甥襲来・後編

 子供の寝かしつけとかもしたこと無いんだけどね。でも、漠然と子供って勝手に寝るもんだと思ってたんだよ。


 まさか寝ないとはな。


「んぎゃあああああああああちょんまげきらいいいいあああああああママアアアア!!!!」

「んぬぅっ! お、大家殿! チビ殿はぱすたを所望しておられるぞ! 疾く用意せよ!」


 違う違う、ママってスパゲッティのマ・マーじゃねぇんだよ。お母さんのことをママって言ってんの。お母さん呼んでんの。

 ああでも、お腹空いてんのかな。そういやそろそろオヤツの時間か。


「おやちゅ」


 お、泣き止んだ。


「おやつ」


 お前はいいんだよ。何なら代わりに泣いといてくれ。

 いやいいわ。幼児が泣くのはまだしも、いい歳した武士が泣き喚くのを見るのは精神的に辛い。


「おやちゅー」


 おお、おお、いっちょまえに歩いて冷蔵庫を開けおる。冷蔵庫に何かあったかな。

 んんー……でも、勝手にチョコとかあげていいのだろうか。姉さんは、アレルギーは特に無いって言ってたけど……。


「ぐぁたん」


 ん?


「ぐぁーたん」


 見ると、幼児が冷蔵庫の中段を指して何か言っている。その指の指す方向を確かめてみると、グラタンの素と書かれた箱があった。

 なるほど、グラタン。そういやこの間作ったっけな。

 何、グラタン好きなの?


「すき!」


 あ、そう? だったら作ったげるよ。時間もかかんないし。

 そんなに量も多くないけど、オヤツ的な分量にしといたらいいかな。それで余った分は私が食べて……。


「グラタン!!!!」


 ダメだこれ武士が食べるやつだわ。

 こうして、私は正座する武士と幼児の圧を背中に感じながらグラタンを作ったのである。二人とも綺麗に完食した。


 その一時間後に姉が迎えに来て、幼児は無事引き取られていった。最後、武士は「ちょんまげだいすきー!」と幼児に抱きつかれ、今にも泣きそうになっていた。


「グラタンもだいすき!」


 ありがとう。でも私の名前はグラタンじゃないんだよ。


 まあ、たまにはこういうのもいいものだ。さっきからずっと武士がシルバニアファミリーにくっついているが、気にしないことにする。

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