いもいも

寒くなったと思ったら暑くなったり。極端な気温の変化に動揺したのか、近所の桜もおもむろに咲き始めた。

 それでも金木犀は花をつけるし、空を見上げればうろこ雲が浮いているのだ。ちゃんと秋は秋なのである。

 秋……秋といえば。


「たき火をしてはならんのか?」


 芋を手にした武士が、私にそんなことを聞いてきた。どうやら焼き芋を楽しみたいらしい。


「幸いにして、落ちたてピチピチの葉が公園のそこかしこにある。どうだ」


 いやー、最近は条例とかで色々制限されてるんだよ。あと煙が出るとなれば、洗濯物に臭いがついたりするだろ。住民密集地帯で迷惑かけちゃいけない。


「その者にも芋を分け与えればいいのではないか?」


 そんな賄賂みたいに芋を……。悪い案じゃないけど、果てしなく芋が無くなると思うな。下手すりゃ、マンションの住民全員に芋配りおじさんしなきゃいけなくなる。


「二つの意味で口封じできるかと思ったのだが」


 その前に我々の首が回らなくなるよ。我々っつーか、私の。


「焼き芋―……」


 別に自分でやらなくても、スーパー行きゃ普通に売ってんのに。


「たき火で温まって腹も膨らませる。これが秋の醍醐味ではなかったのか」


 半袖半ズボンの人が何か言ってる。


「たき火があれば『そうか、今は寒いのか!』と某の体が勘違いして、自ずと涼しくなれるのではとも思ったのだが……」


 ここにも気温差で頭がやられたやつがいたか……。

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