第26話 新聞部だけは無い事を祈ってる。

 そんな俺の胸中などお構いなしに進行していくLHRロングホームルームでは、登校場所が教室ではなく体育館であることや、午前中のコマを丸々使って各部活の実演や講演が行われることなどについて説明を受けた。

 ちなみに、俺の身に訪れるであろう“大変なこと”については、ついぞ言及されることもなく。

 いや確かに俺に対するピンポイント爆撃だからクラスの皆にはなんの関係もないんだけどさ。それでもなんか、こう、ね?

 だから直接聞こうと思ったのに、先生は鐘が鳴ると同時に“お疲れ!”とか叫んで帰って行ってしまったし。

 座して明日を待てということか。

 まあいいや、なるようになるだろ。けどそんな風に考えて何かをぶん投げるのはここに来てから何度目だろう。

 そんなことを考えていると、ちょうどカバンを持って立ち上がった様子が目に入った。七生が帰ってしまう前に連絡先を聞きに行こう。


「七生。ちょっといいか?」

「ん……何よ?」

「連絡先教えてくれないか?」

「ナンパ?」

「違えよ、縁起でもないこと言わないでくれ」


 昼休みを除くと、俺から誰かの所に来たのはこれが今日初だからな。ただでさえ目立って仕方がないのに、周りの視線がすげえんだよ。

 そのルクルにしたって、それまでの休み時間の度に向こうから話に来ていたという下積みを重ねた上でのことだし。


「冗談よ。でもあたし今日は急いでるから、ルクルにでも聞いておいてよ。それじゃ」

「お、おう。じゃあな」


 にべもなくあしらわれてしまった。

 えらく早足で帰って行ったけど、避けられてはないよな? ちょっとショックだったんだけど。

 心当たりは……まあ、考えられるとしたら風呂場のアレだよな。ファーストコンタクトとしては限りなく最悪の部類だったと思う。

 七生は水に流すと言ってくれたけど、そう簡単に心の整理はつかないのかもしれない。男の俺にはよくわからないけど……きっと女子には色々あるんだろう。

 仕方ない、とりあえずルクルに連絡先だけでも聞きに行くか……と思ったら、あいつはあいつでもう居ないしよ。

 まあ、ルクルとは同じ部屋だから寮に帰ればそのうち会えるだろう。

 三星さんと舞子さんにも会いたいしさっそく……いや待てよ、そういえば昨日宝条先生はコンビニが有るって言っていたよな。せっかくだから帰る前に一度寄ってみよう。

 バイクが有ったとしてもわざわざコンビニに行くためだけに街まで出るのはアホらしいし、これからお世話になるだろうからな。場所を覚えるためにも一度足を運んでおいて損はないはずだ。

 問題はその場所だが、休み時間の会話でルクルが校舎を出た所に公園とかで見るような地図が置いてあると言っていた。朝来た時は急いでいて気付かなかったが、まずはそれを探してみよう。



 それからしばらくして、下履きに履き替えた俺は校舎のすぐ側の、これに気付かないとか俺の目は節穴か? ってくらいわかりやすい場所に在る地図を眺めていた。

 うーむ……こうして全体図を見ると、実に馬鹿げた広さだと改めて感じさせられる。かなり縮尺されてるみたいだけど、それでもお城とかの観光地に置いてある案内板みたいなサイズだ。

隅っこの方で定規めいたメーターが距離の目安を教えてくれているが、これ倍率は何分の一だろう。

 左横に記されているアイコンの一覧と照らし合わせてコンビニの位置を探すと、どうやら全部で三店舗あるらしい。街中で考えると少ないけど、一つの学校の敷地内なら充分だろう。

 というかほんと色々あるなこの学園。劇場はともかく映画館って何だよ。どうせならゲーセンも作ってくれよ。いや有ったわ。待てよカラオケも有る。嘘だろ?


 ぷるるるるるるる。


「あ、もしもし。おい電波、ゲーセンもカラオケも有るじゃねえか」

「そうなの? 学校じゃ家族といけないから知らなかったわ」

「おつかれ」


 ぷつ。


 さーてと、コンビニに行こう。

 寮から一番近い店はどこかな?


 俺は再び地図を見る。ここから寮への移動でかかる時間を参考にして考えると……歩いて十分、十五分くらいか。地図にはコンビニとしか書いてなかったけど、どこのテナントが入ってるんだろうな。ミニストップだと嬉しいけど。

 コンビニに向けて歩き出したところで、ポケットに直したばかりのスマホが震え出した。電波が掛けなおしてきたのかな……と思って取り出すと、真露からの着信だ。どうせしょうもない要件だろうけど、あいつは出るまで鳴らし続けるからな。とっとと出てしまおう。


「もしもし。どうした?」

「みらいちゃん、明日部活の説明会みたいだけど、どこに入るか決めた~?」

「いや明日説明されるんだから今の段階で決まってるわけないだろ」

「おおうっ、その通りだ! でもその言い方だと、今回は帰宅部じゃないんだね~」

「どっかに入るのは強制らしいからな。楽そうな部活か委員会を選んで入る事にするつもりだよ。そう言う真露は何か考えてるのか?」

「ん~……あ! みらいちゃんが入った部活にわたしも入ろうかな!」


 主体性をどこかに落っことしたような台詞を、あっけらかんと言ってのける真露。


「別にそれでもいいけどよ、俺が何に入るかわかんねえんだぞ? ボクシング部とか入ったらどうするつもりだよ」

「みらいちゃん、女の子叩ける?」

「……無理だわ」


 サンドバッグになるだけだと思うし、そんな趣味はない。一部の人種にはご褒美なんだろうけど、少なくとも俺には。


「でも、せっかくだからこの学園にしかないようなものに入ってみたいね」

「あー、それは確かに」


 この学園ならぶっ飛んだ部活とかありそうだしな。

 実際ひよこ鑑定部なんか他の学校じゃ絶対ないだろ。あれはもう廃部になったらしいけど。


「まあ、明日になりゃどんなのがあるかもわかるだろ。我慢出来ないなら調べるか誰かに聞いてみればいいんじゃないか?」

「ん、そだね。でも明日の楽しみにしとくよ~」

「そうか。じゃまた明日」

「うん。また明日~」


 真露と通話しながら歩いていると、もうコンビニが見える所まで来ていた。

 いい時間潰しになったな。

 そしてあの看板はミニストップじゃない、ファミリーマートだ。

 ミニストップのホットドッグが食えないのは残念だが、しょうがない、ファミチキで我慢してやろう。

 俺は意気揚々とコンビニに乗り込んだ。


「しゃせー」


 自動ドアを通り抜けると、お馴染みの音楽に乗ったやる気のなさそうな店員さんの声に迎えられる。

 女子校だからか、若い女性のものだ。

 それにしたって若すぎるような。俺と同じくらい、いやそもそもどこかで聞き覚えのある声な気がする。作業中で棚の方を向いているから顔はわからないが、後で確認してみよう。

 店内を一通り周ってみると、品ぞろえは街中のコンビニとそん色ない。流石に女性向け商品の方が多いけど、アルコールやタバコまで売られている。先生や職員に向けた商品だろうけど、学園の中でそれはどうなんだ。タバコはともかく酒は買う側も気が引けそうなものだが……そんなことを俺が気にしても仕方ないよな。

 ちなみに、成人向け雑誌は流石に置いていなかった。客層の九分九厘が女子だろうし、数少ない男性客にしたって買う勇気はないだろうかろ当然だわな。

 夜に部屋で飲むようにピルクルを……ついでだからルクルにも一本買っていってやろう。

 俺は二本のピルクルを手にレジへと向かい、そこへさっきの店員さんがやって来る。


「七生じゃねえか」





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る