん冷静ですねーでも私も何だか好きになれません。)

　国の乗っ取りかもしれないぜ？条約なんて言ってるが、勇者レベルの魅了だろ、王様はイチコロなんじゃねーの？

(へっへーん、それはない、王に連なる者には勇者の魔法は無効に出きてんの、あーいうヤツが居るからね？抜かりはない！)

　変態呼んどいてそりゃないぜ……

(あーっ！もうやめてよ！ランダムにケチつけんな！反省はしている！)

　はいはい、残りの二人は普通に剣士と魔術の攻撃型だな、何であいつだけ魅了なんて貰ったのかね？実は地球でモテなかった反動ですか？だったらプギャーなんですけど！　

(ぷぎ？あんたってたまに変な言葉使うよねー地球に興味出てきたし？)

　行けば？業の深い人間が闊歩する世界だぜ、神様なんて絶対いねーよあの世界は。

(いや居るよ、何処にも一人は居るはず)

　ならポンコツ馬鹿みたいなサボり魔なんだろ、やる気無さすぎぃー！

(もうー！反省はしてますってば！！)

　神とやり取りしてたらとっくにパレードが終わってた、みーぴー姉妹は結界で遮断したせいか退屈で寝た様だ。

「はあー！本当にカッコいい！きゅーちゃんも見たでしょ？何で威嚇なんてするの？」

　周りにバレないよう鳩尾に軽く犬パンチ。

「ぐうっ！！ちょ……何時も酷いよ…」

　馬鹿め、外見だけで、判断するな！

「カッコいい、確かにそうですが、降りてきた勇者は危険ですね、魅了の魔法持ちです、店長、今の感想は素ですか？魔法ですか？」

　あれ、副店長鑑定持ちなんだ、だから事務任されてんのかな？

「ぇ…本当に？えーど、どっちだろ？」

　マドロンさんを鑑定してみる、が魅了には掛かって居ないのを確認、何で副店長はそれを知らせないのかな？

「どってなのかハッキリどうぞ？」

「えっえっ！！どっどっちかな！？カッコいいとは思ったけど……お付き合いとかはない、かな、と思った、かな？」

「……成る程、掛かっては居ませんよ」

「鑑定したのに何で聞いたのっ！？」

「魅了という魔法の効果を確かめました。」

「あ……はぃすいません」

　弱っ！でもいい確認方法だなーさすがっす！頭いいー！！

(……巻かれ過ぎじゃないですかね)

「さて、皆さん見学は終了です、帰ってお店を開けますよ？いつまでものぼせ上がらない様に気を付けてください。」

「「「「いえっさー！」」」」

　マドロンさんの立場って何だろう？