半纏

 私の持っている半纏が、ゲロほど不評である。


「選ぶ余地は無かったのか?」(年齢不詳・男性・武士)


「どこで買ったの? 地獄?」(年齢秘匿・女・主婦)(姉)


「それ臭いの?」(三歳・男)(甥)


 散々である。特に甥っ子からの言葉は、邪気が無い分心臓に刺さった。言っておくけど断じて臭くない。


「大家殿! 例のおぞましき柄の半纏はちゃんと洗っておいたぞ!!」


 だから臭くねぇっつってんだろ!

 どいつもこいつも、純なサラリーマンの心を抉るんじゃない!


「ところで、何故その柄にしたのだ?」


 味噌汁をすすりながら、武士が私に尋ねる。んんん……何故って言われてもな。シンプルに、暖かい半纏が欲しかっただけなんだけど。


「……某、古きものはなかなか捨てず、節制を良しとする男なのだが」


 うん。


「それでも、その半纏は、新しくすべきだと思う」


 節制を良しとする男にまで言われちゃったよ。これ買って二年ぐらいなのに。


「どうせなら某も欲しい」


 まあ別にいいけど……。


「半纏なら、江戸に持って帰っても驚かれぬだろうしな!」


 だから私の家から物資を持って帰ろうとするんじゃないよ。やめなさいよ、そういう節制。

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