9-4(25)
ソラちゃんが混乱するもの当然だ。
偶然にもソラちゃんの元上司の身体に入ってしまった事実に当然僕
自身驚いたが、彼の説明によるとペナルティーで没収された年月が
ある日一気に戻され、会社勤めを経験せず今の生活がある彼にとって
「久しぶり」なんて言われたら混乱もするし、突如今の生活が消えて
無くなってしまうような恐怖に駆られるのも無理はないと思う。
だが僕が今回の偶発的な経緯を丁寧に説明する事で、互に納得した
2人は懐かしさから一気に歓喜の輪に包まれ、更に思いもよらぬ
サプライズが僕のテンションを急上昇させる事となった。
ソラちゃんの横で僕たちと同じように満面の笑みを浮かべる
ウエイトレスの女性が僕の目をまじまじと見つめ一言。
「ショ―ちゃん、久しぶりね!」
「えっ、久しぶりって?」
「ひなよ、私、ひな。ふふっ!」
「え――――っ! ど、どういうこと?」
ソラちゃんから事情を聞いた僕は彼女の運の良さ、というより
少し運命めいたものを感じるも、彼女が無事生きていたこの事実が
何よりまして嬉しかった。
「心配かけて本当にゴメンね」
「いいよ、そんなこと。気にすんなよ」
「でも、私一旦、村に戻ったのにみんなに黙って特区に出掛けたのよ」
「それだけソラちゃんのこと思ってたってことだし、精神的にまだ子供
だったからしょうがないよ」
「ショ―ちゃんって優しいのね!」
「へへっ! ま、まあな」
「ところでショ―ちゃん、このまま会社勤め続けるの?」
「うん、やっぱ、生活するにはお金がいるしな」
するとソラちゃんが首を傾げながら僕に問いかけた。
「えっ、貯金は?」
「それがさ~ この部長さん、自殺するつもりだったみたいで貯金
全部使っちまったみたいなんだ」
「えっ? 自殺、部長が」
「そう、最愛の奥さん亡くしたのが原因みたいよ」
「そうなんだ……」
「でね、ソラちゃん、なんとかあの退屈な業務から解放されたいんだけど
なんかいいアイデアない?」
「う~ん、そうだな~ う~ん、……あっ、そうだ! 部署に企画/開発部
ってのがあるんだけどそこにちょくちょく顔を出すってのはどう?」
「どうって言われても」
「ただ顔出すんじゃなくて何か企画を持って行くんだよ」
「何だよ、企画って」
「例えば頭が良くなるようなオモチャとかさ」「そう、それがイイよ!」
「オモチャか……」
「ショ―ちゃんは今んところ精神はまだ子供なんだからきっと子供たちの
ハートをキャッチする物作れるよ、きっと」
「じゃ~ ハナクソのパズルってのはどう?」
「何だよそれ」
「小さなハナクソをつなぎ合わせてでっかいハナクソに仕上げるの、
どう?」
「キッタナ――イ」と横で聞いてたひなちゃんが眉をひそめた。
「あっ! ショ―ちゃん、もうすぐ終電だよ!」
「いっけね― もうこんな時間! また遊びに来てイイか?」
「モッチロ――ン」と声を合わせる2人に安心した僕は大急ぎで
店を後にした。
・
・
・
「そらちゃん、どうしたの?」
「えっ、いや……」
大きな体を揺らしながら走り去るショ―ちゃんを見届けてると
突如こちらに向かって何度も何度も大きく手を振り始めた。
「ソラちゃ~ん、ソラちゃんの言う通り明日からやってみるよ!」
そして再び走り出した彼の後ろ姿はあの頃と変わらず真っ直ぐで
勇敢で優しいショ―ちゃんそのものだった。
「ねえねえそらちゃん、ショ―ちゃん前の方がカッコ良かったよね」
「ダ、ダメだよ、ひなそれ言っちゃ。ショ―ちゃん、ああ見えて結構繊細
なんだから」
「そうなの? なんか意外ね。フフッ!」
「だろ~ へへっ!」
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