10-1(26)

 ……私はさらに孤立を深めていた。

 7番村出身の私だから他のみんなと話が合わないのは当然だけど

それだけじゃない…… そう、全部私が悪いの。

 クラブでヘルプの仕事やお皿洗い、おトイレを掃除してる時、会えば

いつも優しく私に声を掛けてくれるお客さんがいた。

 その男性はもちろん他の人たちみたいに暴力は振るわないし、いつも

ウンウンって私の話を聞いてくれて、最後に必ず「頑張って!」って

励ましてくれる私にとって唯一光のような存在。

 そんな彼に対し完全に心を許した私はつい今私が置かれてる現状から

故郷の7番村、更にループランの秘密までこと会うたびに数回に分けて

話してしまった。

 オーナーからは当然喋るなとクギを刺されてたけど言ってどうなる

訳もなくただ自分が少しでも楽になりたくって、だたそれだけだった。

 ところがある日その男性から意外な答えが返って来た。

 なんと私をココから連れ出してくれるという信じられない彼の言葉。

 彼が言うには警備が手薄な日が月に一度だけあるらしく、その日を

狙って彼と一緒に脱出する計画をお互い怪しまれない様数回に渡って

綿密に立てた。 

 決行日までの日々はなんとも言えない緊張とこみ上げる嬉しさが

混じり合い中々寝つけなかったけど無事その日を迎え、私は計画どうり

彼がお店のお会計を済ませるまで用具室にひっそりと隠れていた。

 ところがいくら待っても扉が開く様子がなく、下の通気口から覗いて

いると黒いズボンが足音を立て徐々にこちらに向かって近づいて来るのが

見えたけどそれは明らかに私を連れ出してくれる男性ではなかった。

 私は怖くなり大急ぎでモップが立て掛けてある裏側に隠れた。

 足音が消え静かに扉がゆっくり開いた。


〈ギィ――ッ!〉


「ミカちゃん、出ておいで」

「ミカちゃん、そこに隠れてるの知ってるよ」

「ミカちゃん、さぁ、おじさんと元の場所に戻ろうね」

「ミカちゃん~ ミカちゃん~ ふふっ」


「あぁ…… あぁ……」

 

 私は全身の血が逆流し、まるでアイスが急に熱で溶かされたかのよう

に全身のありとあらゆる力が抜け落ちその場にへたり込んでしまった。


 私はオーナーに腕を掴まれ強引に元いた場所にほうり込まれ、

気絶するほどのお仕置きを受けた後、意識が朦朧とする中、オーナー

の言葉に耳を傾けていた。


「ミカちゃん、また騙されたね。これで2回目、へへっ!」

「あの男はオレが仕込んだんだよ。お前が変な考え起こさないか最近

気になってな」

「やっぱりお前みたいに7番村出身だと相手に一旦心許すと全幅の信頼

寄せるクセがあるからコッチも仕掛けやすいよ」

「とにかくこれで分かったろ。もうお前は死ぬまでココで働き続ける

しかないんだよ」

「もう引っかからないようにね!」と薄笑いを浮かべ男がこの部屋を

出てから数日が過ぎた。


 私がすぐ相手を信頼し心許してしまうのは……やっぱり単純に甘えたい

だけなのかもしれない。

 だって私のパパとママ急にいなくなったんだもん。

 私だけじゃない。ひなもそうだったし、リカちゃんも、あっ、確か

ショ―ちゃんもそうだったわ。

 それでも私、パパとママを責めたりしないわ。だって精神年齢が関係し

てるんだもん。7歳前後じゃ責任感やまして親として自覚を求めるなんて

ムリだもんね。

 それにしてもショ―ちゃん、リカちゃんも私と同じ境遇なのに私と

違って用心深くって自立してるし、しかもハートが強いもんね、ホント

尊敬しちゃう。  

 

 今頃どうしてるんだろ?

 元気かな?

 またいつか会いたいけど…… 会えないよね。

 

 眠りたくない。

 このまま明日が来なきゃイイのに。

 ずっとこのまま、そう、このままずっと……。

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