14-4(37)

〈ファ――ン!〉〈ガタン!〉〈ゴトン!〉…… ……


 すこし落ち着きを取り戻した僕たちはお互いちょっぴり恥ずかしくなり

少し距離を空けて座り直すとその後しばらく沈黙の時間が流れた。

 そんな中、その沈黙を最初に破ったのは彼女だった。


「ねぇねぇ、どうして私が悪い人に捕まってるって分かったの?」

「実はさ~ 最近お世話になってる女性のスマホに怪文書のようなメール

が送られて来たらしいんだ」

「怪文書って?」

「〈鳥かごの小鳥〉ってタイトルで小鳥が虐待を受けてる内容の物語で

僕は特に気にならなかったんだけど彼女が文章に隠された謎や暗号を次々と

解読してね……、それでミカちゃんのいる町、クラブの名前、鳥語が得意な

女の子が虐待の対象だってことが分かったんだ」

「それってまんま私のことじゃない!」

「そう、僕もすぐに『ピ―ン!』と来て今回の計画の練ったんだ」

「そうだったんだ、ありがとねっ!」

「いいよ、もう、照れるじゃんか」

「ところでその女の人、ショ―ちゃんとどんな関係なの?」

「た、ただの友達だよ、レイちゃんって言うんだ」

「へぇ~ そのレイちゃんって人、美人なの?」と妙に興味を示すので僕は

ポケットからスマホを取り出し「この子だよ」と写真を見せてあげた。

 すると彼女は目をまん丸にして「えっ! これってユミねえちゃん

じゃない!」と驚くようなことを口にした。

「えっ! ミカちゃん、知り合いなの?」

「うん、私が駅のホームでショ―ちゃん見失って困ってる時、この

おねえちゃんが助けてくれたの」

「よく見なよ、人違いじゃない? 名前だって違うしさ」

「そっかな~ ホントよく似てるんだけど」

「でももし本人だとしたらミカちゃんは2回レイちゃんに助けてもらった

事になるね!」

「うん、ホントおねえちゃんには感謝感謝だよ~」とニコニコ顔のいつもの

明るい彼女に戻り少し安心したのもつかの間次第に彼女の表情が曇り始め、

やけに不安げな表情を浮かべると急に顔を上げ僕に尋ねた。

「ショ―ちゃん、私といっしょに7番駅まで付いて来てくれるの?」

「もちろんだよ。7番駅どころかうさぎクラブまで付いてってあげるよ!」

「ホントにいいの?」

「あぁ、もう危なっかしくって一人ほおっておけないよ」

 

 その言葉を聞いた彼女はよほど安心したのか安堵の表情を浮かべながら

背もたれに身体を押し付け、そのまま長椅子に崩れるように倒れ込んだ。

 彼女のおどけたような一連の行動は裏を返せばそれだけ怖い体験をし、

心に深い傷を負ったということだろう。


「ショ―ちゃん、ショ―ちゃんってば」

「な、何だよ」

「ショ―ちゃんはまたトックに戻るの?」

「そうだよ、まだやり残したことがあるからな」


 ……一瞬変な間が空いたが笑顔の彼女は再び話始めた。 


「ショ―ちゃんには黙ってよって思ってたんだけど実は私、病気でもう

何日も生きられないの」

「えっ!」

「そうなの。でも最後に村に帰れてみんなに会えるんなんて……ショ―ちゃん

、ありがとねっ!」「それとね、もうショ―ちゃんと会えないから告白すると

ショ―ちゃんのことちょっと好きだったかも、へへっ!」


 予想だにしない2つ同時の告白に戸惑った僕だがそこは冷静に村長として

彼女に告げた。


『今日からミカちゃんを通訳兼僕の秘書として任命する!』


「な、何言ってんの、私にはもう先がないのよ。冗談止めてよ」と若干スネた

様子の彼女に僕はいたって真面目な面持ちで握手を求めた。

「えっ、何なの?」とまだ状況を理解していない彼女に僕は更に続けた。


「僕といっしょに特区へ行こう!」


「……あっ! そっか! トックに入れば身体が変わる……て、こ・と・は・

つまり病気がなくなるってこと?」


「ピンポ――ン! 大正解!!」


 お互い満面の笑みで握手を交わした僕たちの車両はきっとその瞬間、

この暗いトンネル内を走る他のどの車両よりも確実に明るく、心安らぐ

多幸感でループライン全体を温かく照らしていたに違いない。

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