第7話 気晴らしに (津久葉 晴)
「おい、次は
「ん、分かった」
俺がアイツに声を掛けると、アイツは相槌を打つだけ。
「遠慮しなくていいぞ。どんどん歌え!」
俺はアイツの遠慮にお構い無しに、言葉を続ける。
「おいおい、いきなり影野に無理をさせるな。もうすぐで帰るぞ。いいな?」
俺たち三人はカラオケに来ていた。なぜ、カラオケに来ているかって? ただ歌いだけなら、それはそれでいい。けど、俺たちがカラオケに来たのにはわけがある。元気づけるための他の理由。それは、アイツを放っておくことが出来なかったからだ。それなのに、マイクを渡してもアイツは歌おうとしない。
結局、水瀬の言うとおり、時間を切り上げた。その時間、約一時間半。水瀬と二人で一時間半も歌うのはさすがに喉にくる。
「んじゃ、帰るか。影野、付き合わせて悪かった。またいつか、」
俺たちがカラオケを後にした直後、不意に水瀬が第一声を発する。
ちょっと待て。待て待て、まだ切り上げるわけにはいかねえんだよ。
「えー、お腹空いた。なにか食いに行こうぜ」
咄嗟に俺は二人を引き留めようと、言葉を口にした。
「だとよ。影野、どうする?」
水瀬は影野に問い掛ける。さすが、物わかりがいい水瀬だ。
時刻は午後五時半頃だ。陽は沈み、若干暗い。お腹が空くには早くない時間のはず、なのに……。
「悪いが、帰らせてもらう」
影野は誘いを断った。付き合い悪いな。ここは、『行く』というべきだろ。けど、予定があるかもしれないしな。決めつけるのも良くないか。
「ということだ、
俺が一人考えていると、唐突に水瀬が口にする。本当に解散、していいのか? 大丈夫か?
俺はふとアイツに視線を向けた。すると、目が合ってしまった。アイツは表情を強ばらせた。
「ほら、帰るぞ」
水瀬は俺の鞄を引っ張り、連行しようとする。保護者かよ。にしても随分、荒っぽいことをするな。なんなんだよ。と、危ねえな。
肩に鞄を掛けていた俺は引っ張られて転びそうになるけど、なんとか体制を立て直した。アイツは相変わらず無言で突っ立ったままだ。
「水瀬、ちょっと待て」
俺の言葉に水瀬は一度止まった。その隙をみて、俺は再び影野に視線を移した。そして、影野の肩に手を置き、こう言った。
「なにか悩んでる事があったら相談乗るからな」
そう言い残し、俺と水瀬は影野と別れた。
後々になって、これで良かったのかと思った。もしかしたら、お節介かもしれない。それでも、なにかを隠していると感じた。だから、アイツが相談に乗ってくれると信じる。
いや、信じることしか出来なかった。
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