図書館

「ここにも貸し本屋はあるのか?」


 ある日、そんなことを聞かれた。貸し本屋……レンタル漫画とかDVDとかじゃなくて?


「某、本が読みとうござる」


 なるほどね。じゃあ図書館だ。

 そういう理由から、武士を図書館に連れて行くことになったのである。とはいえ、ちょっと危惧していたのだ。忘れがちだが、武士は本来江戸時代の人間だ(もう二、三年はうちにいるけど)。歴史書なんて読んで江戸時代から現代までの歴史を網羅してしまえば、江戸時代に戻った時にノストラダムスばりの予言者になってしまいかねない(まあ全然帰る気配無いけど)。それだけじゃない、歴史を塗り替えてしまったせいでパラドックスを生じさせれば武士が過去に帰った瞬間今ここにいる私が消えてしまうなんてこともありうるのだ(武士にそこまでの影響力があるとは思えないけど)。

 ちょっとSFに寄ってしまったが、武士を図書館に連れて行く危険性はおわかりいただけたと思う。武士が変な本を選んでしまわないよう、しっかり見張っておかねばならない。

 だがそんな心配はすぐに霧散した。奴は図書館につくなり、まっすぐ『こどもえほんコーナー』に突き進んでいったのである。明らかに子供がざわついてたわな。

 それならいっか、ってことで、武士が本を選んでいる間に私も図書カードを作ることにした。この辺りに住み始めたのは、社会人になってからなのである。本といえばもっぱら買う専だったので、なんとなく図書館からは足が遠のいてしまっていたのだ。

 へー、二十冊まで借りられるのか。太っ腹だな。最近はネットで期間延長できるんだ。ありがたい。


「大家殿」


 はいはい、なんかいい本あった? いや何そのやけに画圧がすげぇ絵本。見たことある、その絵柄見たことあるぞ。


「ガタロー☆マン殿の最新作である。これを借りたい」


 漫☆画太郎先生、絵本界に進出してたんだ……。ちょっとあとで読ませてくれよ。


「じゃんけんに勝って手に入れた」


 お前バカ何幼児と張り合ってんの! そこは大人げというものを見せろよ、すぐに返せ!


「だが相手も成人男性でな。本気勝負の末に勝ち取ったものゆえ、大家殿は口を出さんでいただきたい」


 あ、そう……幅広い人気があるのね、その絵本。

 ところで武士に「二十冊まで借りられるよ」と伝えたら卒倒しそうなほど喜んでました。はは、読めるだけにしとけよ。二週間しか借りられないんだから。


 ――このときの私は、まさか見学のつもりで館内を歩き回った結果、五冊の本を抱えることになるとは思いもよらなかったのである。

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