2-8(11)

 〈シュ――ッ〉〈ガタン!〉〈ゴトン!〉……


 2人以外誰一人見当たらない車内に走行音がいっそう響き渡る。 

 僕は扉上部にある路線図の意味不明な記号を眺め必死に先ほどの村

との関連性を模索するも分かるはずもなく、しきりに首を傾げる中

背後より男が近づく様子がガラス越しに見えた。


「オレたちが向かう先分かるか?」

「えっ! ……こ、この記号だけじゃ分かんないよ」

 すると男は「ココだよ」と何かで記号が削られた跡が残る場所を

指差した。

「記号が消されてるけど元々何だったの?」

「さ~ 何だろね」

「そう言えばお互いまだ名前すら聞いてなかったよな、ボクは

ショ―タって言うんだ、キミは?」

「名前はないんだ」

「えっ? どうしてさ」

「そんな足が付く余計なモノはオレたちの町じゃ必要ないんだよ。

時と場合によっては顔だって平気で変えるんだぜ!」

「どういうことだよ、なんかヤバイ事でもやってんの?」

「いや、特に何にも…… へへっ!」


 この男に会った瞬間感じた怪しさはやはり正しかったようで僕は

防衛本能からか出来るだけプライベートな事は喋るまいと決断したが、

それに反し男が急にペラペラと話しかける様子に正直戸惑った。


「ところでアンタ、どっから来たの?」

「えっ! ま、まぁ……どこでもいいじゃない」

「それにしてもARって村はダメだな」

「ダメって?」

「奴らを騙してひと儲けって思ってたけどみんなベンってヤツと

いっしょで使えねーもん、ダラダラしやがってよ」


「……な、何だよ、その顔は、文句あるのか?」


「いや、別に……」


 僕は徐々にこの男に付いて行って大丈夫なのか心底不安になり始めた。

 もしかすると薬の話は真っ赤なウソで他に何か企んでいるのかもしれない。

 そんな不安でいっぱいの僕はそれとなく薬について聞いてみることにした。


「あのさー 例の薬ってホントだよね」

「疑ってんのか? もちろんあるよ。オレが作ったワケじゃないけどな」

「えっ! じゃ、誰なの?」

 男は路線図を指差し「ほら、ココにSIってあるだろ、ココの科学バカ

が作ったんだよ」と不敵な笑みを浮かべた。

「でもどうやって手に入れたの?」

「ココの住人は変わり者だらけでみんな何がしらの研究してんだよ、

バカみてーに朝から晩までな。でも欲がないからオレが被験者になって

やろうかってちょっと申し出たらタダで大量にくれやがったんだ、ホント

バカだろ」

「じゃキミが実験台になったの?」

「オレが、なるワケないじゃん。他人にやってもらったよ、ウソついて」


「な、何だよ、オマエ時々そういう顔するよね」「まっ、結果はマル

ってことだったから安心しな」


「あ、あぁ……」

 

 なんの悪びれることのないこの名もない男に怒りを通り越し呆れる

ばかりだが列車はトラブルなく彼と同じく名もない問題の駅に到着した。

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