第51話 痛いのが気持ちいい!
「なにそれー! やっぱ君面白いねえ!」
なにがツボに入ったのか、テンションの上がった叶さんに頭を抱え込んでぱしぱしと叩かれる。
柔らかいのは嬉しいけど痛いのは勘弁してほしい。
「いや誤解しないで欲しいんですけど、俺だって暴力は嫌いですよ。でも絡まれたりした時物理で抵抗できるのとできないのじゃ大違いじゃないっすか」
「へえ、結構フェミニストなんだ?」
「いや……自己防衛というか、怪我とかさせたら罪悪感凄いじゃないっすか」
だから、どちらかというと自己防衛的な側面が強い。
「あと叶さん、あんまし騒ぐと婆ちゃん達起きちゃうんで……」
たぶん一人でも起きたら連鎖的に全員目覚めてしまう。いや起こすと思う。
まだお腹も苦しいし、この時間帯からあのテンションに囲まれるのはキツい。
「ごめんごめんっ。でもそれなら安心してよ、あの子言動が不良っぽいからよく誤解されるんだけど、見た目ほど悪い子じゃないからさ。結構可愛いところもあるんよ?」
「学校指定の服も着ずに授業フケるようなやつが……?」
いや言動が不良ならばそれはもう立派な不良なのでは……?
それに、初対面の相手にバカとか変態とか言うような子に可愛いところ……?
それを可愛いと言っていいのは五才くらいまででは……?
そんな疑惑が頭をもたげた。
良い子の定義壊れる。
「違う服? あっ、それってもしかして黒いセーラー服じゃなかった? 古臭いロングスカートのさ」
「え? そうでしたけど」
俺は用具室裏で見た南雲の姿を思い返す。
白っぽい髪と黒いセーラー服のコントラストはかなり印象に残っているし、こんなスケバンのテンプレみたいな制服が存在するのかと感心した覚えもある。
そこに南雲本人の態度と目つきの悪さが相まって完全にヤンキー認定していた。獲物はぜひヨーヨーを使って欲しい。
「うっわマジかあの子!」
「どうしたんすか?」
「あの子さ、クラフトの制服を見た時に“こんな短くてヒラヒラなスカートなんて履けるかー!”って顔真っ赤にして暴れてたんよねえ。あん子小さくて肌も髪も白いからさ、兎みたいで面白かったわ」
「おお……そりゃ確かに可愛いポイント高いっすね。……あれ、でもスカートが嫌ならズボンタイプもありましたよ、制服」
言ってから思い出したけど、そういやズボン履いてる生徒って俺以外に見てないよな。皆スカートだ。
「いやー……それでも女の子だからねえ、ズボンは
「めんどくせえ女……んんんっ、可愛らしいワガママっすね」
「でしょ? それで前の学校の制服そのまま着てるとかウケるよねえ」
一人だけ違う服とかそっちの方が目立って恥ずかしいと思うが、そういう問題ではないのだろう。
いや新入生で前の学校の服だろ? それ中等の服じゃねえか。
今度なんかあったらこのネタで弄ってやろう。いや怒られるかな? なんか叶さんの話聞いてたら怒られてもそんなに怖くない気がしてきたから別にいいや。
「なんか他に弱みないんすか?」
部屋が人形で埋まってるとか抱き枕がないと眠れないとか、最近までおねしょしてたとかでもいいんだが。いや最後ので弄ったら殺されそうな気がする。
マイルドでいい塩梅な弄れるネタはないのか。
「んー、弄れるネタ、ねえ……」
そう都合よくないか。
「あー、あるよ! いいゆすりのネタが!」
いえゆすりまでは求めていませんが。
「あの子ねえ、いい年して小さい子が見るようなアニメ好きなんよねえ。しまじろうとかプリキュアとか隠れて見よるんよ」
「知り合いにも一人居ますよ、そういうタイプの女の子。そいつはアニメじゃなくて特撮ですけど」
「ほーん。それじゃあネタとしては弱いかな?」
「いえ、そいつは見たまんま子供だからアレなんですけど、南雲はそういうの気にしそうなんでいい感じに使えると思います」
しかし自分から欲しがっておいてなんだけど口が軽すぎる。この人本当に南雲の身内か? 妹の弱みをぺらぺら喋りすぎだろ。
まあいい、こんどなんかあったら耳元でプリキュアと囁いてやろう。なくても言ってやろう。
「でもいいんすか? そんなに喋って。あいつ怒りそうですけど」
しかもそれをネタに弄ると公言している相手に。
「いいのいいの。あの子にもそんな風に弄ってくれる友達十人や二十人必要だと思うからねえ」
……今のはすげえ姉さんっぽかった。
けど身内に心配されるほどのぼっちとは、電波とはまた違ったベクトルでアレだな。
絶対弄ろ。
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