弟の話
私には、四つ年下の弟がいる。
小学生の頃は、給食費の入った袋を近所のポストに突っ込んで登校するようなド天然だった。中学生の頃は、当時高校生二年だった私が言った「高校には別の学校と繋がるワープゾーンがある」という嘘を綺麗に信じる素直な奴だった(未だに恨まれている)。
で、なんでソイツを話題にしたかというと。
『俺、整形するわ』
ある日突然、そんな連絡が来たからである。
「整形か。それは難儀であるな」
そしてミカンを貪り食ってた武士が、うんうんと心得顔で頷いた。
あれ、お前整形って何か知ってんの?
「うむ。江戸にもそういったお医者はおったからな」
ほーん。
あれかな、“ほねつぎ”ってやつかね。
うちの弟は、もともと顎の骨が大き過ぎるみたいでさ。それで昔から色々苦労したらしいのよ。だから私としても、手術で楽になるなら良かったねって思ったんだけど。
「うぬ」
……なんせ入院ありきの話だからさ……このご時世ということで、時期が伸びに伸びてるらしく……。
「ああ……」
うん……。
「早く……お医者にかかれると良いな……」
うん……。
そんな話をしたのが、大体半年前のこと。
このたび、晴れて奴は手術を受けることができ、先日退院したらしい。
『病院に殺されるかと思った』
そして電話口にて、奴はそう言ったのである。
えー何、どしたの。まさか死ぬほど雑な施術されたとか……。
『術後超痛かった』
それは医者のせいじゃねぇわ。
『だから口が全然開かなかったんだけどさ。なのに食事でムースが出て』
うん。
『でも口開けられないから食えねぇの。酷くない? 俺超ムース好きなのに……』
知らんがな……。
『……』
え、終わり!?
終わり!!? フリに対してエピソード弱くない!!???
その後、写真が送られてきた。
弟の顎は確かにコンパクトになり、イケメンが増したと思う。
『あと、入院中に痩せたからダイエットも始めてみた』
ほう。
『サウナと筋トレの合わせ技は最高だぞ。俺細マッチョになった』
おめでとう。
『おすすめのプロテインある?』
その辺りは全く知らんので、武士に代わることにした。すると奴らは何か意気投合したらしく、キャッキャと長電話をしていた。
「弟者は良き男であるな! 軟弱な大家殿も見習って、少しは鍛えるが良いぞ!」
挙句そんなことを言って新しいプロテインをせがんできたので、武士には軽めのローキックをかましておきました。
そんな弟、只今絶賛婚活中です。角度によっては斎藤工さんに見えなくもないので、どなたかよろしくお願いします。
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